「ベートーヴェン」のインクを買う
目に止まったのはドイツの「Dr.ヤンセン」なるインクメーカー。フランクフルトとケルンの中間の小さな村にあり、伝統的な万年筆用の手作りインクを、特別な古い製法で製造する小さなメーカーだそう。オーナーのフランツ・ヨセフ・ヤンセン博士は、長い間、様々な時代のインクの色彩、処方、製法を研究しているといいます。
……というエピソードを聞いたら、はっきり言って欲しくならずにはいられない。少年時代に封印していた「知る人ぞ知る幻の……」的なアイテムを所有したい欲が止まらなくなりました。
しかもDr.ヤンセン、インクの名前が「色」じゃないんですね。「Napoleon Bonapart (ナポレオン・ボナパルト)」「Friedrich Schiller(フリードリッヒ・シラー)」「Charles Dickens(チャールズ・ディケンズ)」なんて具合に、偉人の名前を使っている。これまた、そそられます。
余談ながら、「Karl Marx(カール・マルクス)」という赤いインクがあって、さすがに笑いそうになりました。
しかし、さすがにシェイクスピアやゲーテやディケンズを使うのはちょっと……という妙なためらいもありまして……。偉大な作家の名前で汚い字を書くのは恐れ多いというか、なんというか。
というわけで(?)「Ludwig van Beethoven(ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン)」にしました。色はセピアブラウンです。いや、別にベートーヴェンが偉大ではないと言いたいわけではないのですが、まあ、文豪の名前よりは気後れしない。
余談ながら筆者とベートーヴェンは誕生日が同じ(12月17日。ベートーヴェンは洗礼日ですが)で、せっかくですからこういう偶然を盛り込み、自分のテンションを高めたいというのもありました。
さて、万年筆の魅力はどこにあるのでしょうか。
筆者が感じたのは、書くことの快感、所有することのよろこび、という2点。
書くことの快感。書く、という行為が、とにかく気持ちよいのですね。よい道具は使いたくなる。筆記が気持ちよいから、何かを書きたくなる。書くことがあるから書くのではなく、万年筆で書きたいから書く。高価なビデオカードを購入したら意味もなくベンチマークを走らせたくなるような。ちょっと違いますか。
そして、所有することのよろこび。自分はちょっとよいペンを持っているのだぞ、よいインクを使っているのだぞ、といううれしさ。コレクションとしては万年筆自体はもちろん、インクを集めている人もいらっしゃるそうですが、気持ちはわかります。「インク沼」なんて言葉もあるそうで、深い世界のようです。
はたして、筆者の万年筆への愛はどのように深まっていくのか。何かあったら、また記事にしたいと思います。
コジマ
1986年生まれ。担当分野は「なるべく広く」のオールドルーキー。ショートコラム「MCコジマのカルチャー編集後記」、ディスクレビュー「DJコジマの作業“中”BGM」ASCII倶楽部で好評連載中!
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