英Reutersによれば、中国政府機関の国家工商行政管理總局(State Administration for Industry and Commerce:SAIC)が7月28日(現地時間)、独占禁止法の調査で米Microsoftが中国に展開する4つの都市(北京、上海、広州、成都)のオフィスに急遽立ち入り調査を行なった。
翌30日に出されたSAICの声明文では、調査の理由として「MicrosoftがWindowsやOfficeソフトウェアについて必要な情報をすべて開示していない」ことを挙げており、セキュリティ上の懸念がその根底にあるとしている。
折しも、亡命中の元CIAエージェントであるEdward Snowden氏が、米国政府がNSAを介した秘密裏の情報収集を暴露したこともあり、特にターゲットのひとつとなっていた中国政府が反発を強めている背景がある。
ドイツのDer Spiegel紙が同氏へのインタビューで、Apple、Cisco Systems、Dellといった企業が各々の製品にバックドアを仕掛けているという報道もあり、MicrosoftのWindowsを含む外国製品への警戒感を抱いているという事情もあるだろう。
一方で、中国政府が定期的に外国企業をターゲットにした排外キャンペーンを国民一丸となって実施し、自国産業の保護と外国企業との交渉で優位な条件を得るべく活動している向きもあり、Microsoftへの査察は2つの思惑が入り交じった行動のようにも思える。このあたりの事情をまとめてみる。
中国で狙われる「八大金剛」(Eight Guardian Warriors)とは
ことITの世界で米国メーカーの製品が高いシェアを獲得していることは多くが知るところだが、中国自身はその国土の広さと人口の多さから市場開拓の格好のターゲットとされており、米国を含む多くの海外メーカーが進出している。最近でこそITハードウェアの世界で躍進が見られる中国だが、技術面では海外企業の後塵を拝していたこともあり、海外製品に依存する部分が大きい。
中国政府は海外企業進出の条件として地元企業とのジョイントベンチャー設立を求めたり、法規制で海外メーカーによる寡占に一定の制限を設けたりと、地元産業保護と成長を念頭に置いたバランス戦略を推進している。テクノロジーにおける制限では、中国独自の3G通信規格であるTD-SCDMAの存在が有名だ。
これは海外製品の直接流入を防ぐ策のひとつとして知られているが、一方で広域普及には失敗したとの意見が多く、中国の内と外のバランス戦略は一進一退の攻防を続けている。
前述Snowden氏のNSAの件もあり、最近の中国政府の海外企業へのもっぱらの攻撃材料はサイバーセキュリティ関連に偏っている印象がある。Wall Street Journalでは、特に情報収集システムPRISMに関わったとされる米国企業を「美国八大金剛」(U.S. Eight Guardian Warriors)と呼び、攻撃のターゲットとしている節がある。
昨年2013年末には中国経済週刊(China Economic Weekly)が第2次世界大戦時代の米国のプロパガンダポスターで使ったイラストと「He's watching you.」というメッセージを組み合わせて8つの企業をあげつらうなど、エスカレートする方向にあるようだ。
8つの米国企業とは「Cisco Systems」「IBM」「Google」「Qualcomm」「Intel」「Apple」「Oracle」「Microsoft」で、特にQualcommについてはつい先日中国拠点への査察が入っており、Appleも「セキュリティ上の懸念がある」として後述のCCTVキャスターに7月初旬ごろに名指しで批判を受けている。
Ciscoは、中国のインターネット検閲システム「Great Firewall」(金盾)構築を助けた中核企業のひとつとして知られるが、一方で同社ルータ製品にはバックドアが存在し、中国をハッキングや監視の脅威にさらしているというSnowden氏の告発を根拠に攻撃のターゲットにされるなど、非常に難しい立場にある。
元をたどれば、中国の国策企業であるHuaweiが産業スパイ行為でCisco製品をコピーして世界シェアを拡大したことに始まり、Huaweiの伸張に警戒感を抱く米国政府がインフラでの同社製品の利用を禁じたことに対する中国政府の報復という話もある。根底にはどちらの政府も「自国産業保護」が念頭にあると考えている。