マニア垂涎! ブレンボのブレーキ
ザックスのダンパーで足を引き締める
というわけで、マイナーチェンジでのビッグニュースといえる「BRZ GT」へ乗ってみる。その仕上がりは、ほぼ市販状態といえるものだが、あくまでもプロトタイプであることを最初にお断りしておきたい。
さっそく、富士スピードウェイのショートコースにイン。ここでは3速まで入るか入らないかの速度域、2速メインで走行した。まずは気になるブレーキチェックから。下りながらの短いストレートで3速にシフトアップ。1コーナーでブレーキペダルを踏み込むと……、意外にも強烈に効くという設定にはなっていない。減速Gだけでいえば、標準ブレーキを搭載する車両とほぼ変わらないレベルだ。
ただ、そこからブレーキを抜いていくような操作をすると、標準ブレーキとブレンボの違いは明確になる。ブレンボのブレーキシステムは、“ペダルを踏んで、抜いて、踏みなおす”といった操作をしたときのカッチリ感が明らかに優れている。VDCにトラックモードが新設定された目的のひとつに、サーキットでのスキルアップを意識した面もあるというが、ブレンボの採用も絶対的なパフォーマンスというよりはドライビングテクニックを磨くという意識が強いといえそうだ。もちろん、アフターパーツなどでブレーキパッドを交換すれば、そのポテンシャルをパフォーマンス寄りに引き上げることは可能だろう。
ただし、巨大化したブレーキシステムを収めるために、タイヤサイズはそのままにホイールの幅を広げてしまったためか、タイヤの性能を引き出しきれていない印象も受けた。具体的には、タイヤが左右に引っ張られているために、路面とのコンタクトが心許ない感触なのだ。
つまり、標準車で感じた安心感が若干だが失われている。もちろん、あくまでも標準車とGT(プロトタイプ)を比較したときの話ではあるが、ブレーキパッドやタイヤのチューンナップなどユーザーのカスタマイズによって、性能を上げる伸びしろを残しているという印象だ。
ちなみに、サスペンションもZF製のザックス・ダンパーを採用するなど、標準車とは異なる仕様となっているが、前述したようにタイヤの路面を掴む印象が異なっていたので、その足回りが生み出す走りの真髄を味わうことはできなかった。もっとも、ザックスのダンパーなどで鍛えたシャシーだからこそ、ホイールの幅という微妙な違いを感じさせられるのかもしれない。
もともとBRZは速さではないところでスポーツを感じることのできる類のスポーツカーであるが、操ることの楽しさ、ドライビングがうまくできたときの喜びを、これまで以上に強く感じさせる味付けに仕上がっている。
100台限定の「イエローエディション」
予約は7月7日より
さらに、BRZ GTのデビューを記念した100台限定の特別仕様車「イエローエディション」の先行予約が7月7日から始まるのも見逃せない。
これまでのスバル車にはなかった新色のイエローボディーを、ブラックのエンブレムやドアミラーカバー、アルミホイールなどで引き締めた特別仕様車は、インテリアもブラックとイエローのコンビネーションとなり、その希少性をアピールする。
スバルのスポーツカーといえば「WRブルー」という伝統カラーの印象も強いが、WRC(世界ラリー選手権)で鍛えた走りの次にくる、新しいスポーツドライビングを提案しようという意思を、このボディカラーと、GT(プロトタイプ)の走りに感じたのである。
ステレオカメラを使ったプリクラッシュセーフティーシステム「アイサイト」など先進安全システムに強みを見せるスバルのクルマ作りは、徐々に自動運転に向かっている。しかしながら、BRZのようにドライビングファンを追求しているのも、スバルというブランドの持つ一面でもある。
むしろ、こうして純粋に走りを楽しむクルマを作っているからこそ、人間と一体になった自動運転技術につながるのかもしれない。そんな風に感じさせられたBRZ GT(プロトタイプ)との初対面だった。
なお、BRZについては物理的な理由(ステレオカメラの取り付け位置の確保が難しい)から、現状のボディーでは「アイサイト」が装備されることはないという。アイサイトは、そのシステムからオートマチックトランスミッション(AT)であることが求められる。つまり、アイサイトを装着できないであろうBRZには、いつまでもマニュアルトランスミッション(MT)の設定が残るというわけだ。
実際、今回のマイナーチェンジにおいて従来はMTとATを設定していたグレード(R カスタマイズパッケージ)からATが廃止され、MT専用になるという、AT全盛のトレンドからすると考えづらい変更もあったくらいだ。
ガチガチではない、それでいて志の高いピュアスポーツとしてのキャラクターを、さらに磨きあげたマイナーチェンジとなったのである。