Zen2コアAPU「Renoir」のデスクトップ版を突然投入 AMD CPUロードマップ

文●大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

2020年07月27日 12時00分

Ryzen 4000Gシリーズと
Athlon 3000Gシリーズを発表

 既報の通り、AMDは米国時間の7月21日に突如としてデスクトップ向けのRyzen 4000Gシリーズを発表した。

 それどころか、ビジネス向けのRyzen Proまで同時発表であり、しかもそのRyzen Proのバルク版が、コンシューマー向けのパッケージ版に先立ち市場投入されるという、ややわけのわからない事態になっている。

 すでにRyzen Pro 4000Gシリーズを搭載したBTO製品が各社から発表されている(例えばツクモ)ということで、おそらくこうしたBTOモデルも遠からず発送開始されることになるだろう。

 まずは発表の内容を正確に説明したい。今回は合計で18製品が発表された。コンシューマー向けでは、Ryzen 4000Gシリーズが6製品とAthlon 3000Gシリーズが3製品となる。

Ryzen 4000Gシリーズは、TDP 65WのGシリーズとTDP 35WのGEシリーズが並ぶ。相対的にGEシリーズの動作周波数が高めなのが象徴的

Athlon 3000Gシリーズは、ついにGoldとSilverが命名規則に追加されることに。Silverが35Wだけ、というのは35Wで十分Celeronに対抗できるという意味にも見える

 いずれもTDPが65W(G)もしくは35W(GE)となっている。ちなみにコンシューマー向けのRyzen 4000GシリーズとAthlon 3000Gシリーズの合計9製品は、すべて倍率アンロックとなっている。

 Renoir(ルノアール)コアそのものの説明は連載555回で行なっており、少なくとも今回の製品にもコアそのものに手を入れた形跡は(今のところ)ない。

 このRenoirのCCX(Core Complex)は、4コアあたり2MB L2+4MB L3という構成になっており、8コアのRyzen 7 4700G/4700GEは4MB L2+8MB L3で12MBキャッシュ、6コアのRyzen 5 4600G/4600GEは3MB L2+8MB L3で11MBキャッシュ、4コアのRyzen 3 4300Gは2MB L2+4MB L3で6MBキャッシュということになる。

RenoirのCCXは、4コアあたり2MB L2+4MB L3という構成

 特筆すべきはAthlonの方で、L3のサイズそのものは4MBのまま一切削減せず、コアに連携したL2だけが減る形になっている。なので、Celeronとするとかなり性能面での上乗せがあると考えて良い。TDP 65W品を出さなくても十分勝負できると考えて間違いではなさそうだ。

 さて問題はその性能である。現状まだ評価できる機材がない(今回の発表は筆者も寝耳に水であった。もちろん現時点では一切機材が届いておらず、ベンチマークをしていない)のでAMDの発表に頼ることになるのだが、まずRyzen 5 3400Gと今回のRyzen 5 4600G/Ryzen 7 4700Gの比較が下の画像だ。

コア数が違うからCineBenchのnT(マルチスレッド)の差は当然として、1T(シングルスレッド)での性能アップが大きなポイント

 CPU性能もさることながら、GPU性能(3DMark TimeSpy)が伸びている、というのは大きなポイントでもある。実際、Ryzen 5 3400GとRyzen 7 4700GをCU数×動作周波数という比でみてみると以下のようになる。

11CU×1400MHz:8CU×2000MHz=15400:16000≒1:1.039

 理論上は4%程度の性能向上しか期待できないにも関わらず、実際は19%もの性能アップに成功しているのは、1つにはメモリー帯域の増加(DDR4-2933→DDR4-3200)もあるだろうが、むしろRyzen 5 3400Gの11CUはメモリー帯域不足でその性能を十分に発揮できていなかった、というあたりが正確なところだろう。

 おそらくDDR4-3200×2ch程度のメモリー帯域ではCU数は8程度で十分であり、これを超えるには昔のインテルのIris Graphicsのようにローカルに大容量キャッシュ(eDRAM)を搭載するか、もしくはメモリーをさらに高速化するしかない。

 ただモバイル向けにはLPDDR4x-4266が使えるが、デスクトップ向けとなると通常のDDR4なので、当面はオーバークロック動作させるか、DDR5を待つかといった感じになる。その意味では、このRyzen 7 4700GはDDR4ベースで使える統合GPUとしてはピークに近い性能なのかもしれない。

Ryzen 7 4700GとCore i7-9700を比較
Renoirのゲーム性能は圧倒的

 では個別の性能をみていこう。まずRyzen 7 4700GとCore i7-9700との比較である。どちらもTDPは65Wだ。さて、CPU性能ではそのCore i7-9700と比べてもかなり高めになっているのがわかる。

Ryzen 7 4700GとCore i7-9700のCPU性能。ビデオエンコードが同性能なのがややおもしろい

 ゲーム性能はもう比較にならないというか、そもそもCoffee LakeのIntel UHD GraphicsはRyzen 5 2400Gと比較しても半分くらいの性能でしかなかったので、さらに性能を引き上げたRyzen 7 4700Gの敵ではない。

ゲーム性能比較。正直ここは実フレームレートを示してほしかった

 絶対的な性能がわからないため(AMDの資料にもフレームレートそのものは示されていない)、「Ryzen 7 4700Gの内蔵GPUでどこまでプレイが楽しめるのか?」というのは未知数ではあるが、個人的な感想で言えばCivilization VIあたりなら現実的な気がする。CS:GOやRocket Leagueは、もう少し解像度を落とした方が良さそうな気はする。

 ただ、予算の関係でビデオカードは後回しというユーザーであっても、とりあえず使える性能は確保できている感じだ。

Ryzen 5 4600GとCore i5-9500を比較
スレッド数の差が性能差に現れる

 続いてはRyzen 5 4600GとCore i5-9500の比較だ。まずCPU性能で言えば、6コア12スレッドと6コア6スレッドではやはり6コア12スレッドに軍配が上がるのは当然ではある。

Ryzen 5 4600GとCore i5-9500のCPU性能。このあたりのグレードのCPUで、ビデオエンコードやリアルタイムレンダリングにどこまで意味があるかという議論はもちろんあるのだが

 ゲーム性能もやはり比較にならず。もっともRyzen 5 4600GではCU数が7、動作周波数も1900MHzに落ちているので、絶対的にどこまでプレイ可能かはやや厳しいところな気がする。このあたりの検証はいずれ実際のプロセッサーを利用して行なわれるだろう。

ゲーム性能はCore i5-9500の性能が低い、という意味に捉えておく方が無難

Ryzen 3 4300GとRyzen 3 3200Gを比較
スレッド数の差が性能差に現れる

 最後がRyzen 3 4300Gである。まずRyzen 3 3200Gとの比較が下の画像だ。GPUに関しては意外に大きな性能差がないのは、CU数×動作周波数がほぼ一緒だからである(Ryzen 3 3200Gが8CU/1250MHz、Ryzen 3 4300Gが6CU/1700MHz)。

CPUの動作周波数は、ブーストは同じ4GHzながら、Ryzen 3 3200Gはベースが3.6GHz、Ryzen 3 4300Gは3.8GHzである。ただCineBench 1Tの性能が24%も上がっているのは、単に動作周波数の差だけではないはずだ

 ただそれでも12%の性能改善があるのは、メモリー帯域の差だろうか。今度の比較対象はCore i3-9100であるが、CPU性能も大差だし、ゲーム性能も大きな伸びを見せている。

Ryzen 3 4300GのCPU性能。本当はそれこそPCMark 10のApplication Suiteあたりを示してくれるのが一番参考になるのだが(まぁ自分でやれ、ということなのだろう)

Ryzen 3 4300Gのゲーム性能。Ryzen 3 4300Gの絶対的な性能はKaveriくらいは期待できるだろうが、それ以上ではなさそうに思える

 以上のように、性能的にはわりと期待できそうな感じのRyzen 4000Gシリーズである。ちなみに今回35WのGEシリーズについては特に性能に関する開示がなかった。

Athlon 3000Gシリーズは
Pinnacle Ridgeベースの製品

 ではAthlonの方は? というと、これも残念ながら性能の開示はない。そもそもAthlon 3000Gシリーズの3製品、3000番台の番号が付いていることからもわかるように、これはTSMC N7を利用したRenoirではなく、Globalfoundriesの12LPを使ったPinnacle Ridgeベースの製品である。

 冒頭で示したAthlon 3000Gシリーズの画像はスペックが省略されているので、フルに示したのが下表である。Athlon Goldが4コア4スレッド、Athlon Silverが2コア4スレッドの構成で、CPUの動作周波数に差はあるが、GPUに関しては一律3CUで1100MHz駆動。対応メモリーはDDR4-2933止まりとなっている。

Athlon 3000Gシリーズのスペック
モデルナンバー Athlon Gold 3150G Athlon Gold 3150GE Athlon Silver 3050GE
コア/スレッド数 4/4 2/4
L2キャッシュ 合計2MB 合計1MB
L3キャッシュ 4MB
ベースクロック 3.5GHz 3.3GHz 3.4GHz
ブーストクロック 3.9GHz 3.8GHz
対応メモリー DDR4-2933
GPU構成 Vega 3(3CU)
GPU動作周波数 1100MHz
TDP 45W(cTDP)/65W 35W

 実のところこのAthlon Silver 3150Gは、GPU性能こそ大幅に下げられているが、CPU性能はRyzen 3 3200Gと大差ない(ベース/ブーストが3.6GHz/4GHzから3.5GHz/3.9GHzにわずかに下げられた)程度で、「ゲームはせず、普通にOfficeがそこそこ動けば良い」というユーザーにはかなり魅力的に思える。

 もちろん最終的には価格との相談であるが、Ryzen 3 3200Gの実売価格が1万3000円ほどなので、Athlon Silver 3150Gが1万切りで出てくるようならかなりお買い得感が高いといえる。

コンシューマー向けと同時に発表された
Ryzen PROシリーズ

 さて、このRyzen 4000G/Athlon 3000Gシリーズに併せて発表されたのが、Ryzen PRO 4000G/Athlon Pro 3000Gシリーズである。

Ryzen PRO 4000GシリーズとAthlon Pro 3000Gシリーズを発表

 スペックを比較するとわかるが、モデルナンバーそのものは微妙に違う(Ryzen Pro 4000Gシリーズは数字が50、Athlon Pro Silverは75ほど上乗せされている。なぜかAthlon Pro Goldは同一)ものの、動作周波数やコア構成などは完全に同一となっている。

 このProシリーズはAMD Proとして知られる機能(Security、Manageability、Business Ready)を搭載する代わりに倍率変更がロックされている。今回異例だったのは、先も書いたがこのProシリーズがコンシューマー向けと同時にリリースされたことだ。

 これまでは1四半期遅れで投入されており、RenoirベースのMobile AMD Ryzen Pro 4000Gシリーズにしても2ヵ月遅れでの投入だったことを考えると、これは異例としか言いようがない。AMDはこの理由を明確にしていないので、その事情を推察してみたい。

 実のところデスクトップ版Renoirに関しては、できるならばAMDとしてはビジネス向けを先行したいくらいだったのだろうと思われる。理由は、今もってビジネスPCの市場でインテルに大きな遅れをとっているからだ。

 最近はビジネス向けにもノートを使う例がかなり増えてきており、ここはRyzen Pro 4000Gシリーズで対抗できるわけだが、まだ依然としてデスクトップ向けではインテルのシェアが高い。

 理由は主にコストの問題でGPU統合が必須であり、ところがAMDは従来では4コアのRyzen Pro 3400Gがハイエンド製品で、6~10コアをラインナップする(しかもGPU統合の)インテルのCore iシリーズに大きく見劣りしていたからだ。

 その一方、コンシューマー向けに関してはGPU性能が求められる(どのみちビデオカードを使うことが多い)こともあって、ここへのテコ入れが真剣に求められていた。

 その一方コンシューマー向けは、特に自作などのリテールではすでにインテルを圧倒するシェアを確保しており、ここでがんばって新製品を投入しなくても別に困らない。どのみち今年第3四半期~第4四半期にはZen3ベースの製品が投入される予定であり、今新製品を投入するべき理由に乏しい。

 それでもインテルのComet Lake投入に対応してXTシリーズプロセッサーを投入したりしているが、これは小手先の変更で済む話で、あまり大きな違いではない。

 インテルはこのあとRocket Lakeを投入、来年にはAlder Lakeを投入する予定であるが、これはZen 3で対抗できるとAMDは考えているようだ。したがって、デスクトップ版Renoirはコンシューマー向けに急いで投入すべき理由はない。そのあたりが、Ryzen Pro 4000Gが同時に発表された理由であろう。

 これを裏付けるのが、8月8日の朝11時に発売されるプロセッサーのラインナップである。先の記事では以下のようになっていた。

8月8日に発売されるラインナップ
型番 税込価格(税抜価格)
Ryzen 7 4750G 4万3978円(3万9980円)
Ryzen 5 4650G 2万9678円(2万6980円)
Ryzen 3 4350G 2万1978円(1万9980円)

 型番からもわかるようにこれはRyzen 7 Pro 4750G/Ryzen 5 Pro 4650G/Ryzen 3 Pro 4350Gの間違い(これはAMDからの情報が間違っていたもので、その後訂正されている)であり、要するにPro版のしかもバルク品である。

 つまり、コンシューマー向けのパッケージよりも先にOEM向けのProのバルク版が優先供給されており、ところがOEM筋としてもそんなに急に製品を供給できないから、結果としてそれがリテールマーケットに流れてきたのだろう。

 ものがPro版なので倍率ロックもかかっているし、CPUクーラーが別途必要になるため、お買い得感はやや薄い。なので待てるユーザーは、そう遠くない時期に始まる通常のリテールパッケージを待った方が良いと思う。

2020年7月28日追記

「リテールパッケージを待った方が良い」と書いたが、直近の情報ではそもそもリテール販売がないという話が出ている。「そう遠くない時期に始まる」と書いたのはあくまで筆者の予想であるが、BTO販売のみでパッケージ版が出ないという、あまりうれしくないことになっているようだ。

となると、倍率アンロックのコンシューマー向けは、BTO向けのものがバルクで流れてくるのを待つしかない ことになる。ちょっとこれは考え直してほしいところである。

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