Intel 820のMCHバグが
最終的にTimnaを葬り去る
このスケジュールが狂ったのは、先に出荷が始まっていたIntel 820で、「メモリーアクセスが高負荷時にMCHがリセットされてしまう」というバグが発覚したためだった。インテルはMTHの改修を計ったものの根本的な解決ができず、MTHそのものを再設計する決断を下す。この影響を受けて、2000年6月に開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2000の会場では、「Timnaの出荷が2001年第1四半期に伸びた」という話が複数のマザーボードベンダーから聞こえてきた。
悪いことに再設計したMTHを使っても、MCHがリセットされるバグを根絶することはできなかった。最終的にインテルは、MTHそのものの提供を断念することになる(関連記事)。これはTimnaにとって、非常に大きなインパクトのある決定であった。つまりMTHを使わない図2の構成でしか製品を提供できる可能性がなく、それでは価格的に論外になったからだ。
Direct RDRAMの価格は相変わらず高止まりしていたから、連載29回でも触れた「CPUパッケージにDirect RDRAMモジュールをおまけでつける」という荒技は、ハイエンド向けのPentium 4ならまだしも、既存のCeleronよりさらに下の価格帯を狙うTimnaではできなかった。
かといって、今からPC-133 SDRAMをネイティブでサポートするような構成に、Timnaの設計を変更することもまた不可能だった。TimnaでDirect RDRAMをサポートした最大の理由はRAMBUS社との契約であるが、Direct RDRAMを使うと信号のピン数が少なくてすむという効用もあり、これはパッケージサイズが限られる一体型CPUには嬉しいポイントだった。
これをSDRAMに切り替えた場合、信号ピン数が大幅に増えてしまうから、パッケージサイズそのものが大型化する可能性が否めない。少なくとも、既存の370pinに収めるのは不可能だ。また、すでにいくつかのベンダーがTimnaのデザインで製品を試作していたが、これも全部換わることになる。
さらに重要なのは、これをすると出荷が最低1年近く延びることだ。となると、当然ながらCeleron自身や競合製品の性能もあがることになるから、当初Timnaがターゲットとしていた667MHz~700MHz程度では、性能的に足りなくなる可能性がある。したがって性能の引き上げが必要になるが、そうなるとCPUコアのデザインも既存のままでいいのか? という議論になってくる。
出荷が2002年になると、そろそろ0.13μmプロセスを視野に入れるべきであり、こうなってくると設計そのものの前提が崩れることになる。ここまで来ると、「それなら一度ご破算にして考え直そう」という議論になるのは当然のこと。結果としてインテルは2000年9月に、Timnaをキャンセルすることになった。この2000年9月というのは、インテルがRAMBUSとの契約を結び直してDirect RDRAMを使う縛りから外れたと同時に、PC-133をサポートした「Intel 815/815E」を発表した時期でもある。つまり、RAMBUSの影響の強い製品を一掃すると決めた時期と言える。
この後、インテルはNetburst Architectureへの傾倒を強めていったので、Pentium IIIベースのTimnaが顧みられることはなかった。その一方で、ハイファのデザインチームはTimnaの経験を生かしてPentium Mのデザインに着手していく。その結果から見れば無駄ではなかったのだろうが、返す返すもTimnaでは、「Direct RDRAMを使っていなければ……」というのが関係者の思いだったのではないかと想像する。
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