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インターネットラジオが消滅する?

2002年06月25日 17時16分更新

文● 編集部 佐々木俊尚

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インターネットラジオが、存亡の危機に瀕している。米政府が20日、全米のインターネットラジオ局に対し、レコード会社とミュージシャンに支払う著作権料を“視聴者1人1曲あたり一律0.07セント(日本円で約8銭)”と決定したためだ。一見少額のようにも見える。だが視聴者が数万人から数百万人と急増してきているインターネットラジオにとっては、この支払いは莫大な額に上る。著作権料の支払いが全収入を上回ってしまう局も少なくないといい、今後、なだれを打って局の閉鎖が進みそうな雲行きだ。

米議会図書館のウェブサイト
“1曲1視聴者0.07セント”とインターネットラジオの著作権料を決定した米議会図書館のウェブサイト

インターネットラジオの著作権料支払いをめぐる争いは1998年、米国にデジタルミレニアム著作権法(DMCA)という法律が施行された時点にさかのぼる。この法律に基づいてラジオ局側とレコード業界が支払金額を交渉したが、双方の求めるポイントがあまりにもかけ離れていて交渉はまとまらず、議論は著作権料率仲裁委員会(CARP)に持ち越された。同委員会は今年2月、支払い率を0.14セント(日本円で約17銭)とする案を発表。だが米議会図書館著作権局はこの案を「独断的で、きちんとした理由もない」とくつがえし、半額の0.07セントに決定した。

米国のインターネットラジオ局はこれまで、作曲者と作詞者に対して収入の3.5%をすでに支払ってきている。レコード会社とミュージシャンにも同じようにパーセンテージで支払う形式を求めていたが、米政府は「ラジオ局がその収入のうち、どの程度の利益を音楽から得ているのかを計算するのは難しい。おまけに多くの局は収入が非常に少なく、この方式ではミュージシャンの側に著作権料がほとんど支払われなくなる可能性が高い」という理由でしりぞけた。

いずれにせよ、各放送局は従来の“3.5%”に加え、レコード会社とミュージシャンに1局1人0.07セントを支払わなければいけない。収益が著しく悪化するのは間違いなさそうだ。しかも、著作権料はDMCA法が施行された1998年10月にさかのぼってまとめて支払わなければならない。その支払い期限は今年10月20日。米政府の決定に対しては裁判所に異議を申し立てることもできるが、もし裁判が起こされなければ、今年の秋には“インターネットラジオ最期の日”がやってくるかもしれない。

「ウェブ放送にカーテンコール?」という扇情的な見出しの記事を掲載したワシントンポスト紙は、クラシックの専門局として有名なBeethoven.comのケースを紹介。毎月20万人の視聴者があり、もっとも成功したインターネットラジオのひとつである同局だが、ディレクターのケビン・シヴリー(Kevin Shively)氏は「わが社の収入のほぼすべてが著作権料の支払いに消えてしまう計算だ」と嘆いている。数人いたスタッフは全員解雇し、今後はシヴリー氏がただひとりのフルタイム社員として働くことになるという。

約3万のインターネットラジオ局を組織し、全米最大のウェブ放送網を作っているLive365。アソシエイテッド・プレス(AP)は同局のジョン・ジェフリー(John Jeffrey)副社長に取材し、「独立系のウェブ放送局の多くは、運営ができなくなるだろう。わが社だけでも、これから毎月10万ドルの著作権料支払いが発生することになる」というコメントを引き出している。米国には、視聴者からの寄付で成り立っているような規模の小さな放送局が無数にある。こうした局にとっては、事態はさらに絶望的だ。「今後発生する著作権料の支払いを恐れ、すでに機械の電源プラグを抜いてしまっている小規模局は少なくない」とmtv.comは書いている。

一方、レコード業界も“0.07セント”に反対の声を上げている。全米レコード協会(RIAA)のケアリー・シャーマン(Cary Sherman)会長は「このような低率では、レコード業界とミュージシャンが、ヤフーやAOL、リアルネットワークスといった数百万ドル規模のウェブ放送会社に対し、補助金を与えているようなものだ」と批判している。

しかし、シャーマン会長のこのコメントにはメディアからも批判の声が少なくないようだ。ワシントンポスト紙は「ヤフーやAOLが人気の高いウェブ放送サービスを展開しているのは事実。しかしインターネットラジオは大手だけではない。全米には独立系の局や個人放送局が4000以上もあり、この新しいメディアを作り上げてきたのだ」と指摘している。

では日本では、インターネットラジオはどうなっているのだろうか。著作権法が1997年に改正され、レコード会社が楽曲の「送信可能化権」を持てることになった。つまり、音楽をネットで配信する場合には、事前にレコード会社からの許可を得なければならないということだ。通常のラジオ放送や有線放送が“事後承諾”で使用料を支払えばよいのに比べ、かなり厳しい条件となっている。国内の音楽放送関係者のひとりは、「実際、昨年3月には米リッスン・ドットコムの日本法人が国内でラジオ放送をスタートしたが、大手レコード会社から音楽放送の許可が得られず、1年あまりで撤退したケースもある。事前にきちんとしたルールを決めておいたという点では米国よりも進んでいるとはいえるが、逆にブロードバンドのコンテンツが揃わず、今後の普及の足かせになる可能性も出てきている」と、米国とは別の問題が生じかねない懸念を指摘している。

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