名古屋大学は、有機分子ベンゼンの6つの腕にそれぞれ別の置換基を繋ぐという、世界初の完全非対称6置換アリールベンゼンと合成・単離に成功した。
ベンゼン環C6H12は炭素が6つ輪になった構造の分子。水素原子の代わりにさまざまな分子を置き換える置換ベンゼンは、その組み合わせが膨大な種類となることで知られている。それぞれ多彩な性質を持つ物質になることから有機化学の基本とされ、置換された各種物質は現代の工業・医薬などあらゆる産業に利用されている。しかし、ベンゼン環のどこにどの分子を繋げるかという自在な反応の制御はできておらず、長年「多置換ベンゼン問題」として未解決のままだった。
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所などの研究グループでは、これまで15年以上にわたって多置換有機分子のプログラム合成の研究を進め、さまざまな多置換有機分子を合成し、狙った場所に特定分子を繋げる手法を確立してきた。
新たに開発した手法では、硫黄を含む有機分子チオフェンから開始し、各種分子をカップリング反応によって次々と繋げてゆき、ついに全て6つの水素原子をすべて芳香族置換基(アリール基)で置換したヘキサアルールベンゼン(HAB)を合成・単離することに成功した。6種類すべてが異なるアリール基のHABはこれまで合成されたことがなく、その物性は未知だった。
今回確立したプログラム合成手法は多置換ベンゼン問題を完全に解決するものではないものの、ひとつの解答であるとしている。またこの手法は汎用性があり、自在な多置換ベンゼンを合成できることから、これまでにない有用な物質の合成・利用など、有機化学の応用が飛躍的に広がる可能性を秘めている。