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ローカルから始め、グローバルに拡大するサービスが続々

なぜ急成長できたのか? AWSから見たインドのスタートアップエコシステム

2024年01月29日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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創業を何度も繰り返す、インドのデベロッパーエコシステム

3つ目のインドのユニークな点は、SaaSのスタートアップが成熟しているため、大規模なデベロッパー・エコシステムがあることです。

特にインドにはFreshWorksというグローバルでの成功例があります(関連記事:カスタマーサポートやCRMを手がけるインドのユニコーン企業Freshworksが国内進出)。顧客管理やヘルプデスクをサービスとして提供するFreshWorksは2009年に始まりました。2009年は、世界的な不況や経済的な制約があり、大変な時期でした。しかし、SlackやAirbnbのような新興企業が、逆境にもかかわらず大成功を収めた時代でもありました。彼らは今日も成長しています。米国でIPOを果たした彼らは、多くのスタートアップに影響を与えています。

今日インドには巨大なSaaSのエコシステムがあります。彼らの多くは2度目、3度目、4度目の創業者であり、イグジットに成功した経験を持っています。彼らは再びクラウドの力でさまざまなテクノロジーを使い、世界に向けてインドでサービスを構築しています。

――スタートアップの先輩たちがグローバルへの道を開いてくれるのですね。

Nutanixはご存知でしょうか? Nutanixの元CEOであるDheeraj Pandey氏と共同創業者のManoj Agarwal氏はDevRevという新しいスタートアップを立ち上げました。彼らは開発者をターゲットに、1つのCRMアプローチですべての部門を1つにまとめ、顧客にサービスを提供しようとしています。

この2人の創業者は、Nutanixで大きな成功を収めましたが、彼らは非常に謙虚なスタートから再び旅を始めました。Amazon DynamoDBやAmazon EKS、AWS Lambdaなどをを使っています。そして、わずか8ヶ月でゼロから100万トランザクションまで対応できるようになりました。顧客がどこにいるかに応じて、複数の地域にデプロイすることができます。また、マーケットプレイスに上場しているため、非常に迅速に規模を拡大することができます。彼らはまた、生成AIのコパイロットをベースとしたサービス強化を行ない、わずか1ヶ月でサービスを提供できるようになりました。

彼らはゼロから再出発し、インドでサービスを立ち上げながらも、グローバルに向けてビルドすることもできます。これがユニークな特徴だと思います。クラウドテクノロジーは似ていますが、実験的なスケールアップを成功させるための柔軟性は、インドのスタートアップがこぞって利用しているものです。彼らはユニークなインドの顧客ニーズに対応していますが、グローバルなニーズに対応する速いスタートアップもあります。

――スタートアップは具体的にはどのようなテクノロジーを活用しているのですか?

クラウドへのデプロイを迅速にする方法としては、Amazon EKSが利用されています。これにより、効率化を図り、コストを削減しています。またAmazon Bedrockを実験的に使用しており、AIコパイロットを導入し、簡単にサービスをデプロイできるようにしています。Amazon Bedrockは昨年から始めたばかりで、まだ初期の段階ですが、AWSのさまざまなサービスを利用して開発したサービスを、AWS Marketplaceに掲載することができます。そのため、企業やスタートアップを問わず、世界中の多くの顧客にアクセスすることができるようになり、彼らの売上を伸ばすことにもつながっています。彼らは今、製品を強化し、顧客サービスを向上させ、世界のさまざまな地域に進出することができるようになりました。

生成AIを活用するスタートアップたち なぜここまで成長したのか?

――生成AIの分野でのスタートアップの事例も教えてもらえますか?

もちろんです。1つ目はyellow.aiというスタートアップです。彼らは会話型サービスのリーダーで、チャットボットを通じてカスタマーサービスを行なっています。yellow.aiは独自の大規模な言語モデルを開発し、Amazon SageMakerにデプロイしました。これにより、35のチャネルと135の言語で交わされた顧客との会話のインプットを利用できます。大規模な言語モデルによって、共感と感情的な会話を改善し、ハルシネーション(幻覚)をほぼゼロにすることができました。今日、会話の90%は人間の介入なしにセルフサービスで行なわれています。非常に高い品質を維持しています。

yellow.aiはまた、Amazon Bedrockを利用して、目的指向の会話モデルを試作し、展開しています。たとえば、携帯電話を買ったが、使えなくなった。この場合、顧客がコンタクトセンターに電話する最終的な目的は、返金してもらうこと、誰かが電話に出ること、これらすべてを完了させることです。Amazon Bedrockを利用したチャットボットはこうした会話モデルを読み取ることができます。

2つ目の例は、Blend.AIを展開するBLENDIT STUDIOSです。Blend.AIのアプリは、中小企業の販売者が商品の写真を撮影するためのアプリです。写真を撮ってBLENDにアップロードするだけで、モデルや商品を検知して、背景のノイズを取り除き、プロフェッショナルな写真に変えてくれます。その上で、16のコマースサイト、8つのソーシャルメディアサイトに対応させてくれます。中小企業の販売者は、プロのカメラマンを雇う必要なく、高品質の画像を手に入れることができます。これがBlend.AIの一番の売り所です。

――テキスト処理と画像解析でAIを利用している事例ですね。

3つ目の例は、INDmoneyという新興企業です。INDmoneyは資産管理プラットフォームで、すべての投資を1か所にまとめることができます。インド人がインド株や米国株に投資したい場合、金融ニュースエンジンを通じてさまざまなアドバイスを提供します。毎日5万人のユーザーがこのニュースエンジンを利用しています。そこで彼らが行なっているのは、株の購入や投資に関するアドバイスを集約し、要約して提供することです。

彼らがやりたかったことは、ストーリーを非常に没入感のあるものにしたかったということです。そのため、ストーリーに関連した画像を求めていました。ストーリーに関連したものでなければならない。そこでAmazon Bedrockを利用し、ストーリーに関連した画像を生成できるようにした。しかも、それを非常に迅速に行なえます。だから時間の節約になっているし、自前でやるより100倍安いのです。

彼らは合計で100万人の加入者がいます。こうした加入者のために400万ものユニークなバナーやパーソナライズされたバナーを15分で作ることができます。パーソナライゼーションは大規模に、しかし非常に短時間で行なえるのです。

――ここまで急速にスタートアップのエコシステムが成長した理由はなんだと思います?

いくつか理由はありますが、若年層の人口比率が高いこと、近年スキルが向上したこと、先に創業したリーダーが次の創業者たちを守ったこと、イノベーションを促進する政府の施策や資金的な後押しなどがあったと思います。

多くの可能性や将来性があるという考えから、インドは大きく変わりました。今日インドはそれを実現するためのパフォーマンスを発揮し始めています。

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