なぜ、Androidでは「Amazon Music HD」がハイレゾ再生にならないのか?

文●佐々木喜洋 編集●ASCII

2020年06月01日 13時00分

Androidと音楽出力の制限

 既報の通り、ソニーのウォークマン「NW-ZX500」シリーズと「NW-A100」シリーズがファームウェアアップデートにより、「Amazon Music HD」のハイレゾ再生に対応した。

NW-ZX500

 従来は「W. ミュージック」を使用して再生する場合はPCMで最大384kHz/32bitの再生が可能だったが、「Amazon Music」のような他社のストリーミング再生用アプリの場合には、仮にAmazon Music HDに契約していても、最大48kHz/16bitの品質に落として再生されていた。

 実はこれ、ハイレゾ再生が可能なAndroid搭載デジタルオーディオプレーヤー(DAP)でも事情は同じだ。これはなぜかというと、Androidの音楽再生の仕組みに関係がある。

一度Androidを捨て、またAndroidに返ってきたウォークマン

 その前に簡単に「ハイレゾ対応ウォークマンが、どんなOSを搭載してきたか」の変遷を辿ってみよう。S-Master HXを搭載したソニー製ハイレゾDAPの嚆矢とも言える「NW-ZX1」(2014年)は、Androidを搭載していたが、これが「NW-WM1」(2016年)あたりの機種から独自OSに変わった。それが昨年のNW-ZX500」「NW-A100で、またAndroidに戻っている。

NW-ZX1

NW-WM1A

 これはどういうことだろう。Androidにした方が、「Spotify」を始めとした多様なアプリをインストールすることが可能で、ストリーミング時代に適しているからだ。

 ただしAndroidは重いので、音質的には不利になってしまう。高音質を志向していた「NW-WM1」では、他社デジタルオーディオプレーヤー(DAP)との性能競争もあって、いったんAndroidを捨てたのだが、最近の音源はストリーミング中心となってきたので、やはりAndroidに戻したのだろう。

 しかしながら、Androidを使う限りはAndroid OSの制限を受けてしまう。それが最大48kHz/16bitの出力制限だ。これは以前に、Windowsの「WASAPI排他モード」の解説で書いたことにも似ている。

Android標準のAudioFlingerは、48kHz/16bitの仕様

 下記のリンクはAndroidの音楽出力の仕組みを示したものだ。

Androidのオーディオシステム

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 ここにある図表でHAL(Hardware Abstraction Layer)とは、ハードウエアに近い階層で、ドライバーを呼び出す部分だ。その直上にある、MEDIA SERVERが、以前Windowsの時に書いたオーディオ機能の「ミキサー」である。Androidでは「AudioFlinger」と呼ばれている。ちなみに「flinger」とは「投げる人」という意味の英語だ。

 ミキサーであるからには、ストリーミングアプリの音に限らず、OSのシステム音やゲームの効果音など、全てを「統一したビット数とサンプリング周波数」で扱う必要がある。Androidの標準は48kHz/16bitである。これは、図表のアプリケーション層の下に書いてある「AudioTrack」(Android標準の音楽出力プログラムインターフェース)を使用する限りは、常に適用される制限となる。

ではなぜ、Android DAPでハイレゾ再生できるのか?

 このAudioTrackを使えば、ハードウェアなどの違いを考慮せず、様々な端末で利用できる音楽再生アプリが作れる。しかしそうすると、Androidではハイレゾ音源が扱えなくなってしまう。そこで、さまざまな解決が行われてきた。今回のソニーについては詳細発表がないため触れないが、過去の例をいくつか紹介する。

 例えば、初期のAndroid搭載DAPであるiBassoの「DX100」では、iBasso提供の音楽アプリにミキサーをバイパスする仕組みを持たせていた。詳細は分からないが、このようにアプリ固有の作り込みでもハイレゾ出力は可能だ。

USB Audio Player Pro

 また、有名な音楽再生アプリである「USB Audio Player Pro」では、アプリケーション内にそのままドライバーも入れるという荒技を使っている。そうすればAudioFligerを経由する必要がないので、USB DACやスマホ固有のハードウェアにハイレゾ出力が可能となる。

 このほかにもスマートフォンでは、サムスンが「Professional Audio SDK」という、Androidでハイレゾ対応アプリを作れる、プログラミング開発環境をリリースしている。

 このようにハードメーカーが、自社プレーヤー向けに提供するアプリでは、あらかじめ、ハイレゾ再生用の“仕込み”をしておくことができる。しかし、「Amazon Music」アプリなどでは、どのような仕様の機器で再生するかを絞り込めないため、汎用性の高い、OS標準の機能を使うことになる。

 なお、Androidではレイテンシー(処理の遅延)の面でも芳しくはないため、オーディオ・DTM方面には弱いOSである。ただし、こうした点が徐々に改善されてきているのも事実だ。たとえばAndroid 10からは、下記リンクのようにハイレゾサポートが明記されている(上記ウォークマンは、Android 9を搭載する)。

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