VAとIPSの違いって何? 液晶テレビの基本動作を知る!

文●鳥居一豊

2015年07月13日 12時00分

今、液晶テレビの販売が好調らしい。BCNの調査によると、2015年4月以降、販売台数・金額において3月までの低調ぶりとは明らかに異なる躍進を続けているという。また、JEITA(電子情報技術産業協会)の2015年国内出荷統計では、3、4月に前年同期を超える出荷実績を残している。

2011年に実施された地上波テレビ放送の完全デジタル化以降、薄型テレビ売場はいまいち盛り上がりに欠ける感じだった(2011年前後のあの時期が異常だったのだが)。しかし、今年の夏は違う。いよいよ本格的にテレビの世代交代の時期を迎えそうだ。

本特集では4Kや8Kテレビ、今後登場する新しい規格「HDR」なども含めて、薄型テレビの動作の仕組み、技術的な部分をわかりやすく解説する。自分にとって4Kや8Kテレビが必要なのか、どの時点で買い換えを考えればいいかが判断できるようになるだろう。

そもそも液晶テレビって
どうやって映像を写しているの?

バックライトの光を液晶パネルを通して投影するのが液晶テレビの基本原理

液晶テレビ(というか液晶ディスプレー)は大まかに言うと、液晶パネルとバックライトから構成されている。バックライトの光を液晶パネルが調節することで明暗や色を再現する仕組み。液晶パネル自体は発光するわけではないので、外部の光源が必要になる。

映像が焼き付けられたフィルムをライトで照射してスクリーンに投影する映画館の映写装置と基本的な原理は同じだ。これに対して、すでに製品の発売は終了してしまったプラズマテレビや、今後増えてくる有機ELテレビはパネル自体が発光する自発光型だ。まずはこの違いを覚えておこう。

液晶パネルがブラインド的な役割を果たしバックライトの光を調整。赤、緑、青の光る加減によりその混合率を調整して色を表現する

液晶パネルは、コンピュータのドット絵のように点の集まりで映像を表示する(これについては、デジタル時代のテレビはプラズマも有機ELもすべて同じ。これを固定画素表示とも呼ぶ)。

映像を表示する点を「画素」と呼ぶが、これはRGBの3つに別れている(サブピクセル制御を行なうVA方式はさらに倍に分割されている)。ひとつひとつの画素ごとに光の三原色であるR(赤)・G(緑)・B(青)の光を調整することで明暗や色を再現できる。

こうした画素がフルHDテレビの場合、1920×1080個配置されており、合計すると約200万画素となる。

液晶パネルがどうやってRGBそれぞれの光を調節しているかというと、ひとつひとつの画素(そしてRGBのサブピクセル)には、同じ方向に並んだ液晶分子が浮かんだ層がある。この液晶分子がバックライトの光が透過する量を調節するシャッターとして動作する。この液晶分子の動きを電気的に制御することで、映像の表示が可能になるわけだ。

そして、液晶自体はシャッターとしての働きしかないので、RGBのサブピクセルも実は輝度の表現(明暗の表示)しかできない。

RGBの色として再現するために、それぞれのサブピクセルの前面に、赤、青、緑のカラーフィルターが備わっている。これによって、R10%、G50%、B30%というように光を調整し色として再現しているわけだ。

(次ページに続く、「液晶テレビにはVA方式とIPS方式の2種類がある

液晶テレビにはVA方式とIPS方式の2種類がある

現在の液晶テレビに採用されている液晶パネルは、大まかに「VA」方式と「IPS」方式の2種類がある。両者はどっちが良くてどっちが劣る、ということではなく、それぞれの動作原理に起因する一長一短の部分がある。まずは視野角。液晶パネルを通った光は直進性が強くなり、正面からは十分な光が見ている人の目に到達するが、斜め方向には光が弱まってしまう。

つまり、斜めから見ると画面の明るさが落ちてしまったり、色が浅くなってしまうのだ。これはバックライトの光で映像を投射する液晶テレビでは原理的に避けられない問題だ。

VA方式は画面が“暗”(左)の時、液晶分子が垂直になる。“明”(右)になるごとに水平となる

IPS方式は画面が“暗”(左)の時でも液晶分子は水平で、“明”の時は向きが変わる

こうした液晶の視野角の制限が顕著に表れてしまうのがVA方式。そして、同じ液晶でも視野角の制限が少ない方式もある。それがIPS方式だ。これは液晶分子の回転する方向が垂直(VA方式)か水平(IPS方式)かという違いなのだが、これによって液晶パネルを透過した光の拡散の具合に違いが出る。

これらのパネルは画素を拡大してみると、サブピクセルの形状自体も異なっていることがわかる。肉眼では確認しにくいが、それぞれの方式による違いを目で見分けるならば、もっと簡単な方法がある。

VA方式のパネルを使用した液晶テレビ(東芝 58Z10X)の画素を接写で撮影。ひとつひとつの画素がRGBに別れているのがわかる

のような形に斜めになっていることがわかる" title="IPS方式のパネルを使用した液晶テレビ(東芝 49G20X)の画素を接写で撮影。RGBのサブピクセルの形状が>のような形に斜めになっていることがわかる" width="282" height="282" />

IPS方式のパネルを使用した液晶テレビ(東芝 49G20X)の画素を接写で撮影。RGBのサブピクセルの形状が>のような形に斜めになっていることがわかる

ここまでの説明だと、視野角の広いIPS方式の方が良さそうに思えるが、VA方式の方が優れた面もある。それがコントラスト比。VA方式パネルのコントラスト比が3000~5000:1であるのに対し、IPS方式は1200~2000:1ほどのコントラスト比となる。

このため、正面から見た場合に限れば、VA方式の方が黒が締まった力強い映像に感じる。ただし、テレビの正面を外れるとその持ち味(高コントラスト)が失われ、IPSよりもコントラスト感の少ないひ弱な映像になる。

このあたりは、実際に自分の目で確かめて、VA方式かIPS方式かを選ぶといい。特に部屋のコーナーに薄型テレビを置く場合、斜めの位置から見る機会が増えるので、斜めからの画面の見え方は重要だ。

液晶テレビがVA方式のパネルか、IPS方式のパネルを採用しているかは、メーカーやモデルによってもまちまちで、ホームページやカタログなどのスペック表で確認する必要がある。

ちなみに、4Kテレビの場合では、ソニーはほとんどがVA方式、東芝はVA方式とIPS方式をモデルごとに使い分け、パナソニックはIPS方式、三菱電機がVA方式、LGエレクトロニクスはIPS方式を採用している(ただし例外もある)。

(次ページに続く、「実際にVA方式とIPS方式では暗所と斜め見で画質が違う!

実際にVA方式とIPS方式では
暗所と斜め見で画質が違う!

東芝の4Kテレビハイエンドモデル「REGZA Z10X」。50V型の実売価格は36万円前後

4Kミドルレンジモデルだが最新となる「REGZA G20X」。43型の実売価格は22万5000円前後

VA方式とIPS方式、理屈としては異なるわけだが、実際の製品にその違いが出るのだろうか?

東芝が最新モデルでVA方式とIPS方式を採用しているので、実際にその映像の見え方を比べてみた。

VA方式のモデルは「50Z10X」、IPS方式のモデルは「43G20X」だ。液晶パネルこそ異なるが、どちらも広色域の直下型LEDバックライト(これは後で解説)を搭載し、今後登場するULTRA HD Blu-Ray規格で採用されたHDR技術(これは次回解説)にも対応できる最新鋭の実力を備えている。

REGZA Z10X(写真左)とG20X(写真右)で、黒画面を表示したところ。わずかだが49G20Xの画面が光っていることがわかる。ちなみに、この撮影時ではZ10XのLEDバックライトのエリア駆動はオフとし、パネル自体のコントラストの差を比較している

まずは暗室で黒画面(電源オフではない)を表示した状態の写真を見てみよう。画面表示や電源ランプが点灯していることくらいしかわからないが、左がZ10Xで右がG20Xだ。

Z10Xだけを黒表示として見た状態。写真では画面の黒浮きもなく、ほぼ非表示に近い黒が表示されているように見える(肉眼ではやや黒浮きが感じられるが)

同じくG20Xだけを黒表示として見た状態。こちらは画面全体がぼんやりと発光していることがわかる。肉眼ではその差はよりはっきりわかる

写真ではその差がわかりにくいのだが、右のG20Xの方がぼんやりと青白く画面が光っているのがわかる。実際に肉眼で見てみるとその差はもっと顕著で、これでVA方式とIPS方式のコントラスト比の差がよくわかる。

すなわち、G20Xの方が暗い部屋で映画を見た場合、黒がグレーに光ってしまいコントラスト感が低下する「黒浮き」という現象が目立ちやすいのだ。映画を高画質で楽しみたいという人には気になる部分だろう。

寝ころびながら見るならIPSが有利

続いては視野角の比較だ。基本的に視野角は水平方向の斜めから見たときの影響が重要だが、上下方向の視野角の影響もある。そのため、Z10XとG20Xの両方で画面の下から見たときと左横から見たときの映像を撮影してみた。

角度としては、テレビの正面に立った位置を0度として、真横に立った位置を90度とすると、だいたい45度の位置としている。

Z10Xを左斜めから見たところ。明るさが落ちていることがわかる。右側にある白い花がグレーの背景に溶け込んで見えにくくなっていることに注目。左側の赤系の花の発色も鈍い

G20Xを左斜めから見たところ。こちらは正面から見た場合とほとんど遜色がなく、左側の白い花もきちんと見えているのがわかる

Z10Xを斜め下から見たところ。横方向から見たときほどではないが、画面の明るさがやや落ち、色の発色も少々鈍っている

G20Xを斜め下から見たところ。こちらは正面から見た場合との差がまったくないと言えるレベル。発色も鮮やかだし、細かな階調もしっかりとわかる

ここまで説明したとおり、右斜めから見た場合、斜め下から見た場合とも、G20Xの方が圧倒的に正面から見た場合の映像との差が少なく、視野角の影響が少ないとわかる。

正面からのコントラストの高さと、視野角の影響はトレードオフの関係にあるので、テレビの真正面のベストポジションでテレビを見られる環境ならばVA方式が有利だし、斜め方向どころか自由な場所でテレビを見たい場合(テレビはラックに置いているが、自分は床に寝転んだ状態で見る、逆にテレビは床置きし、自分は立った状態で見るというような場合も同様)はIPSが有利となる。

また、この視野角の問題があるせいで、量販店などでテレビを見比べたときにその実力を勘違いすることがあることも覚えておこう。あるテレビは正面に立って見ているが、見比べている別のテレビを斜めから見ているというような場合だ。

見比べている(斜めから見ている)テレビがVA方式だとしたら、斜めから見てきれいに見えるわけがない。店頭でテレビの画質を見比べるときは、それぞれのテレビの正面に移動して見る。これが鉄則だ。

(次ページに続く、「バックライトの色も画質に影響する

バックライトの色も画質に影響する

光源となるバックライトの質も重要だ。バックライトの光は基本的に白色(RGBの波長の光を等しく備えた光は白になる)。これが青白かったり、黄色かったりすると、RGBのバランスが崩れ、映像が青っぽくなったり、黄色くなってしまう。

また、Rの光の純度が低い(朱色やオレンジ色の波長が多く含まれ、濁った赤になる)と、赤色の再現性が劣ってしまうこともわかるだろう。

かつては液晶テレビの光源は蛍光灯とほぼ同じ原理の「冷陰極管」が使われていた。これは、真空のガラス管の中に放出された電子が、管の内面に塗布された蛍光体を刺激して光を発する仕組みだ。蛍光体の材料を改良することで純度の高い白色が得られるようになってきたし、RGBの色の再現範囲も広がった。

東芝の液晶テレビのLEDバックライト。左が直下型で右がエッジ型(横置き式)

そして、現在の液晶テレビはほとんどのモデルが光源としてLEDを使用している。いわゆる白色LEDと呼ばれるものだが、実はこれ、青色LEDに黄色(赤と緑の波長の光を取り出せる)のフィルターを追加して「白っぽい」光が得られるようにしたもの。緑は光の波長の中間にあり、比較的安定した波長なので十分な緑の成分を得られるが、赤の波長の光はやや弱く、初期のLEDバックライトを採用した液晶テレビは赤の再現が苦手だった。

これも、現在では黄色のフィルターを工夫したり、半導体技術によるLEDの発光制御で純度の高い赤の波長を得られるようにしたりできるようになった。こうした技術を採り入れた液晶テレビがいわゆる「広色域化」をうたうモデルである。

苦手だった赤色はもちろんのこと、青や緑の波長も純度を高めているので、色再現の範囲がさらに広がっている。だから、最新の薄型テレビの実力を確かめてみたい人は、量販店のテレビ売り場などへ行って、テレビの赤色に注目してみるといい。朱色や暗く沈んだ赤ではなく、真っ赤な色が再現できていることに気付くはずだ。

最新の液晶テレビの実力に驚け!
直下型LEDバックライト+エリア駆動の威力

液晶パネルは原理的にコントラスト比が高くない。先ほどはVA方式で3000~5000:1、IPS方式で1200~2000:1ほどのコントラスト比と書いたが、コントラスト比に優れるプラズマテレビは最終モデルでは20万~100万:1に近い値を実現していた(すべてメーカーが公表したデータに基づく、ネイティブコントラストの値)。有機ELは黒を表示する画素は完全に消灯するので、コントラスト比は測定不可能なレベルになる。

液晶テレビはコントラスト比が低いため、暗部が発光する「黒浮き」が起きやすく、暗部の再現性が劣ると言われてきた。

これはなぜか? その答えは液晶パネルがバックライトの光源で照らして映像を表示するからだ。窓からの外光をカーテンなどで遮る場合、よほど徹底しないと昼間の強い光が漏れてしまうように、液晶によるシャッターもバックライトの光を完全に遮ることができない。

つまり、光が漏れるから本来ならば真っ黒になる部分が光ってしまうわけだ。

ならば、映像の黒い部分はLEDを消してしまえばいいのでは? この発想で生まれたのが「エリア駆動」という技術。液晶パネルの後ろ側に配置されるバックライト用のLEDは、液晶の画素ほどではないがかなりの数が等間隔に配置され、パネルを均等に照らすようになっている。

下の写真を液晶パネルに表示する場合、直下型であれば上のようにLEDライトを点灯させることで、暗い部分は真っ黒に表示できる

このLEDたちをグループごとに分け、液晶パネルが表示する映像の明るさに合わせて個別に画面を照らす明るさを調節すればいい。この効果はかなりのもので、夜空に浮かぶ花火の映像のように、明るい部分と暗い部分がはっきりと分かれている場合、液晶でもかなり引き締まった黒と色鮮やかな花火の輝きを再現できる。

エッジライトの場合、上下または左右のLEDを部分的にコントロールすることで、ある程度の明暗のメリハリを得られる

ただし、エリア駆動も万全ではない。液晶テレビのLEDバックライトは、画面の上下端(または両端)にだけLEDを配置し、導光板を使って画面全体を均一に照らすエッジライト型のものもある。これでは、エリア駆動をするにもグループ分けする数が少ないため、コントラスト感向上の効果はそれほど大きくはない。

エリア駆動の効果が十分に得られるのは、液晶パネルの後ろ側にLEDを敷き詰めるイメージで配置する直下型LEDバックライトを備えたモデルのみ。ただし、LEDの数がかなり増えてしまうため、価格も高い。画質を優先する高級モデルのみの限られた装備とも言える。すべての液晶テレビが直下型LEDバックライト+エリア駆動採用となればいい話ではあるが、それは液晶テレビの価格が高価になることも意味するわけだ。

ちなみに、薄型テレビにおいて高級テレビに位置づけられる4Kテレビでは、直下型LEDバックライトの採用率はかなり高い。逆に価格が重要になるフルHDテレビでの直下型LEDバックライトの採用率はかなり低いと覚えておこう。

まだまだある。最新の薄型テレビの要注目ポイント

ディスプレーとしての液晶は、テレビとして採用されることがほとんどなかったブラウン管テレビの時代では、テレビ用の表示パネルではないとさえ言われていた。大画面化が難しい(解決済み)、視野角に制限がある(方式により解決済み)、コントラスト比が低い(コスト次第で解決可能)と、山のように抱えてきた弱点を技術の力で乗り越えてきた。言わば液晶の画質の進化は技術の進歩の証なのだ。

その結果、高精細化がしやすい、画面輝度が圧倒的に高い(画面が明るい)、しかも低消費電力、長寿命といった数々のメリットが生き、現在の薄型テレビの主流の座を勝ち得たのだ。液晶テレビから液晶テレビへと買い換えて、その画質の良さにもしも驚いたら、それを実現したテレビメーカーのたゆまぬ努力の成果を賞賛してほしい。

次回は、4K放送や8K放送など、これからのテレビの進化や、これから登場する新技術や新規格について紹介していく。期待の次世代テレビと呼ばれる有機ELテレビも詳しく解説していくのでお楽しみに。

■関連記事