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NTT Comのクラウドサービス部 部長に聞いた

AWSにコストで負けることが必然だとは思わない

2013年06月05日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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われわれのシステムをマレーシアに移してもいいくらい

TECH 大谷:この1~2年で注力しているグローバル案件の進捗はいかがでしょうか?

NTT Com 田中氏:この役職について2年くらいですが、デリバリの調整やグローバル案件の対応など、確かにグローバルの仕事は増えましたね。よく講演で話しますが、新しく配属された社員18人のうち10人は外国人で、3人は日本語が話せません。おのずと会議は英語ですし、ドキュメントも英語で作るようになりましたね。

このように、われわれもグローバル化しようとしていますし、お客様自体もグローバル化しつつあります。国内でのICT展開であれば、既存のSIerさんが強いんですけど、海外で日本と同じようなICT環境を持ちたいと思うと、プレイヤーはとても少なくなります。現地のSIerで安いけど、品質がイマイチとか。その結果として、まだまだ数は少ないですけど、グローバル案件は増えていますね。

今回、ホスティングサービスでも同じサービス、同じインターフェイスをがんばって出しましたけど、AWSをのぞくと、これって意外と他社では実現できていません。こうした点は、わりと特色が出ていると思います。アジアでは集中的に投資もしていますし、絶対負けたくないですね。

マレーシアではすでに4番目のデータセンター建設を開始している

特にマレーシアのサイバージャヤは古くから進出していますので、そのアドバンテージはあります。国家としての優遇措置も充実していますし、なにしろ電力が安い。土地も人件費も安い。じゃあ、東京にデータセンター置いておく理由って、なにかあるんだっけと。正直、われわれのシステムを移してもいいんじゃないかくらい思います。

TECH 大谷:実際にNTTのシステムが一部でもマレーシアに移ったら、けっこうなアピールですね。あと、「NTTさんにしては……」という言い方は大変失礼ですけど、速いですよね。増床のスピードとか、現地法人の設立とか。

NTT Com 田中氏:これでも上司からは遅いと言われていますよ(笑)。まあ、先日の有馬(社長)のプレゼンにもありましたように、データセンターやクラウドに集中的に投資していますし、ライバルはとにかく速い。ですから、部下にも「クラウドスピードでやってくれ」とおねがいしています。これが面白いもので、データセンターも作ったときに売れてくると、増床のスピードも速くなり、うまく回ります。スピードと規模は両輪だなと感じますね。

このスピードでも上司からは遅いと言われています(笑)

TECH大谷:こう話を伺っていると、インフラ事業を考えるときのある意味NTT的な「悠久の時の流れ」と、AWSに追いつこうという「クラウドスピード」が同居しているところに、違和感を感じてしまうのです。

NTT Com 田中氏:これは私の仕事のやり方ですし、有馬のトップダウン的な姿勢もあるのかもしれないですが、「まず出して、世に問え」と言っています。ライバルは本当に速いので、正直ここらへんは必死ですね。

“ドンキホーテ”でもSDNはやる

TECH 大谷:次に御社が注力するSDN(Software-Defined Networking)への取り組みについてお聞きしたいと思います。まずはSDNのサービス導入までのきっかけを教えてください。

NTT Com 田中氏:SDNのような技術が登場してきたということは、既存の通信サービスに対する不満がお客様にはあったのだと理解しています。サーバーが仮想化され、AWSなどで従量課金で手軽に利用できる昨今、専用線が帯域あたりいくら、ポイントツーポイントでいくらでは、長い目で見たらもたない。僕らとしても、ネットワークを仮想サーバーのように柔軟に使える仕組みを入れたいと思い、SDNにチャレンジしています。ただ、本当にチャレンジ。山登りであれば、まだ1~2合目という感じですね。

TECH大谷:御社がSDNを導入する目的はなんですか?

NTT Com 田中氏:1つはネットワーク設定の即時反映という内部的な目的です。現在、ネットワークの設定や変更にけっこう手間がかかっています。サービスオーダーというやつですが、トラブルの元にもなります。SDN導入でこれを自動化することで、コストを削減できたり、リードタイムを短縮できるかもという期待です。グーグルさんとかも、同じ導入背景があると思います。

もう1つはネットワーク設定のセルフマネジメント化です。現状は、お客様からSIerや通信事業者に頼んで変更してもらいますよね。つまり、使いたい人が自由に触れないようになっています。これをエンドユーザーがネットワークを自由にコントロールできるようにしたり、より先にネットワークを意識しないような世界が作れるのであれば、そこにSDNを導入する意義があります。

TECH 大谷:単にインフラで使っているだけじゃなくて、顧客へのサービスメニューでSDNを活用しているんですよね。

NTT Com 田中氏:たとえば、現在はデータセンター間のデータバックアップの際に、ネットワーク帯域を増やすというサービスをSDNで構築しています。あと、オンプレミスからクラウドの移行にSDNを使うとか。バックアップやハイブリッドクラウドといった使い方もあるでしょうし、今後もSDNをサービスとして溶け込ませたメニューをいろいろ作っていきたいと思います。

SDNに関しては、短期的なコストで考えていません。可能性に賭けています

SDNに関しては、可能性に賭けているというのが正直なところです。SDN対応のスイッチはまだ高いですし、L2スイッチを扱えるエンジニアもいっぱいいます。最大手ベンダーの機器使えば、SDNと同じようなことすらできるでしょう。短期的なコストや合理性で見たら、SDNを導入するメリットはまだ小さいです。

でも、もっとすごいことができ、世の中を変えられれば、導入する意味があるんです。多少“ドンキホーテ”のような存在になっても、やるぞという意気込みです。

ルールが変わるのは大歓迎

TECH 大谷:田中さんとしてはNTT Comのクラウドサービスはユーザーからはどう評価されているとお考えですか?

NTT Com 田中氏:やはりネットワークといっしょにクラウドを提供できるところは評価されていますね。とはいえ、通信事業者がクラウドをやっているわけで、未だに「魚屋が肉を売っている」ように見られている部分も正直あると思っています。

逆に言えばクラウドビジネスに関しては、過去のしがらみも、失うものもなにもありません。ですから、既存のルールが変わるのは大歓迎です。そのためにグローバルへの投資も進めるし、SDNのような先んじた取り組みもがんばっています。ルールブレイキングすれば、勝ち目があるし、実際にルールは変わりつつありますよ。

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