Appleが「ハイレゾ・ストリーミング」を始める?
文●海上忍(@u_shinobu)、編集●ハイサイ比嘉
2015年12月25日 19時00分
本連載「Apple Geeks」は、Apple製ハードウェア/ソフトウェア、またこれらの中核をなすOS X/iOSに関する解説を、余すことなくお贈りする連載です(連載目次はこちら)。
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Apple Musicとストリーミングサービスの現状
日本は師走のかき入れどき、米国もクリスマス休暇に突入するというこの時期、Appleが「ハイレゾ対応のストリーミングサービスを開始する」という知らせが飛び込んできた。知らせとはいってもAppleの公式発表にはあらず、信ぴょう性はともあれウラの取りようがない話である。その解釈はとりあえず置くとして、AppleおよびiOSデバイスを取り巻く音楽再生関連の状況を整理してみよう。
まずは量的な面について。2015年6月、Appleは音楽定額サービス「Apple Music」をスタート、月額980円で最初の3ヵ月はフル機能を使えるトライアル期間という魅力的な価格設定もあり、まずまずの滑り出しと伝えられている。しかし、Google Play Musicなど強力な競合サービスがあるうえ、楽曲の品揃えという点で優位性を築けていない。いわゆる聴き放題の対象曲数は、Google Play Musicの3500万曲に対し数百万曲だ。ただ曲数が多ければいいわけではなく、人気アーティスト/楽曲の網羅性がより重要だが、優勢といえないことは確かだ。
質的な面(音質)は互角、というより有意な差が認められない。音質はマスター音源の質に左右され、しかも通信回線の状態に応じてビットレートが上下するため、単純に比較はできないが、Apple MusicのベストレートAAC/256kbpsはGoogle Play MusicのMP3/320kbpsより有利とはいえない。そうこうしているうちに、CD品質/ロスレスを売りにする新興ストリーミングサービス「TIDAL」が現れるなど、むしろ埋没傾向だ。
確かに、iOSデバイスとの圧倒的な親和性の高さはApple Musicの強みだが、特に欧米でストリーミングサービスの利用者が増えCDリッピング機能の必要性が低下した結果、iTunesとの連係というもうひとつの強み(「縛り」ともいう)は失われつつある。買収企業のネームバリューを生かしたインターネットラジオ「Beats1」や、魅力的な楽曲レコメンド機能「For You」はあるものの、“Apple Musicでなければならない”と消費者を納得させる材料としては弱い。
そう考えていくと、Apple Musicでハイレゾ・ストリーミングというアイデアが出ることに違和感はない。音質向上はAppleが重視するユーザー・エクスペリエンスの改善につながり、今ならば競合サービスとの差別化にもなる。すべての楽曲がハイレゾ品質となる保証はないが(マスター音源次第)、追加収入が見込めるのならば提案に乗るレコード会社は少なくないはず。単純計算で数倍に増える通信帯域の問題も、当面はWi-Fi限定とすることで回避できる。実現の可能性はあるだろう。
Apple Musicがハイレゾ対応するとどうなるか
楽曲数を増やす努力や人気アーティストとのコラボなど、Apple Musicを盛り上げるための施策はいろいろあるが、今回のテーマである「ハイレゾ対応」は他と同一に語ることは難しい。ともすれば、大がかりな“インフラ整備”を伴いかねないためだ。
正攻法で考えた場合、iOSデバイス単体でハイレゾ再生することになるため、デジタル/アナログコンバータ(DAC)などハードウェアレベルでの対応が必要になる。現行のiPhone/iPadに搭載されているDACは、再生可能なフォーマットのサンプリング周波数と量子化ビット数が最大48kHz/24bitと、いわゆるハイレゾ音源の再生環境としてはミニマムスペックであり、堂々「ハイレゾ始めました」とはうたいにくい。
それに、ハイレゾ対応は音質を売りにすることと表裏一体であり、ただ再生できればOKというわけではない。オペアンプやコンデンサなどオーディオ品質のパーツを奢りクオリティを追求しなければ、ハイレゾ再生の効果が損なわれてしまう。そうなれば薄さ・軽さの追求という従来路線の逆を行くことになるし、iOSデバイスをグローバルに展開するAppleの戦略を考えると、物量がモノをいうその路線はありえない。
この難問をクリアする方法のひとつが、「Lightning端子からのデジタル出力」だ。受信したApple Musicのハイレゾ音源はデジタルのまま出力し、外部のDACでアナログ変換の末最終的な音にする。Lightningは最大で192kHz/24bitのオーディオデータを扱えるため、外部のDACさえ用意すれば現行のiOSデバイスでもハイレゾ・ストリーミングが実現できるというわけだ。
そこで必要となるデバイスが「Lightning経由でオーディオ信号を入力可能なDAC(ポータブルアンプ)」だ。そんな都合のいい製品が今後出るのかという話になるが、心配はいらない。すでに複数の製品が存在しているし、ユニット内部にDACを搭載したLightning端子装備のヘッドホンも発売されている。当然、オプションとして販売されることになるが、ハイレゾ対応を歓迎する層は出費を気にしないだろう。
問題は、ワイヤレス出力だ。AirPlayのオーディオストリームはロスレス伝送のためHi-Fiオーディオ向きだが、フォーマットは最大48kHz/16bitとハイレゾ品質に及ばない。AirPlayの仕様を変更するとなると、莫大な数が存在するAirPlay対応オーディオ機器との互換性問題が生じるため、対応するにしてもしばらく先になりそうだ。
ワイヤレスでハイレゾ・ストリーミングの現実解があるとすれば、Bluetooth/A2DPだろう。SONYが開発した高音質コーデック「LDAC」(エルダック)を使えば、最大96kHz/24bitというハイレゾ品質のオーディオデータを現行のBluetooth/A2DP規格で伝送できる。
当然、LDAC対応のBluetoothスピーカーが必要になるが、AppleがSONYからLDACのライセンスを受けてiOSにLDACスタックを収録すれば、既存のiOSデバイスでもLDACの送り出し側として機能させることは不可能ではない(ソフトウェアレベルで対応可)。この辺りの事情は、以前他媒体の企画でSONYのLDAC開発チームに取材しているので、興味があれば「海上 LDAC ハイレゾ」で検索のうえ当該記事をご一読いただきたい。
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