ハードウェアとしてのキーボードに、極めて強い思い入れや高度な技術的関心があるわけではないが、昔からコンピューターと人との関係をベースとした入力操作装置としてのキーボードには、強い興味がある。どちらかというとミーハーな筆者は、昔からキーボードの入力時のサウンドやクリックのフィーリングの方に強い関心があった。
まだまだパーソナルコンピューターが、非力でWindowsパソコンの画一的な世界になる以前の1980年代の日本には、多くの設計思想の異なるパソコンやそれらに最適化されたユニークなレイアウトのキーボードが溢れていた。よく言えば多様性の世界、悪く言えば機種間のハードやソフトの互換性のない混沌とした時代でもあった。
しかし、当時も世界に目を向けて見れば1981年に発表されたIBM PCとその互換機が圧倒的なシェアであった。そして1987年には、それらIBM PCと互換の後継機種として新しいテクノロジーを搭載したIBM PS/2が発表された。長く各社独自のパソコン文化を歩んできた日本も、1990年のDOS/V発表を機に世界と同じIBM PCの世界に統合され、現在のWindowsパソコンの世界に舵を切ったのだった。
IBM PS/2と同時に発表された英語キーボードをルーツにして、ナチュラルに日本語を拡張したキーボードが1988年に日本国内でも発表された。日本語キーボードの5576-001、5576-002、5576-003の3機種はその後登場し、現在の日本語キーボードの原器となった5576-A01のベースとなったモデルでもあった。
3つのキーボードの中でも、5576-003はブラザーのキースイッチを採用し米国のPS/2スペースセーバーキーボードと同様に、テンキーのないコンパクトなタイプだった。筆者も当時購入し何年か愛用していたが、うかつにも断捨離してしまって今は手元にはない。
最近はネットオークションを探しても見つけることはまず不可能、見つかったとしても当時の定価の2倍〜3倍の6万円以上の出費を覚悟しなければならない人気のキーボードの頂点機種だ。
今回、偶然にも1980年代から現在までずっと一緒にいろいろな仕事をしてきているDOS/Vの基本設計エンジニアだった某氏に話したところ、なんと今もしっかり保有しているという。早速連絡して脅かして、しばらく貸し出してもらことになった。
早速届いた5576-003は使わなくなって長い間倉庫に保管していたらしく、全体に薄汚れしていた。早速外観だけは毛足の長いキーボード掃除用のブラシで大まかにホコリを取り払い、水道水と白いメラニンスポンジで表面をクリーニングしなかなかきれいになった。さすがに某氏も、貸し出しのままなし崩し的に盗られてはまずいと思ったのか、背面には真新しいテプラで「返却先」が大きく貼り付けられていた。
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