巨大なダイサイズとギリギリの設計
歩留まりが上がらずPentium IIIに追い抜かれる
では何が問題だったのか? 当初K6-IIIは400MHz/450MHzの2製品がまず登場した。そのあとに500MHzの製品が投入されるとしていたのだが、これが実現したのはプロセスを0.18μに微細化した2000年以降の話だったことだ。理由は何かと言えば連載64回で書いたとおりであるが、以下の2つが問題だった。
- 0.25μmプロセスで118mm2と、かなり大きなダイであった。当時はまだ200mmサイズのウェハーを使っての製造だったから、もともと生産できる数が少なかったのに、ダイの大型化でさらに数が減った。
- 2次アクセスのレイテンシを4サイクルときわめて小さく設計した。これは性能改善には効果的だったが、その一方でタイミングがぎりぎりになってしまい、500MHzではほとんど動かなかった。
結局0.25μmプロセスのK6-IIIは450MHz止まりとなり、また生産数も少なかった。この結果としてAMDは、デスクトップ向け市場で一度は性能面でキャッチアップしたPentium IIIに、差をつけられることになってしまう。これはAthlonを投入するまで続いてしまった。
Athlonも当初はさらに大きい180mm2ものダイサイズだったから、さらに歩留まりは悪化しかかった。だが、AMDもK6-IIIでいろいろ学習したのか、速度面で深刻な問題が生じる設計は避けていた。また当時はインテルの妨害工作のおかげでマザーボードがなかなか流通しなかったために、CPUだけでなくマザーボードもほとんどないという状況だった。そのおかげで、歩留まりの低さもそれほど問題にならずに済んだのは皮肉である。
それでもAMDは、引き続きAMD K6-IIIを0.18μmプロセスに移行させて、600MHz近くまで動作を引き上げることに成功する。ただデスクトップ市場はAthlonに移行したので、K6-IIIは「モバイル向け」という扱いになる。しかし、当時K6シリーズを採用したモバイル製品は片手で数えられる程度。大手ノートベンダーでの採用例は皆無だったから、製品を出荷してもほとんど利用されるケースはなかった。
また歩留まりの悪さは相変わらずだった。K6-IIIの2次キャッシュの半分を無効化したものを「K6-2+」なんて名前で発売したりもしたが、2000年に入ると本格的にAthlonへの移行が進んだため、K6-2+やK6-IIIを利用する「Socket 7」のインフラそのものが急速に減少して、こちらでのニーズも減り始めていた。
特にモバイル向けのK6-IIIやK6-2+の場合、電圧もやや低めに設定されていたため、旧来のSocket 7のマザーボードの中には利用できないものもあった。これら向けに、サードパーティーが「CPU+電圧レギュレーター」をセットにしたアクセラレーターをリリースしており、主要な製品がこのアクセラレーターという笑えない状況になってしまっていた。AMDは苦し紛れに、組み込み向けにもK6-IIIやK6-2+をラインナップしたものの、採用例は皆無で早々に姿を消した。
K6-IIIは元々がK7出荷までの「つなぎ」であり、またK6-IIIで得られたさまざまな知見はその後のプロセッサーの開発には有用であったと思われる。だが、初代のK6やK6-2に比べると、はたした役割ははるかに低く、これもあってAMDの歴史からはほぼ「無かったこと」にされているという、可哀想な位置づけにある。何が悪かったかと言えば、半分は0.25μmプロセスの熟成が足りなかったことだが、半分は設計がタイトすぎたことであろう。
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