1996年にスタートした、いちローカル局の低予算深夜番組が、いまだに全国にファンを持ち、グッズやイベントに人が群がる人気ぶりだ。北海道テレビ放送(HTB)制作のバラエティ番組「水曜どうでしょう」である。2002年に番組は終了しているが、全国の放送局で繰り返し再放送され、DVD売り上げは300万枚を超える。同番組を人気コンテンツに育てあげた、チーフディレクターの藤村忠寿氏に話を伺った。
若者のテレビ離れと同時に、かつてテレビっ子だった世代にも「テレビがつまらなくなった」という声は少なくない。世間の声に対して、藤村さんはどう考えているのか。
「つまらなくなった、と言っても、今のテレビのレベルが下がっているわけじゃない。昔の番組の方がひどい作りのものはむしろ多かった」と、藤村さんは現場からの率直な感想を語る。
では、「テレビがつまらない」論はなぜ起こるのか。
「それが一番納得するからじゃないですか。力が落ちているのは間違いないけど、番組の中身を評価しているわけではなく、テレビを取り巻く環境の変化を説明するときに『つまらなくなった』とするのが一番、言いやすいからでは」と藤村さんは分析する。
昔はテレビしかないから、誰もが見ていた。だから、テレビに力があった、というのは間違いないだろう。「水曜どうでしょう」が始まった1996年頃と比べても、現在は視聴者に選択肢が増えていることを藤村さんも実感するという。
テレビは視聴者にとって、決して特別なものではなくなった。むしろ、「なんだか昔ながらの権威みたいに見られている」と藤村さんは捉えている。だから、世間では「テレビよりもこっちのほうが面白いよ」とばかりに、目新しいネットサービスやスマホアプリが注目される。
それは単に、テレビが媒体として「新しくない」というだけのことで、コンテンツ自体は「依然、力を持っている」と藤村さんは力を込める。
にもかかわらず、ソーシャルメディアが流行ると、とりあえず「ツイッターを使う」ことが前提の企画を制作現場が求められるなど、番組内容が後回しになる傾向も見られるという。
「放送局はバブルで儲かっていたときに、コストや手間のかかる制作部門を切り離して、効率的に、大量に番組を作るようになった。今、放送局の中で番組を作っている社員は、ほんの一握りです。しかも、現場でモノを作っているわけではなく、ほとんどが全体を統括する立場でしかない」。
だから、新しいメディアであるインターネットの存在に焦りを感じるのだ、と藤村さんは考える。
「僕らローカル局は人数も予算も限られているので、一人一人の社員が自分で手を動かして、撮影から編集まで何役もこなす形で番組作りに携わっている。だからインターネットについても、自分たちが作った番組で何かの形で利用してやろうと、焦らずに考えられるんです」。
自前で番組を作らなくなるような放送局の体制では、インターネット時代にコンテンツメーカーとしての優位性を失いかねない、というわけだ。