SIerのキーマンが本音で語った「クラウドは業界をどう変える?」

文●大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

2016年02月17日 07時00分

昨年12月22日にKADOKAWAオフィスで開催された「リアルイイクラ2015年納会」。「SIerと語る!クラウドはSI業界をどう変える」と題された後半のパネルディスカッションにはISID、SCSK、スカイアーチネットワークス、TISの4社のキーマンが登壇し、ビジネスの裏側にある生々しい話を展開した。(以下、敬称略)

AWSを中心にしたSIを手がける参加者のプロフィールとは?

ASCII大谷:今回のパネルのきっかけは、「AWS re:Invent 2015」の会場ホテル内で行なわれた座談会です。今回の登壇者も含め、6名の方に参加してもらったのですが、あまりに面白かったので、ぜひリアルのパネルでやってみたいと思ったのが経緯です。まず自己紹介とクラウド事業の現状について教えてください。

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SCSK サービス開発部 浅野佑貴(以下、SCSK浅野):SCSKの浅野です。クラウドサービスをどう取り扱うかをいろいろ考えつつ、今はクラウドのコントローラーを作って、オープンソースで展開しています。お客様からは「浅野さん、営業の割には技術詳しいですね」と言われるんですけど(笑)、一応AWSのコミュニティでは「AWSウルトラクイズ」の2代目優勝者だったりします。よろしくおねがいします。

スカイアーチ シニアコンサルタント 福島厚(以下、スカイアーチ福島):スカイアーチというSIerでコンサルティングを担当している福島です。現在はアドバンストパートナーとしてAWSに取り組ませていただき、来年にはなんとかプレミアパートナーになりたいとがんばっています。

TIS プラットフォームサービス企画部 内藤稔(以下、TIS内藤):イイクラの方では「上から目線」というありがたいレッテルを貼っていただいた内藤です(笑)。

ASCII大谷:本当は腰が低いんですけどね。

TIS内藤:そうですよ(笑)。それはともかく、私ももともとはインフラエンジニアだったんですが、2009年くらいから自社のIaaSの立ち上げに携わっていたりします。2010年くらいに(当時のAWS エバンジェリストだった)玉川さんに出会って、AWSやばいなと思って、社内ではこっそりやってました(笑)。でも、おかげさまで今年はAWSのプレミアパートナーになり、けっこうな引き合いをいただいています。とはいえ、単純に再販だけでは儲らないので、IoTビジネスを企画していたりしています。

長年の努力が実り、プレミアパートナーになり意気揚々のTIS内藤

電通国際情報サービス(ISID) コミュニケーションIT事業部 松島宏明(以下、ISID松島):ISIDの松島です。弊社はクラウド的なものを2004年に始めていて、ベアメタルなサーバーを40台くらい買ってきて、その上でLinuxを載せて、親会社のキャンペーンサイトなどを動かしていました。なぜ2004年かというと、個人情報保護法が施行された年だからです。

ASCII大谷:ずいぶん早かったんですね。

ISID松島:はい。その後、サーバーはどんどん更新したのですが、2011年にAWSが東京リージョンを立ち上がったのと同時に、そちらに載せ替え始めました。2012年にはGoogle Cloud Platformを使い始めました。今回はAWSのSIerが多いですが、GCPはPaaSとして非常に優れています。その後、IIJを扱い始めたのは、「外資を使うとはなにごとか!」とお客様に怒られたから。結局、自社でデータセンターを持っている意義がなくなってきたので、2015年には自社データセンターのサービス終了を決定しました。今後、こういうことは増えてくると思います。

クラウドビジネスの立ち上げは基本「こっそり」で

ASCII大谷:では、続いてはクラウドサービス立ち上げの苦労や社内の軋轢について教えてください。ちゃんとみなさんコメントしてくださいね(笑)。

TIS内藤:同期の倉貫(現:ソニックガーデンCEO)は自社データセンターがあるにも関わらず、当時から勝手にAWSを使っておりまして(笑)。倉貫たちのAWSノウハウは他のAWS案件に活かせました。一方、自社のIaaSを立ち上げた時にはイチからビジネスモデルを作ったので、やり始めるとけっこう苦労がありました。

ASCII大谷:どこらへんに苦労があったんですか?

TIS内藤:ものづくりはできるんですが、ビジネスモデルがうまくできなかったんですよね。どうやって売り上げあげるんだとか、どうやって請求事務フローを回すんだとか、そういうのが苦労が多かったです。でも、その苦労があったからこそ、AWSビジネスを立ち上げるのがスピーディにできた。小規模な金額を月額課金で回すみたいなことがやれてますね。

ASCII大谷:ビジネスモデル構築の試行錯誤を早い段階でできたんですね。

TIS内藤:当時は倉貫のほか、Amazon EC2/S3のすべてという書籍を書いていた並河という者もいて、AWSユーザーとしてはかなり先進的な会社だったんです。

ISID松島:私は社内で放っておかれたので、けっこう簡単でした。何十台ものサーバーを買い換えるとなると、定価ベースで1億円くらいします。稟議通すのすごい大変なんですよ。私は2004年から2011年の間に、その稟議を2回通して、もういやだ、もうやりたくないと思いました。そこで、私が運用を担当しているお客様と個別に折衝し、自社のデータセンターのサーバーから少しずつAWSに移したんです。でも、社内では特に注目されることはありませんでした。

いつの間にかAWSへのマイグレーションを進めていたISID松島

ASCII大谷:そんなことありえるんですか(笑)。

ISID松島:はい。AWSの場合、価格が安いので、経費として流れてしまうので、稟議が通ってしまうんです。あと「AWS!AWS!」といろいろ騒いでくれた元エバンジェリストの渥美のチームが駆けづり回ってくれたので、東京リージョンが始まって2年くらいで自社のほとんどのパッケージを各プロジェクトチームがAWSでも稼動できるようにしました。月に1回しか動かない連結会計システムは、まさにAWS向けのシステムです。だから、うちの場合は、軋轢なく、かなり素直に行けましたね。

ASCII大谷:福島さんはどんな感じでしたか?

スカイアーチ福島:私自体が3年くらい前にスカイアーチに移籍してきたんですが、そのときに無口な社長から「AWSで利益上げろ」と言われて、クラウドやり始めました。それまで私は自分でケーブル配線して、Linuxインストールするようなガチなインフラエンジニアだったんですが、いきなりクラウド使うことになったんです。でも、AWSにログインしたら、今までのオンプレの機器が要らないことがわかりました(笑)。

ASCII大谷:かなりショックですね。

スカイアーチ福島:でも、弊社の50~60人くらいのエンジニアはオンプレでしかトレーニングしていないので、どうやってAWSを理解してもらって、サービスとして成立させるかという大きな課題がありました。これはものすごい大変で、1年半くらいエンジニアにささやき続けて、ようやくサービス化できた感じです。

ASCII大谷:なるほど。福島さんが切り込み隊長だったんですね。

スカイアーチ福島:何人か個人的に触っている人はいましたけど、基本はそうですね。あと、当時はニフティクラウドの売り上げの方が、AWSより全然高くって(笑)。今は逆転していますけど、ニフクラさんとは仲良くやっています。

ASCII大谷:マルチクラウド的な立ち位置ですね。次、期待の浅野さん。

SCSK浅野:はい。軋轢の方が面白そうなので(笑)。クラウドが出てきた時、弊社では「これからはハイブリッドクラウド」と言ってまして、自社のデータセンター+パブリッククラウドじゃないとダメでしょという形で軋轢を産まないようにしていたわけです。なので、パブリッククラウド始めた時は、こっそり始めていました。

ASCII大谷:やっぱり「こっそり」ですか(笑)。

SCSK浅野:でも、始めた当初は私が開発部隊で、パブリッククラウドの事業が始まった時に、初めて運用やデータセンター部隊に移ったんです。つまり、周りは自分のことを誰も知らない。これが功を奏しまして、こっそり開発部隊と面白そうな案件をクラウドでやり続けていたら、いつの間にかボリュームが出てきて、無視できなくなってきた。そんな感じでちょっとずつ社内で認知されるようになってきました。だから、軋轢は今もありますが、実績を作れば文句は言われない。つくづく、いい会社だなと思っています(笑)。

ASCII大谷:いい会社ですねえ(笑)。

エバンジェリスト、認定資格、お客様と共創など「巻き込み方」を考える

ASCII大谷:周りの人がオンプレガチガチで、クラウドに理解がない人が多いというパターンですね。こういう人たちを巻き込むにはどうしたらいいんでしょうね。まあ、松島さんのところのように声の大きいエバンジェリストがいるというところはいいんでしょうけど。

ISID松島:うちは「クラウド推進室」という見るからにやる気な部署があって、ここが事業部間の壁をまたいでAWSの案件を共有してくれました。なので、全社的にクラウドへの移行はスムーズに進みました。

スカイアーチ福島:うちで一番トリガーになったのは、AWSの認定資格ができたことですね。これを社長から取得せよと命令してもらった。とにかく全員必須ということで、目標が明確になって、それからAWSにうまく流れました。

TIS内藤:うちの会社はわりと現場の強い会社なので、こっそりといろんな人たちを巻き込みました。具体的には、とにかく新しいことをやりたい人、あるいはAWSのメリットを理解しているお客様に声をかけました。それで提案したものを実績にし、社内にフィードバックすることで、お客様のニーズがあることをわかってもらいました。

ASCII大谷:共犯関係になるわけですね。

TIS内藤:あと、僕は「AWS Night in ITHD」という社内コミュニティをやりました。最初は40人くらいだったんですけど、今では150名くらい集まって、事例や使い方を共有しています。

ASCII大谷:勝ちパターンを啓蒙するみたいな感じですね。

TIS内藤:そうです。「うちの会社でもこういうことできるんだよ」と話すと、みんな意外と知らないので、「こんなことやっていいんだ」となる。「やっていい」となるとみんなやり始めます。

ASCII大谷:赤信号みんなで渡れば怖くないという感じですね。浅野さんとか、うなづけるんじゃないですか?

SCSK浅野:私自身が不満分子の方なので(笑)、うなづけますね。当時は開発側のメンバーが信用してくれて、提案や開発を請け負ってくれました。ある程度、案件が増えて回らなくなってから、社内的な体制づけの整理が始まった感じですね。基本的に開発の人は、オンプレだろうが、クラウドだろうが、インフラなんでもいい。必要なサーバーが用意され、監視しててくれればいいという人が多いので、あまり軋轢はないですね。

開発側のメンバーの信頼を受けて、クラウドを推進したSCSK浅野

ASCII大谷:アプリ開発の人はインフラ気にしないって、先日のイイクラでまさに内藤さんが話していたことですよね。

TIS内藤:ほかの会社はわからないのですが、うちのアプリ開発部隊の売り上げって基本SIなので、ぶっちゃけインフラはどうでもよかったりします。だから彼らからすると、インフラの案件は小さくても、アプリ開発がとれればいいよというマインドですね。

「クラウド1つくれない?」から「クラウドでこうしたい」まで

ASCII大谷:次はお客さんのクラウドへの関心について聞いていきたいと思います。昔はクラウドもバズワードの1つだったけど、今はクラウドファーストになり、クラウドネイティブになり、時代もどんどん変わってきました。

スカイアーチ福島:クラウドを使うことに抵抗を感じなくなってますね。特にパブリッククラウドへの抵抗は、ここ2年くらいで急速になくなっています。ただ、PaaSやSaaSに関してすごく関心があるかというとそうではなくて、やはり既存のアプリケーションをどうやってクラウドに持って行けるかに関心を持っています。とはいえ、既存のアプリケーションを持っていくだけだとクラウドのメリットは出にくい。いかにクラウドネイティブに持って行けるかは私自身の課題です。

ASCII大谷:確かにIaaSだと既存の仮想マシンをマイグレーションすればよいので、イメージは沸きやすいですよね。

スカイアーチ福島:開発会社は意外とクラウドネイティブのアプリケーション開発に関心がなくて、そこをどう教育していくかも大きな課題ですねえ。

SCSK浅野:うちも2年前くらいは「クラウド1ついただけますか」というご依頼もあったのですが、最近は二極化しています。「クラウドを使ってこうしたい」というピンポイントでの依頼をなさるお客様と、やっぱり「クラウド1つくらいほしい」と言って持ち帰ったはいいけど、なにも決まらないお客様ですね。でも、エンタープライズの領域では、SIerとお客様と一心同体でプロジェクトを進めているので、クラウドに移行すると運用保守の人が要らなくなるという話が出てくる。これは時間が経たないと解決しないので、正直3年くらいはかかると思います。

ASCII大谷:私はもっとかかると思いますね。

SCSK浅野:そうかもしれないです。3年くらいしてアーリーアダプターの導入が終わって、ようやく普通のお客様がクラウドに来てくれるのではないかと個人的に思っています。

ASCII大谷:内藤さんはどうですか?

TIS内藤:うちはクラウドで利用されるシステムの形態が変わってきてますね。これまでは新規事業やテスト開発、コーポレートサイトなど、企業にとってコアというわけではない案件が多かったんですけど、最近は基幹システムの移行が増えています。弊社でも先日はじめてSAP on クラウドの事例を出させていただいたんですが、公表できない事例はけっこうあります。本当に基幹システムを載せてもいいんだという雰囲気、製造業からも普通にクラウドでというオーダーが出ている感じですね。

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ISID松島:象徴的なトピックなんですけど、ある大手のメーカーさんから「うちは販社がいっぱいあるんだけど、下手するとサーバーがデータセンターではなくて、事務所にあるかもしれない。セキュリティが心配なので、それらのサーバーをクラウドに統合してくれないか」という依頼がありました。「全部回るんですか?」って聞いたら、「数十社あるけど回ってくれない?」と言われました。

ASCII大谷:セキュリティ強化というニーズで、むしろクラウドなんですね。

ISID松島::2年前までは「クラウドだとセキュリティが心配」だったのが、逆になったんです。クラウドの方がセキュリティが高いので、分散されていたシステムを統合し、セキュアに守れるというわけです。お客様の考え方自体がずいぶん変わったなと思いました。

クラウドが本格化したきっかけはやっぱり「アレ」

ASCII大谷:なるほど。みなさんに聞くとクラウドのブレイクは共通して「2年前」とおっしゃってますね。私もメディアとしてクラウド業界を見ていて、エンタープライズがセキュリティの懸念を払拭してクラウドを使うようになったのって、この2年だなあと思います。この切れ目にあたる出来事ってなんだとお考えですか?

TIS内藤:やはり事例でしょうね。AWSをはじめ多くのベンダーが事例を出していて、名だたる大手が使い始めたのがわかったからだと思います。弊社も事例を出すと、お客様から「こんなこともやってるんだ」と言われることも多いですし、事例が積み重なることで、クラウド移行が進んだ印象はありますね。

SCSK浅野:僕も事例大きいと思います。結局、大丈夫かどうかをベンダーが言ってくれるというのは、お客様にとっても大きい。だから、事例が並べられると、「大丈夫なの?」が、「大丈夫だよね」に変わります。でも、これって根拠ないんです。クラウドやっていると、よく「安心・安全」って言いますけど、安全は客観的事実で言えるのですが、安心は主観的事実。ベンダーの人が信用できそうだったり、事例が揃ってくると、そのうち「安心」の部分が満たされます。この部分が2年で大きく変わったところです。

ASCII大谷:なるほど。エンタープライズのクラウド移行には、やはり事例が大きいんですね。

スカイアーチ福島:僕も事例が鍵だと思います。ここにいるアスキーさんとか、アイティメディアさんとか、事例を紹介していますが、そういう記事を情シスの方はけっこう読んでいるんですよね。情シスの方って孤独な方が多くて、そういうところからしか情報を得ることができない。だからメディアで取り上げられると、安心感を得られるんだと思います。

ASCIIのようなメディアで紹介されるユーザー事例が鍵とスカイアーチ福島

ASCII大谷:そう言っていただけると、やりがいがありますね。

スカイアーチ福島:あと、経営者の方々がクラウドを認知してくれるようになりました。今まではむしろ情シスの人が動かなかったのに、経営者がクラウドやれと言ってくれるようになり、動き始めたという印象がありますね。

ISID松島:私も事例は大きいと思います。ただ、弊社でやや残念なのは、特に親会社の電通との協業案件の場合、電通側の方針もあってユーザー事例を公表できないケースが多いこと。事例はいっぱいあるんですけど、なかなか出せないんですよね。

SCSK浅野:そもそもクラウドって情シス通さずに使えるので、事業部門が勝手に使い始めているというケースもある。結果として、いつの間にか社内でユーザーが増えてしまい、あとからSIerが呼ばれて「今から呼ばれてもどうにもならないですね」ということはありますね(笑)。旧態然としたSIerではなく、クラウドインテグレーターと呼ばれる新興の事業者が直接事業部門とコミュニケーションをとって、こつこつ事例を出していったから、結果的に実績を結びついているといったこともあるのかなあと。

ASCII大谷:従来、情シスが主導してきたITシステムを現場部門が直接使えるようになるというのも、クラウドによる文化の破壊なんでしょうね。

TIS内藤:ちょっと話はずれるかもしれないですが、昨年アイティメディアさんで「クラウド時代の運用」というテーマで登壇させていただきました。こんな地味なテーマで人が集まるのか心配だったんですけど、明けてみたら情シスで満員でした。

ASCII大谷:横で三木さんがドヤ顔してますが、さすがアイティメディアですね!

TIS内藤:そうなんです。情シスの人たちは、いろんな経緯でクラウドが導入されてしまったんだけど、運用どうするんだと悩んでいるんだなあと思いましたね。

クラウドへの反応は同じ事シス内でも異なる

ASCII大谷:なるほど。実際、情シスの人たちはクラウド導入でどんな課題を解決したいと思っているんでしょうかね。クラウドも当初はコスト削減がメインだったんですけど、セキュリティを上がるとか、クラウドネイティブアプリケーションを作れるとか、メッセージが変わってきたと思うんです。でも、こういうメッセージは果たして情シスの人にミートしているのかという素朴な疑問があります。

イイクラAWS経験済みのため、容赦なく突っ込むASCII大谷

スカイアーチ福島:僕はむしろ事業部門の人と話すことが多くて、そういった人たちはスケールさせたい、コストを下げたいといったニーズで、どんどんクラウドを使いたいという要望を持っています。一方で情シスの人たちはやはり外に出る機会が少なくて、どうやってクラウド学べばいいんだと悩んでいる人が多い気がしますね。

ISID松島:いわゆるベタな情シスの方って、まだまだクラウドに踏み出していない。先ほど話した大手メーカーの事例はむしろレアケースで、発注元は情シスの企画担当だったんです。

ASCII大谷:情シスの中の「戦略企画室」みたいなところですね。

ISID松島:情シスって、システムの運用をやっている部門とエンドユーザーと直接やりとりしている部門に別れていることが多いです。前者はクラウドに対してまだまだで、後者はクラウドに関してかなり踏み込もうとしているというのが私の印象です。

SCSK浅野:そもそもミスがないことを是とする文化、定められたことをきちんとやる文化がある部門にとって、クラウドの「失敗したらやめます。もう一度やります」というスタイルは違和感があると思います。「こういうスタイルは俺たちと違う」と考えている人たちは多い。もちろん、こういった人たちが悪いわけではなく、組織の文化としてこうした考え方を持っている人にクラウドのスタイルを持っていっても響かないのは事実。一方で事業部門はトライ&エラーを受け入れられる方が多い印象です。

ASCII大谷:情シス内にも文化の違いがあり、会社内にも文化の違いがあると。

SCSK浅野:はい。あと、私はもともと基盤屋なんですけど、基盤って汎用的な設計をしたくなるんです。セキュリティは万全で、ネットワークも最強で、パフォーマンスもコントロールできる。そんなものはできないので、スコープが拡がってしまい、どこまでクラウドでやるのかという話がまとまらなくなる。こうして1年、2年と時間が経っているというのが、現状なんじゃないかと思っています。

TIS内藤:3年くらい前、情シスのメンバーが少なくて、インフラを維持できないという会社がありました。そこは志の高い情シス部長はインフラはもうやめて、アプリ開発と企画だけやると宣言し、クラウドに載せ替えてます。あとは社長からやれと言われたとか、とにかくきっかけは多種多様ですね。

ASCII大谷:情シスとしての選択と集中のためにクラウドを選んだというわけですね。

TIS内藤:最近はそのきっかけが次のきっかけに変わってきていて、たとえば半年かかっていたサーバーのオーダーが3日でできるということを事業部門が理解し始めたとたん、次からは3日でというオーダーが情シスにあがってきます。こうなると情シスの選択肢はすでにクラウドしかなくなってくる。実際、こういうことがあるお客様では起こっていて、継続的に使っていたクラウドが拡がっているという事態があります。

ASCII大谷:最近、ITベンダーの多くは「アジリティ(迅速性)」を訴えていますが、実際それが事業部門から求められてきて、情シスはその声に応えるためにクラウドを選択するという状況になっているわけですね。

DevOpsやIoT前提の時代に向けたSIerの課題とは?

ASCII大谷:最後に「クラウド時代への期待と課題」です。まあ、これも1時間くらいかかりそうな重いテーマなんですけど、2本のパネルで私もそろそろ疲れてきたので(笑)。現在のクラウドの課題をまずお話しいただけますか? 

SIerならではの課題と未来を語るパネリストの面々

ISID松島:何年後かクラウドが進むと、DevOpsが戦略的なIT部署では普通の開発手法になってくると思います。でも、DevOpsってわれわれがやっているような普通のSIとまったく相容れない。弊社も十年前くらいにPMPをまとめて社員にとらせていた時期がありましたが、DevOpsではプロジェクトはなくなります。プロジェクトでないと言うことは、PMPはある意味必要の無いスキルになってしまいます。SIがプロジェクトではなくなるという時点で、ウォーターフォール型のSIからわれわれがどう変化しなければならないのか? ここの答えがまったく見えてない、ものすごく大きなチャレンジです。

スカイアーチ福島:われわれは他の登壇者よりも規模が小さいSIerですが、クラウド向けのプログラミング技法が中小のパートナーに伝わっていないなあという感想があります。特にクラウドでは従来スパコンとかやっている人でなければ触れる機会がなかった並列プログラミングの知識やノウハウが必要になってきます。こういう知識をどのように普及させていくかが課題だと思っています。

TIS内藤:すごく逆接的なんですけど、「もうITやってちゃダメだな」と思い始めました(笑)。ITで実現できることって、どんどんクラウド側に取り込まれてしまうので、SIerができることなんだろうと最近真剣に考えています。たとえば、いろんな形でお客様をサポートすること。うちでもお客様との共同事業などを始めてますが、お客様のビジネスにどうやって寄り添えるかが大きな課題だと思います。

SCSK浅野:たとえば、うちの会社の中期経営計画には「クラウド」という言葉は一切出てきません。一方で出てくるのは「サービス提供型」という言葉。つまり、クラウドなり、オンプレなり、サービス提供という形に変えていこうというメッセージなんです。ただ、現場レベルで行くと、このサービス提供型への移行は道半ばと言わざるを得ません。ここが課題ですね。

クラウドを使えば僕たちはサンタクロースを作れる

ASCII大谷:イイクラって明るく締めたい的なコンセプトがあるのですが、最後はクラウドへの期待をいただけますか?

SCSK浅野:まずは値下げ(笑)。あとはもうそろそろ「クラウドビジネス」という言葉が消えてなくなり、やりたいことにフォーカスが置かれるといいなと思います。内藤さんの考えに近いんですけど、クラウドってあくまで手段であって、もはや特筆すべきカテゴリじゃない。今バズっている感じているIoTも含め、さっさと普通になってほしいです。

ISID松島:私の期待はクラウドとしてPaaSが成長すること。SIerのわれわれはアプリケーションを作るのが好きなので、いろんなPaaSを組み合わせて、なんか面白いことやりたいなというのが期待です。たとえば、Azureの機械学習で画像認識させると、性別、年齢まで出してくれる。GoogleのVision APIだと表情や顔の向きまで出してくれる。2つを組み合わせれば、どんな人が笑っているのか、怒っているのかがわかります。

スカイアーチ福島:機械学習やLambdaに代表されるマイクロサービスなど、すごく面白いツールがいっぱい出てきた。個人的には楽しくてしょうがないし、もっとでてきたらなにが起こるかわからないという期待があります。

TIS内藤:今日も社内の企画会議で、「サンタって作れるよね」という話になりました。子供にセンサー付けたり、SNSをロギングして、子供の欲しいモノをまず知ることができる。親は予算だけ決めておけば、勝手にAmazonに発注すれば、クリスマスに届けてくれる。実装上、足りないのは赤い服着た運送の人だけ(笑)。でも、可能ですよね。娘や息子に「パパはサンタを作ったんだよ」と言えば、かなり驚かれるはずですが、実際サンタは作れる。そんな時代に生きられるのは、それはそれでワクワクしますよね。

「サンタは作れる」というITの可能性がクラウドの未来

スカイアーチ福島:もはやラズパイも数千円レベルだし、Hadoopクラスターや機械学習だって1時間数千円で使える。中学校のお小遣いくらいで、今まで大学の研究室にいなければできなかったことが簡単にトライできるわけです。こういう試行錯誤から、まったく想像できなかったビジネスのアイデアが産まれるんじゃないかなと思います。

SCSK浅野:難しいことは機械にやらせて、人間は意味のないことをやりたいなあと。たとえば、サーバーの管理は適切な手順で自動化し、いざ止める時は人間がスマホからレバーで止めるようにするとか(笑)。

ASCII大谷:最近のハッカソンブームがまさにそれですね。機械学習やマイクロサービス、IoTなどのキーワードも出ましたけど、新しいこと、やりたいことを実現するために、クラウドが活用できるというイメージですね。

ISID松島:私はもともと製造業系の出身で、発電所の制御システムを作ってました。発電所では、センサーがプラント全体に張り巡らされ、プログラムを元にバルブを動かしています。つまり、プログラミングってそもそも「モノを動かすモノ」という認識があるので、IoTと言われてもあまり目新しさがないんです。

ASCII大谷:通信しているモノをソフトウェアで動かしていたわけですね。

ISID松島:でも、今まで古典的な制御理論を使っていたプラント制御が、クラウドを使った機械学習制御になると、どれだけ効率化できるのか。会社のビジネスとは別に、個人的にはこれをぜひやってみたいです。

ASCII大谷:現在はテクノロジーの時代でもありますが、社会課題山積の時代でもあります。

TIS内藤:これからの日本は子供が減るし、人口自体が減る。マーケットが小さくなるし、働き手がそもそも減る。働き手が減るんだったら、そもそも機械に働いてもらうしかない。こうなるとおのずとIoTになる。ビジネスとして成立するかは別の話ですが、これからの日本を考えたら、ITができることはまだまだあると思います。

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