世界最大のメディアアートおよび電子芸術の国際コンテストである“プリ・アルス・エレクトロニカの各部門の授賞式が、9月5日、主催者のオーストリア放送協会(ORF)リンツ放送局のスタジオで、衛星生放送の番組としてとり行なわれた。
“プリ・アルス・エレクトロニカ2000”授賞式でのグリーティング。受賞者、スポンサー、地元の名士をスタジオに集め、授賞式は厳かに行なわれた |
今回で14回目を迎える“プリ・アルス・エレクトロニカ”。コンピューターグラフィック、ビジュアルエフェクト、インタラクティブアート、コンピューターミュージック、そしてドットネット(インターネット関連)と、電子芸術の全ての領域を網羅する各部門に、世界59ヵ国、1800件の応募が寄せられた。
この賞の大賞は“ゴールデン・ニカ”と呼ばれ、20万オーストリア・シリング(約150万円)の賞金が授与される。また準大賞は“ディスティンクション”と呼ばれ、こちらの賞金は5万オーストリア・シリング(約37万円)となっている。
これが“ゴールデン・ニカ”。各部門の大賞として与えられる |
以下、受賞した各部門の作品ならびに人物を紹介する(敬称略)。
コンピューターアニメーション部門
ゴールデン・ニカ
『リトル・ミロス』――ジャコブ・ピステッキー(カナダ)
トラディショナルな物語の世界をコンピューターアニメーションによって、演出しきったことが高く評価された。ちなみにこの作品は、氏にとっての卒業制作物である。
『リトル・ミロス』のシーンより。旧チェコスロバキアの叙情豊かな寓話を髣髴(ほうふつ)させる |
ディスティンクション
『禅』――大場康雄(ナムコ:日本)
この作品は、ソースから自身で作り込んだグラフィックスツールを使用。氏の心象風景から現われた、実際には存在することの無いオブジェクトの写実感と、躍動感溢れる人工物の表現が高く評価された。ちなみに氏はSIGGRAHの“エレクトロニック・シアター”に常連的に作品を収め続けている。
終了後のパーティーでの大場氏(中心)。右はインタラクティブ・アート部門で入選した土佐尚子氏(ATR)。左は『禅』の音楽を作った大久保博主任(ナムコ) |
『トイ・ストーリー2』――ジョン・レスターほか(ピクサー:アメリカ)
シリーズを重ねるに連れて進化し続ける、フル・コンピューター・アニメーション劇場映画ということで評価された。
ビジュアルエフェクト部門
ゴールデン・ニカ
『マーツ』ほか――クリスチャン・ヴォルックマン(フランス)
実写とも絵画の世界ともつかぬ独特の人工現実感。その中で展開されるショートストーリーの表現の妙が高く評価された。
ディスティンクション
『ファイト・クラブ』(作品集)――ピエール・バッフィン(BUF:フランス)
現実の空間内での表現と見間違う、実写感溢れる3Dアニメーションの妙味が評価された。
『ディセム・ボディース』――マーク・ディゲン(オーストリア)
独特のなまめかしさによるライティング表現を3Dアニメーション上で実現したことが評価された。
インタラクティブアート部門
ゴールデン・ニカ
『べクトリアル・エレベーション』――ラファエル・ロザノ-ヘーマー(メキシコ/カナダ)
'99年末にメキシコシティーを代表する広場で展開された、壮大なライティングプロジェクト。Webサイトにアクセスしたユーザーがライティングパターンのプランニングをする。現地ではそのスペクタクルが展開され、パブリックを楽しませるという、幅広い参加型表現の成功に絶大な評価が与えられた。
メキシコシティーの千年紀末の夜を彩った『べクトリアル・エレベーション』 |
ディスティンクション
『グラフィティーライター』――応用自律研究所(アメリカ)
ラジコンロボットによる高速路上ペインティングマシーン。エンターテインメント性を溢れさせ、その場にいる多くの人に対して関係をもたらしながら、路上にピケを刷る。この社会性溢れる電子芸術作品がもたらす問題喚起力が評価された。
“グラフィティーライター”の手によって瞬く間にピケが塗られた |
授賞式でのプレゼンテーションでは、極右政権による連邦政府の圧力によって苦境に立たされている“パブリック・ネットベース”本誌8月31日号を参照のURLをスタジオにペイント、生放送の現場で見せつけてくれた。
『視覚音響環境集』――ゴーラン・レビン(アメリカ)
コンピューター上でイメージとして視覚化された音。音をイメージとして視覚化された表現。コンピューターによるインタラクティブアートで試み続けられるインターフェースの追求にあって、今のところ一番完成度が高いものではないかということで評価された。
コンピューターミュージック部門
ゴールデン・ニカ
『20' to 2000』――カーステン・ニコラル+ラスタミュージック/ノートン:レーベル(ドイツ)
“2000年まであと20分前からの音”をコンセプトに12名のサウンドアーティストたちが、'99年から12ヵ月間にわたって毎月送り出した作品集『20' to 2000』。'90年代のサウンド・アート・シーンをグローバルに俯瞰仕切った仕事として高く評価された。
ディスティンクション
『ミニディスク』――ゲスコム
CDではなくミニディスクだけでリリースするレーベルシリーズ。そのアイデアは聴く者に“使うメディア”のフォーマットについて考えさせた。
『アウトサイド・ザ・サークル・ファイアー』――クリス・ワトソン(英国)
英国BBCを中心に、野生動物の音を収録し続ける氏の作業とテクニックは、独特の収録手法によって新たなる音体験をもたらしてくれた。
ドットネット部門
Linuxの生みの親であるライナス・トーヴァルト氏が受賞した昨年に引き続き、ゴールデン・ニカは、個人とその活動に授与された。
ゴールデン・ニカ
ニール・ステファンソン:氏自身に対して(アメリカ)
代表作『スノー・クラッシュ』など、情報ネットワーク社会がもたらす“光と影”をいち早く示唆する作品群を出した功績が評価された。自身もインターネットによる出版活動を展開する先駆者的な作家である
ディスティンクション
『エクスクゥイスト・コラプス』――シャーロン・デニング(アメリカ)
Webベースの物語づくりコミュニティーは、独特のグラフィカルなインターフェースで、物語を容易に続けさせることができるように工夫されている。
『テレゾーン』――テレゾーン・チーム(オーストリア)
アルス・エレクトロニカ・センターの常設展示である『テレゾーン』は、仮想世界にあるアプリケーションを使って、インターネット上でロボットを動かしながら、現実にあるロボットを動かしてモデルを生成させて行く、インタラクティブなコラボレーションプロジェクト。仮想世界と現実世界をどう結び付け、どういういうかたちの共同作業が実現できるのかという試みを実践しつづけていることが高く評価された。
今回、これらの賞のほか、インタラクティブアート部門特別賞として、北野大博士が提唱して始まったロボットによる国際サッカー大会“ロボカップ”も選ばれた。
フィンランドのテレビ局が映像系部門として応募した“ロボカップに関するドキュメンタリー”が、審査団の目にとまって今回の受賞となった。そこで目の当たりにしたロボカップは電子芸術として目を見張るものと高く評価されたのだ。
しかし、どの部門にも属さない存在であるとして、賞の授与方法を苦慮。結果的に、特別な賞として、ロボカップとも縁の深い藤幡正樹東京藝術大学教授が審査員団に入っているインタラクティブアート部門から出すことになったものである。
これらの受賞作と選にもれた佳作は、リンツ市内にあるギャラリー・OKセンターで“サイバーアート2000”として実際に今週末まで展示、上映されている。
その中でも注目の作品やプロジェクトをそれぞれ後報で紹介してゆきたい。
筆者の手によるヨーロッパのパブリックなサイバースペースとメディアアートに関するレポートがこちらでも読めます