Renoirのデスクトップ版「Ryzen PRO 4000Gシリーズ」3モデルの性能を検証

文●加藤勝明(KTU) 編集●ジサトラハッチ/ASCII

2020年07月30日 11時00分

Ryzen PRO 4000Gシリーズは
GPU内蔵CPUのレベルを劇的に押し上げる

 2020年7月30日11時(日本時間)、AMDはRadeonグラフィックス搭載の新APU(GPU内蔵CPU)「Ryzen 4000シリーズ・デスクトップ・プロセッサー」の国内販売を解禁した。型番は既存のRyzenよりも1世代新しいように見えるが、設計的にはCPU部は既報のRyzen 3000/3000XTシリーズと同様のZen2、GPU部はVegaを組み合わせたものだ。

 Zen2+VegaのAPUに関しては、ネット界隈では“Renoir(開発コード)”の名で知られていたものだ。今回AMDは、この新APUをコンシューマー向けの「Ryzen 4000シリーズ・デスクトップ・プロセッサー」とビジネス向けの「Ryzen PRO 4000シリーズ・デスクトップ・プロセッサー」(以下、Ryzen PRO 4000Gシリーズ)の2ラインで展開している。AMD関係者にヒアリングしたところ、PRO付きもPROなしもOEM向けの製品群であり、PCパーツとしての単品販売は想定していないとのことだ。

 だが本邦では、Ryzen PRO 4000Gシリーズのうち「Ryzen 7 PRO 4750G」「Ryzen 5 PRO 4650G」「Ryzen 3 PRO 4350G」の3モデルが、DIY市場に“バルク品”として流通することになった。ここ最近のPC業界では、グローバルで流通しているのに日本は蚊帳の外(いわゆる“おま国”)なことが多かったが、今回は全くの逆なのが面白い。

 価格については既報の通り、Ryzen 7 PRO 4750Gが税込4万3978円、Ryzen 5 PRO 4650Gが税込2万9678円、Ryzen 3 PRO 4350Gが税込2万1978円になっている。国内販売分のRyzen PRO 4000Gシリーズは「CPUのみ」がブリスターパック(AM4系CPUを買うと手にするプラの透明ケースのことだと思われる)入りで提供されるため、基本的にCPUクーラーは付属しないようだ。ただショップによりマザーボードとセット販売、あるいは対応CPUクーラーとセット販売になる可能性は十分考えられる。お買い求めの際はその辺も注意してみるとよいだろう。

今回入手したRyzen 3 PRO 4350Gの検証用個体。型番のPROに注目

同じくRyzen 5 PRO 4650G

同じくRyzen 7 PRO 4750G

 今回は国内で販売されるRyzen PRO 4000Gシリーズ3モデル全てを試す機会に恵まれた。既存のRyzen 3000シリーズやRyzen 3000Gシリーズに比べてどの程度進歩したのか? 今回は解説兼速報ということで、ベンチマークの分量をやや抑え、Ryzen PRO 4000Gシリーズの見どころを中心にお届けしたい。

APUも8コア版登場でインテルの牙城を崩せるか?

 では最初に販売が始まったRyzen PRO 4000 Gのスペックや特徴をまとめておきたい。アーキテクチャー的にはCPU部がZen2、GPU部がVegaであり、既存のRyzen 3000 Gシリーズと比較するとCPU部の世代が1つ新しくなり、現行のRyzen 3000シリーズに「近くなったもの」といえる。

本邦で流通が始まったRyzen PRO 4000Gシリーズとその近傍の製品のスペック。既存のCPUの価格情報は7月28日時点の実売価格。Ryzen 3 3300Xは大人気のため、初値よりも値段が上がっている

Ryzen PRO 4000Gシリーズの外観は、既存のRyzenシリーズとほとんど変わらない。製品名の型番にPROが付いている以外特別な部分はない

裏面のピン配置も共通だ。ただ中央のピンのない部分に走っているパターンは、現行のRyzenシリーズと明確に異なる(Ryzen 3000シリーズは縦一直線に走る)

 Ryzen PRO 4000 Gシリーズの詳しい技術解説については、既に大原氏が詳細な記事を上げている。詳しく知りたい方はそちらをご覧いただくとして、ここでは注目すべきポイントを挙げるのみにとどめたい。


●物理コア数は4/6/8コアの3モデル&TDP65W、GPUなし版よりもクロックはやや下

 先世代のRyzen 3000Gシリーズは4コア(C)/4スレッド(T)もしくは4C/8Tの2モデルしか存在しなかったが、今回は4C/8Tから始まって6C/12T、さらに最上位は8C/16Tとコア数が大幅にアップした。コア数だけを見れば、Ryzen 3000シリーズの方が安くてコア数の多いモデルが手に入るが、内蔵GPUを持たないためビデオカードの組み込みが必須になる。だがRyzen PRO 4000Gシリーズならば、ビデオカードを省略できるためASRock「DeskMini」のような小型PCで運用できるのは大きなメリットだ。

 動作クロックについても前掲のスペック表の通り、同コア数のX付きモデルと同じか、それより微妙に低い値に設定されている。GPUを統合したことでCPUと電力を分け合うことになるため、TDP65Wのまま同クロックで納めるのは少々厳しいのかもしれない。

「CPU-Z」でRyzen 3 PRO 4350Gの情報を拾ってみた。右下のCoresとThreadsの値に注目

同様にRyzen 5 PRO 4650Gの情報

最上位であるRyzen 7 PRO 4750Gの情報

●CPUはZen2だがキャッシュ構成が異なる

 CPU部の設計は(GPUを持たない)Ryzen 3000シリーズと同じZen2をベースにしているが、L3キャッシュが大幅に削減された。Zen2の場合CCX(2〜4コア)ごとに16MBのL3キャッシュが割り当てられていたが、Ryzen PRO 4000GシリーズではCCXごとに4MBに減らされている。

 先の大原氏の解説にもある通り、Ryzen PRO 4000Gシリーズは必要な回路を単一のダイに集約(モノリシックダイ)しているため、コストと実装面積のバランス的にL3を削ったと考えられる。

「coreinfo」でRyzen 3 3300Xのコアとキャッシュの繋がりを確認した。左側の**のペアが物理コアとSMTで増えた論理コア(大きく4つのブロック=4コア分ある)を示している。L3キャッシュは16MBであり、全てのコアに繋がっていることを示している

Ryzen PRO 4350Gでも、コア数は4基で1つの大きなL3キャッシュを共有しているので、Ryzen 3 3100ではなく3300X路線のCPUであることが分かる。L3キャッシュが4MBと小さくなっている点に注目

Ryzen PRO 4750GだとL3キャッシュが2つあり、それぞれ4コアずつを受け持っている

●PCI ExpressはGen3までの対応

 Zen2といえばコンシューマー向けCPUとしてはPCI Express Gen4に対応した最初のアーキテクチャーだが、Ryzen PRO 4000GシリーズはPCI Express Gen3までの対応になる。つまりCPUに直結するM.2スロットもPCI Express x16スロットもGen3までの動作となる。もちろん既存のGen4対応のSSDやビデオカードはGen3相当の性能になるだけで問題なく動作する。

 PCI Express Gen4接続のM.2 NVMe SSDを使って高速ストレージ環境を夢見ていた人には残念な話だが、本シリーズが想定しているユーザ層を考えれば妥当な選択と言えるだろう。

Ryzen 7 PRO 4750G+B550マザーにGen4対応のSSDを組み合わせても、Gen3相当の速度しか出ない

 上図は検証に使用したB550マザーボード(ASRock「B550M Steel Legend」)とRyzen PRO 4750Gを組み合わせ、CPUに近い側のM.2スロットにPCI Express Gen4に対応したCorsair製M.2 SSD「Force MP600」を接続。「CrystalDiskMark」で読み書き速度を計測したところ、Gen3相当の速度しか出なかった。「CrystalDiskInfo」上でもGen4対応のSSDがGen3接続になっていることが読み取れる。

Ryzen 7 3700X+B550だと、Gen4相当の速度になる

 上の画像と同じ環境でCPUをRyzen 7 3700Xに、GPUをRadeon RX 560にした環境でCrystalDiskMarkを試したところ、ちゃんとForce MP600の性能が引き出せていた。PCI Express Gen4の性能が引き出せないのは、CPU由来の制限であることが確認できたわけだ。

Ryzen 7 PRO 4750GにRadeon RX 5700リファレンスカードを組み合わせても、Gen3でリンクする

 ビデオカードに関しても検証してみた。上と同じRyzen 7 PRO 4750G環境にPCI Express Gen4に対応した「Radeon RX 5700」のリファレンスカードを装着。「GPU-Z」で接続状況を読み取ると、GPUはGen4対応だが接続はGen3であることが確認できた。

 ただ注目すべきポイントとして、Ryzen 3000Gシリーズではビデオカードを接続してもx8接続でリンクしていたが、Ryzen PRO 4000Gシリーズはx16接続になっている。この点は進歩といえるだろう。


●対応チップセットはB550以降。ただし対応BIOSがあれば400シリーズでも動作可能

 今回気をつけたいのがマザーボードの対応だ。AMDのSocket AM4は長期間使えることが強みとされているが、AM4ならずっと使えるという訳ではない、という話になってきた。Ryzen PRO 4000Gシリーズを含む4000番台の型番が付くCPUやAPUは、X570やB550といった新世代のチップセット環境での運用が推奨され、B450等の旧世代チップセット搭載マザーボードでの動作は対応BIOSが出ない限り利用不可、となっている。

 今回のRyzen PRO 4000Gシリーズもマザーボードによって対応BIOSが出るものと出ないものに分かれており、Ryzen PRO 4000Gシリーズを使いたければ自分のマザーボードのBIOSを「AGESA Combo V2 1.0.0.2(表記はマザーメーカーにより微妙に異なる)」以降のものにアップデートしておく必要がある。

 ただアップデートすると一部旧世代CPUが使えなくなるため、人によってはBIOSをアップデートしても確実にブートできるCPU(例えばAthlon 3000Gのようなもの)を確保する必要もあるだろう。

本来A320などの旧世代チップセットではRyzen PRO 4000Gシリーズは対応しないが、ASRock「DeskMini A300」のようにAGESA Combo V2 1.0.0.2ベースのBIOSが提供されるものもある。ただこれを適用してしまうと、Bristol Ridge世代のAPUは使えなくなってしまう。(2020年8月6日追記:現在はこのBIOSは取り下げられている。ASRockによれば、DeskMini A300では動作の安定性に問題があったからとのこと。なお、同日ASRockはRyzen PRO 4000Gシリーズに対応した新製品「DeskMini X300」を発表した。)

 ちなみに、今回検証に用いたB550マザーボードでも、初期出荷BIOSはRyzen PRO 4000Gシリーズに正式対応しておらず、同シリーズで使うにはBIOS更新が必要となった。筆者が今回使用したB550マザーボードの場合、初期出荷BIOSでもRyzen PRO 4000Gシリーズは正常にブートさせられたが、CPUの型番が正しく認識されないなどの軽微な不具合があった。万全を期すなら対応BIOSへの更新が確認できたマザーボードを準備しておこう。

ASRock「B550M Steel Legend」の場合、AGESA Combo V2 1.0.0.2対応のBIOS P1.10はマザーの販売開始後に公開された。BIOS P1.0でもRyzen PRO 4000Gシリーズは問題なく起動したが、CPUの型番が正しく表示されない不具合がある

●内蔵GPUは前世代よりも改善されたが規模縮小

 Ryzen PRO 4000Gシリーズに統合されたGPUは「Radeon Graphics」とボカされた名称になっているが、中身は前世代と同じVega(GCN)ベースのものだ。前世代よりも細かな改善が入っているGPUだが、CU数だけを見るとむしろ少なくなっている。CU数(1CU=64SP)の減少で描画性能は下がってしまうが、その分メモリークロックをDDR-2933から3200へ引き上げることでバランスをとっている。

 ユーザー的には現行のNaviを使って欲しかったところだが、まだ色々と乗り越えるハードルがあるのだろう。この当たりに対する考察は、大原氏の鋭い視点をご一読いただきたい。

「GPU-Z」でRyzen 3 PRO 4350Gの情報を拾ってみた。Radeon Graphics 6なのでSP数は384基(64×6=384)、内部的にPCI Express Gen3のx16で接続されていることが示されている

同じくRyzen 5 PRO 4650Gの情報。なぜか接続がPCI Express Gen4 x16になっているが、何かの不具合だと思われる

SP数512基のRyzen 7 PRO 4750Gの情報。SP数512基といえばRyzen 3 3200GとSP数は同じだが、どの程度のパフォーマンスアップが期待できるのだろうか?

GPUドライバーはディスクリートのRadeonと同じ「Radeon Software Adrenalin 2020 Edition」を使う

GPUの使用率や温度をモニタリングする機能もそのまま

VegaだからFruid Motion Video(FMD)が使えるのでは……? と期待していた諸兄には残念だが、「ビデオ」タブ内にFMDに関係する設定項目はない

最新のAdrenalin EditonだからFMDが使えないのでは? と思いPolaris世代のRadeon RX 560環境に最新ドライバーを入れてチェックすると、FMDの項目が出現。少なくともデフォルト状態ではドライバーのせいではなくGPUを見てFMDの設定を出すかどうか決めているようだ

●CPUの倍率変更はできない

 Ryzen PRO 4000GシリーズはCPUの倍率にロックがかけられている。つまり倍率を換えてOCすることはできないのだ。本来ビジネス市場向けのCPUである以上当然だ。どうしてもオーバークロックがしたければ、現状ではRyzen PRO 4000Gシリーズが組み込まれたPCを買ってきて、そこからAPUだけを取り出して遊ぶしかない。

AMDのサイトに上がっているRyzen 5 PRO 4650Gのスペックを見ると「アンロック」の欄が「いいえ」、つまり倍率がロックされ固定であることが示されている

Ryzen 5 4600Gの場合は「アンロック」が「はい」なのでOCも可能なのだが、ただの4600Gは「OEM Only」。(今のところは)パーツ単品売りされる予定は皆無なのだ

旧世代APUに加えRyzen 3000シリーズ、第10世代Core i7とも比較

 では今回の検証環境を紹介しよう。マザーボードは今回の検証用にと提供されたものを使っている。BIOSはRyzen PRO 4000Gシリーズに対応したBIOSに更新した上で検証を行なった。 比較対象として旧世代のAPU、即ちRyzen 3000Gシリーズ2モデルのほかに、GPU機能を持たないRyzen 7 3700X/Ryzen 5 3600X/Ryzen 3 3300Xの3モデルをチョイスした。

 Ryzen 3 3100Xではなく3300Xを選んだ理由は、前掲の通りRyzen 3 PRO 4350Gと3300Xはともに1CCXに4コア全てが入っているためである。Ryzen 3000シリーズに組み合わせるビデオカードはちょうど良い物がなかったが、補助電源なしで動作するRadeon RX 560を組み合わせた。

 さらにインテル系の代表として、第10世代Coreプロセッサーから「Core i7-10700K」をチョイスした。Ryzen PRO 4750Gと同じ8C16Tで内蔵GPUを備えているため、比較用としてはうってつけだろう。

 その他のパーツは極力同じものを準備したが、CPUクーラーはRyzen PRO 4000Gシリーズに付属しないという話が来たので、Wraith系ではなくENERMAX製「ETX-N31-02」を組み合わせた。9cmファンを備えた小型CPUクーラーゆえに冷却力が心配になるかもしれないが、今回使用したどのCPUでもサーマルイベントを発生させずに動画エンコード等の実作業系テストを完走させている。つまりサーマルスロットリングに起因する速度低下は除外できる環境である、ということだ。

【検証環境】
CPU AMD「Ryzen 7 PRO 4750G」(8C/16T、3.6~4.4GHz)
AMD「Ryzen 5 PRO 4650G」(6C/12T、3.7~4.2GHz)
AMD「Ryzen 3 PRO 4350G」(4C/8T、3.8~4.0GHz)
AMD「Ryzen 7 3700X」(8C/16T、3.9~4.4GHz)
AMD「Ryzen 5 3600X」(6C/12T、3.8~4.4GHz)
AMD「Ryzen 3 3300X」(4C/8T、3.8~4.3GHz)
AMD「Ryzen 5 3400G」(4C/8T、3.7~4.2GHz)
AMD「Ryzen 3 3300G」(4C/4T、3.6~4GHz)
インテル「Core i7-10700K」(8C/16T、3.8~5GHz)
マザーボード ASRock「B550M Steel Legend」(BIOS P1.10)
ASRock「Z490 Steel Legend」(BIOS P1.20)
メモリー G.Skill「F4-3200C16D-16GTZRX」
(DDR4-3200、8GB×2、CPUの定格で運用)
ビデオカード ASUS「ROG-STRIX-RX560-O4G-EVO-GAMING」
(Radeon RX 560、Ryzen 3000シリーズのみ)
ストレージ Corsair「CSSD-F1000GBMP600」
(NVMe M.2 SSD、1TB)
電源ユニット SilverStone「ST85F-PT」
(850W、80Plus Platinum)
CPUクーラー ENERMAX「ETS-N31-02」
OS Windows 10 Pro 64bit版(May 2020 Update)

Ryzen 3000シリーズよりもやや下回る性能

 今回は速報ということで、基本的なベンチマークでの検証にとどめたい。まずは定番「CINEBENCH R20」のスコアー比べからいこう。

「CINEBENCH R20」のスコアー

 まず旧世代のRyzen 3000Gシリーズと比べると、大幅にスコアーが伸びていることがわかる。コア数が同じRyzen 5 3400GとRyzen PRO 4350Gを見れば、マルチスレッドで約22%、シングルスレッドで約17%伸びている。Zen+からZen2ベースに変わったことと、メモリークロックがDDR4-2933から3200に引き上げられたことがパフォーマンス面に大きな影響を及ぼしていることは明らかだ。

 そして、同コア数のRyzen 3000シリーズと比較すると、Ryzen PRO 4000Gシリーズはどれも3000シリーズよりも微妙に下になっている。クロックがやや抑えられているほかに、Ryzen PRO 4000Gシリーズ特有のメモリーの暗号化機能(AMD Memory Guard)の存在、さらにGPUもパワーを使うのでCPUと電力の綱引きをするなど、若干パフォーマンスが落ちる要素が揃っている。だがこの程度の下落なら遜色のないレベルといって差し支えない(Ryzen 7 PRO 4750Gのようにシングルスレッドが若干上がっている点もある)。

 そしてライバルであるCore i7-10700KとRyzen 7 PRO 4750Gとを比較すると、さすがに高クロック動作を誇るだけあってマルチスレッドのスコアーはCore i7-10700Kに一歩譲ってはいるものの、シングルスレッド性能では完全に肩を並べている。これまで物理6コア以上でGPUを内蔵したCPUとなればインテル一択だったが、Ryzen PRO 4000Gシリーズの登場で選択肢が一気に増えたと言うべきだろう。

 続いてはシステム全体の消費電力をラトックシステム「REX-BTWATTCH1」で計測した。“アイドル時”とはシステム起動10分後の安定値を、“高負荷時”とは「OCCT PRO 6.1.0」の「Power Supply」テストを10分回し、その時のピーク値を示している。

システム全体の消費電力

 まずRyzen 3000シリーズにはビデオカード(今回はRadeon RX 560)が付いているので、アイドル時の消費電力が高くなるのは当然だ。加えて今回はCPUもGPUもフルで回すPower Supplyテストを使っているため、高負荷時の消費電力も必然的に高くなる。Ryzen PRO 4000Gシリーズと3000シリーズに大きな差が付いているのは、Radeon RX 560の存在によるものが大きい。

 グラフの一番下、Core i7-10700Kの高負荷時消費電力がブッチ切りで高い値を示しているのは、明らかに第10世代CoreプロセッサーとPL1無制限でアクセルを踏み込む設計のせいだ(Core i7-10700KとETS-N31-02の組み合わせの場合、3分程度でサーマルスロットリングに入ってしまう)。

 Ryzen PRO 4000Gシリーズ単体で見ると、これはもうCPUとGPUのスペック順にキレイに並んでいるとしか言いようがない。それでも先代のRyzen 3000Gシリーズと同等〜それ以下の消費電力に収まっており、7nm化による消費電力の削減が極めて有効であることが窺える。

 最後にGPUのパフォーマンスを「3DMark」のFire Strikeで見てみよう。

「3DMark」Fire Strikeのスコアー

 まず今回検証した個体では、Ryzen 7 PRO 4750Gでは完走できなかった事を先に述べておきたい。ドライバーは既にAMD公式サイトに上がっている「Adrenalin 20.7.2」を使っているし、BIOSもこの次点での最新(P1.10とP1.10Aの2種類があるが、結果は同じ)だったが、4750Gのみ動作が芳しくなかった。加えて別のマザーボード(GIGABYTE「B550 Vision D」)でも同じだったため、これは検証用に提供されたRyzen 7 PRO 4750Gの個体不良と考えてよさそうだ。

 ではそれ以外のRyzen PRO 4000Gシリーズの傾向を見ると、ディスクリートのRadeon RX 560には遠く及ばないが、インテルの内蔵GPU(UHD Graphics 630)よりも2倍以上高いスコアーを出している。旧世代の3000Gシリーズよりも、SP数が控えめなRyzen PRO 4000Gシリーズの方が全般的にスコアーが高くなっている点にも注目だ。

CPU/GPUともに良好な性能
インテルの優位性がまた1つ消える

 以上でRyzen PRO 4000Gシリーズの速報レビューは終了だ。残念ながら筆者に提供されたRyzen 7 PRO 4750Gの内蔵GPUが不良疑惑のある個体だったものの、CPUのパフォーマンス自体はRyzen 7 3700Xに肉薄する性能であることは確認できた。

 下位モデルもRyzen 5 3600XやRyzen 3 3300Xに迫る性能を発揮しており、「GPU内蔵Ryzen」としてさらにバランスの良い製品に仕上がったといえる。PCI Express Gen4に対応していないのは残念なところだが、Gen4に対応したところでM.2 SSDしかメリットのないことを考えれば、B550マザーボード+APUで満足できるユーザーにとって大きな痛手とはならない。

 純粋に性能を求めるなら既存のRyzen 3000シリーズの方が良いことは確かだが、ゲームをする予定のないのに消費電力が増えてしまうビデオカードを別途買う必要がないことを考えると、Ryzen PRO 4000 Gシリーズはライトユースユーザーには極めて有効な選択肢であるといえる。

 そして何より、Ryzen PRO 4000Gシリーズの登場により、今までインテル製メインストリームCPUが持っていた「物理コア数が多いのに内蔵GPUもある」というアドバンテージが消えた点を力説しておきたい。これまでのRyzen 3000Gシリーズは安価ではあったが動画編集等のCPU負荷の高い作業をさせるには力不足だった。

 しかし、今回Ryzen 7 PRO 4750Gが登場したことで大きく事情が変わった。Core i9-10900Kと同じのコア数には到達できなかったものの、物理8コアでUHD Graphicsよりも遙かに高性能な内蔵GPUが使えるRyzen PRO 4000 Gシリーズは、非常にバランスのよい製品といえるだろう。

 次回は動画エンコードやRAW現像、さらにゲーミングのパフォーマンスなどを中心に検証する。乞うご期待だ。

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