「Radeon RX 5600 XT」はフルHDゲーマーのベストチョイスになり得るか?【前編】

文●加藤勝明(KTU)  編集●ジサトラハッチ

2020年01月21日 23時00分

 2020年1月21日23時、AMDはRDNA 1.0ベースのミドルクラスGPU「Radeon RX 5600 XT」の販売を解禁した。2019年7月に登場したRX 5700シリーズはWQHD(1440p)ゲーミングのため、そして11月のRX 5500 XTはフルHD(1080p)ゲーミングのため、そしてその中間に位置づけられるRX 5600 XTは“フルHDで最高の画質でゲームを楽しむためのGPU”となる。

 すでにRX 5600 XTに関してはCES 2020で発表され、AMDからも製品に関するメディアブリーフィングが行なわれるなど、RX 5600 XTの情報に関しては、すでに出尽くしているが、今回は実機を含めたベンチマークの情報が解禁された。

 昨今のミドルクラスGPUの製品展開の例に漏れず、今回のRX 5600 XTもリファレンスモデルは投入されず、すべてAICベンダーの“オリジナルファン”搭載モデルのみが流通する。

 価格&発売日情報は21日午前時点で、AMDからのアナウンスこそなかったが、Sapphire製の「PULSE Radeon RX 5600 XT 6GB」が1月25日11時から販売開始予定で、税込み4万1800円前後で発売するとアナウンスがあった。

 RX 5600 XTの投入により、AMD vs NVIDIAの最新アーキテクチャーがミドルクラスでも揃い、GTX 1660 SUPERおよび1660 Tiに対抗し得る選択肢が登場した。この領域はVega56やRX 590といった世代落ちGPUにカバーさせてきたが、さすがにGPUの設計的にTuring世代のGPUに張り合うには厳しくなってきた。RX 5600 XTはミドルクラスに空いた穴に対する待望のリリーフといったところだ。

 今回筆者はSapphire製のRX 5600 XT搭載カード「PULSE Radeon RX 5600 XT 6GB」を試す機会に恵まれた。RX 590やVega56の後継となれそうなGPUなのか、さまざまなベンチマークを通じて検証していきたい。

直前でアップデートされたvBIOSが意味するもの

 RX 5600 XTのスペックや特徴に関しては、先日の記事で解説済みだが、改めて簡単にまとめてみた。以下、スペック表の※印の項目は、筆者の予想。

・RDNA 1.0ベースのミドルクラスGPU
・PCI-Express Gen4対応
・CU数は36基で、RX 5700と同数
・メモリーコントローラーを一部無効化し、メモリーバス幅を192bit化
・メモリーコントローラーが減ったことで、VRAM搭載量は6GBへ
・メモリーはGDDR6だが、データレートは12Gbps

RX 5600 XTと、その近傍のGPUのスペック

Radeon RX 5700 Radeon RX 5600 XT Radeon RX 5600 Radeon RX 5500 XT
開発コードネーム Navi10 Navi10 Navi10 Navi14
製造プロセス 7nm FinFET 7nm FinFET 7nm FinFET 7nm FinFET
Compute Unit数 36 36 32 22
 →ストリーミングプロセッサー数 2304 2304 2048 1408
ベースクロック 最大1465MHz 不明 不明 不明
ゲームクロック 最大1625MHz 1375MHz 1375MHz※ 最大1845MHz
ブーストクロック 最大1725MHz 1560MHz 1560MHz※ 最大1845MHz
テクスチャーユニット数 144 144 128※ 88※
ROP数 64 64 64※ 32
メモリー速度(相当) 14Gbps 12Gbps 12Gbps 14Gbps※
搭載メモリー GDDR6 8GB GDDR6 6GB GDDR6 6GB GDDR6 4GB/8GB
メモリーバス幅 256bit 192bit 192bit 128bit
Typical Board Power 185W 150W 150W※ 130W
補助電源 8+6ピン 8ピン 8ピン※ 8ピン

 RX 5600 XTはRX 5700と同じCU(Compute Unit)を備えているが、動作クロックとメモリー帯域を減らす事で、RX 5700よりもコストと性能を抑えた製品である。メモリー(VRAM)6GB仕様を選択したことで、GeForceに対する優位性をひとつ失ったことになるが、単にコアクロックを下げただけではRX 5700と性能的にもコスト的にも差別化できなかったことが読み取れる。

 ここまでは既報の通りだが、今回検証用にとAMDから提供されたカードには、カードと共に新しいvBIOS(ビデオカード用のBIOS)が提供された点を述べておかねばならない。PULSE Radeon RX 5600 XT 6GBにはvBIOS切り替えスイッチが実装されており、映像出力端子側が“Silent”、補助電源側が“Performance”設定のvBIOSとなる。

 そしてAMDからテスト開始直前に提供された新vBIOSでは、Performance vBIOSにするとメモリーは14Gbps、ゲームクロックも1615MHzに引き上げられる。つまりPerformance vBIOSで起動することで、メモリー帯域だけが絞られたRX 5700に近いスペックが得られる。

 ただこの14Gbps動作のPerformance vBIOSがすべてのRX 5600 XTカードに提供されるかは定かではないし、コアクロックの設定もメーカーにより異なることは間違いない。性能が欲しい人はじっくり情報を集める必要があるだろう。

Silent Performance RX 5700
ベースクロック 1235MHz 1420MHz 最大1465MHz
ゲームクロック 1460MHz 1615MHz 最大1625MHz
ブーストクロック 1620MHz 1750MHz 最大1725MHz
メモリー速度(相当) 12Gbps 14Gbps 14Gbps

 上記はテスト用カードと共に提供されたvBIOSの設定の違い。今回のテストはすべて新vBIOSに更新した後に実施した。

「PULSE Radeon RX 5600 XT 6GB」に実装されたvBIOS切り替えスイッチ。補助電源側にした状態でブートすると、Performance vBIOSで起動する

「GPU-Z」でテスト用カード(新vBIOSに更新済)の情報を拾ってみた。Silent vBIOS(上)ではメモリークロックは1500MHz(12Gbps)だが、Performance vBIOS(下)では1750MHz(14Gbps)になっている

同じくクロックの情報(Silent:上、Performance:下)。Performance vBIOSにすると、ゲームクロックはRX 5700(1625MHz)とほぼ同等にまで高められる

BIOSのバージョン情報など

写真でみるRX 5600 XTカード

 では検証に入る前に、今回検証用にと提供されたPULSE Radeon RX 5600 XT 6GBを筆頭に、さまざまなメーカーからお借りできたRX 5600 XTカードを眺めておこう。2連ファン仕様のクーラーを搭載しているが、大口径ファンを採用しているためカード全体の高さはかなり高い(135mm)。

 カードのブラケットを固定するネジ用の段差から少なくとも30mmは上に出っ張るため、カードの上側に余裕のないPCケースに装着したい場合はじっくりクリアランスを検討しよう。

●Sapphire「PULSE Radeon RX 5600 XT 6GB」

PULSE Radeon RX 5600 XT 6GBのクーラーには、口径約100mmのファンが2基配置。低負荷時はファンが停止する準ファンレス仕様となっている

バックプレートは空気が通り抜ける穴が設けられているのが特徴。補助電源コネクターの部分は大きく凹んでいる

TBP(Typical Board Power)は160W(Performance vBIOS時)。補助電源は8ピン1系統のみだが、8+6ピン構成も可能なように設計されているようだ

映像出力系はDVIナシのごくスタンダードな構成。クーラーの厚みが微妙に2スロットを超えている点に注意

●XFX「RX-56XT6DFD6」

XFXは3連ファンの“THICC III”と2連ファンの“THICC II Pro”シリーズを準備しているが、これは後者。クーラーカバーの上と下の角が丸く落とされており、非常にシックな印象

ヒートシンクのフィンが縦に入っているため、クーラーのカバーは上下に開口部が設けられている

補助電源は8ピン1系統。そのすぐ横にvBIOS切り替え用のスイッチが実装されている点に注目

映像出力はDP×3+HDMIの定番構成。クーラーはキッチリ2スロット(バックプレート分裏側に張り出しているが……)

検証環境は?

 今回RX 5600 XTのパフォーマンスを検証するにあたり、既存のNavi世代からはRX 5700およびRX 5500 XT搭載カードを、RX 5600 XT登場に伴いフェードアウトするRX 590およびVega56搭載カードを、さらにライバルとなるGTX 1660 SUPER搭載カードをそれぞれ準備した。

 ドライバーはRX 5600 XTが評価用のAdrenalin 20.1.1ベースのベータ版、それ以外は最新の20.1.2、GeForceは442.01(Hotfix)を使用している。

 また、前述の2種類のvBIOSを使用した時のパフォーマンスもそれぞれ検証することとした。Performance vBIOS時はメモリーバス幅の狭いRX 5700に近いスペックとなるため、メモリーバス幅が今のゲームに及ぼす効果をハッキリと観測できるはずだ。

【検証環境】
CPU AMD「Ryzen 7 3800X」
(8コア/16スレッド、3.9~4.5GHz)
ビデオカード Sapphire「PULSE Radeon RX 5600 XT 6GB」
(Radeon RX 5600 XT)
AMD「Radeon RX 5700リファレンスカード」
ASUS「DUAL-RX5500XT-O8G-EVO」
(Radeon RX 5500 XT)
AMD「Radeon RX Vega56リファレンスカード」
ASRock「Phantom Gaming X Radeon RX 590 8G OC」
(Radeon RX 590)
ASUS「PH-GTX1660S-O6G」
(GeForce GTX 1660 SUPER)
マザーボード GIGABYTE「X570 AORUS MASTER」
(BIOS F11)
メモリー G.Skill「F4-3200C16D-16GTZRX」×2
(DDR4-3200、8GB×4)
ストレージ Western Digital「WDS100T2X0C」
(NVMe M.2 SSD、1TB)
電源ユニット Silverstone「ST85F-PT」
(850W、80Plus Platinum)
CPUクーラー Corsair「H115i」
(簡易水冷、280mm)
OS Windows10 Pro 64bit版
(November 2019 Update)

Vega56の後継を名乗る資格は十分にある

 では定番「3DMark」のスコアー比較から始めよう。Fire Strike〜Time Spy Extremeの4テストを実行した。

「3DMark」のスコアー

 見事にRX 5600 XTはRX 5700とRX 5500 XTのほぼ中間に着地した。Performance vBIOS時のクロックはRX 5700とほぼ同等だが、スコアーは20%程度下回っていることから、メモリーバス幅を192bitに狭めたことが性能の調整に大きく寄与していることが分かる。

 ただPerformanceとSilent vBIOSの差は意外なほどに小さく、3~4%のスコアーアップにとどまっている。テストに用いたSapphire製カードのように、メモリー14GbpsのvBIOSが提供されているカードでなくても十分なパフォーマンスが得られると考えてよさそうだ。

 続いて「VRMark」のスコアーも比較してみよう。

「VRMark」のスコアー

 こちらでも着順的にはほぼ同じ。3DMarkもVRMarkも、ライバルといえるGTX 1660 SUPERを大きく上回る結果を出している。ただし今回残念なことにシングルファン廉価版しか調達できなかったので、ややGTX 1660 SUPERにはかなり不利な検証となってしまったことは否定できない。

 このVRMarkで注目すべきはRX 5600 XTとRX 590のスコアーの傾向だ。注目すべきはDirectX12で動くCyan Roomのスコアーで、よりコアの設計が新しいRX 5600 XTで大きくスコアーを伸ばしている。よりモダンなシェーダーで構成されたゲームに対して、RX 5600 XTはより威力を発揮すると考えてよいだろう。

 では消費電力をチェックしよう。ラトックシステム「REX-BTWATTCH1」を使い、アイドル時の消費電力の安定値(低めのもの)と、3DMark“Time Spy”デモ実行中のピーク値を比較する。

システム全体の消費電力

 VegaやPolaris世代のワットパフォーマンスの低さが悪目立ちしてしまったが、RX 5600 XTの消費電力は旧世代のGPUと比較してかなり改善されており、7nmプロセスの優秀さがよく出ている。

 Performance vBIOS使用時は当然消費電力は増えるが、それほど大きくは増えていない。消費電力だけを見ればGTX 1660 SUPERの方が省電力であるが、描画性能はRX 5600 XTの方が30~40%高いことを考えると、ワットパフォーマンスは極めて優秀であるといえる。

国内モデルの初値での勝負は厳しいか?

 以上の結果から、RX 5600 XTは既存のRX 590やVega56のポジションを継承するものであることが確認できた。7nmプロセス採用により消費電力も相応に低くなり、ファンノイズの大きい製品が多かったRX 590に比べるとかなり快適になった。これでVega56やRX 590も安心して市場からフェードアウトできるだろう。

 しかし、本稿を編集部に提出する寸前(情報解禁まで10時間足らず)、テストに使用したSapphire製カードの予想価格(税込み4万1800円前後)が飛び込んできた。AMDがライバル視しているGTX 1660 SUPERに対して、性能面では大きなアドバンテージを得たものの、GTX 1660 SUPERの実売価格が2万円台中盤~3万円強に分布していることを考えると、まともに勝負するのはかなり厳しい。

 RX 5700の安価なモデルが4万円を切っているのだから、明らかにオーバープライス。土壇場で3万6000~7000円あたりに落ち着くかもしれないが、それでもフルHDゲーミングのためのGPUとしては明らかに高い。

 加えて、NVIDIAは先日RTX 2060の価格を299ドルに値下げした。北米ではGTX 1660 SUPERが229ドル、GTX 1660TiとRX 5600 XTが279ドルで並ぶが、RX 5600 XTの方がコストパフォーマンスに優れるという話だったが、税込み4万1800円という予想がそのまま通ったとすると、RTX 2060より高価になってしまう。

 RTX 2060にすればDXRやDLSSも利用できるため、価格設定を間違えるとRX 5600 XTの前途はかなり厳しい。日本国内でRTX 2060の値下げの影響があるかは不明だが、少なくともRX 5600 XTが3万円に限りなく近づかない限り、GeForceに対する価格的なメリットのあるGPUとは言えないだろう。

 次回後編では、実ゲームでのテストを中心に、RX 5600 XTの実力を明らかにしていきたい。

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