世界最小、世界最薄、世界最軽量……企業が製品を開発する上でのベクトルの一つ、「世界で最も○○」。技術の進化はめまぐるしく、次々と記録が塗り替えられていく。
そんな中、一風変わった「世界最小」が登場した。米IBMが現地時間の5月1日、YouTubeにて公開した映画「A Boy and His Atom」である。驚いたことに、原子を用いて撮影した映画だというのだ。
公開された映画はこちら。
同社が開発した「STM(走査型トンネル顕微鏡)」と「非常に鋭利な針」「銅」を使って、コマ撮り撮影で製作されたものだという。「銅の表面から1ナノメートルの距離に針を設置し、遠隔操作で原子を一つ一つ特定の場所に配置する」という気の遠くなるほど緻密な作業の繰り返しで撮られた、計242コマが使用されているとのこと。
とはいえ、この恐ろしく小さな映画は同社にとって「全く新たな分野」というわけでもないらしい。
実はこの映画、同社が長年続けている「ナノスケールレベルでのデータ記録」の研究を応用して作られたデモ作品なのだ。同社によれば、物理的な問題で半導体の小型化が難しくなってきているのだという。そこで新たな手法として同社が研究しているのが「原子を用いたデータ記録」というわけだ。
研究の成果として、「1ビットの記録は12個の原子で実現可能」というところまで判明しているらしい。現在一般的に利用されている半導体の手法では、1ビットの記録におよそ100万個の原子を利用しているというから、「原子メモリー」が実現すれば、単純計算で大体8万3333分の1まで記録媒体を小型化できることになる。
「もし商品化されれば、いつか、今まで製作されてきた映画の全てを爪ほどの大きさのデバイスに保存できるようになる」
同社はそう述べている。