着物の通信販売業、愛きもの(株)がこのほど設立された。NPO(非営利団体)であるSCCJ(日本サスティナブル・コミュニティー・センター)が、その活動の中でプロジェクトを立ち上げたのがきっかけ。ITと伝統産業が結びつけることで、新たな着物の市場創出を目指す。
リユース着物をオークション
同社の創業は今年4月。6月14日に法人化した。同社の業務は中古の着物をホームページ上で公開。競売により販売するというもの。競売システムはオークションサイトのイーベイジャパンと組んだ。競売にかける商品は着物のほかに帯や小物など、和装に使われるアイテムを取り扱う。愛きもののホームページ。同社はNPOによってインキュベート(ふ化)したベンチャー企業だ。伝統産業とITの融合で社会的役割の大きいビジネスモデルを構築 |
オークションの仕組みは、サイトを通じてもっとも高い買値を付けた落札者に売られる。売上金から手数料やクリーニング代などを差し引き、残りが商品の提供者に支払われるというものだ。
4月から6月中旬までの約2ヵ月、試験運用を行なったところ30件落札。同社社長の谷田吉貞氏は「コンテンツも充分整備されていない状態で、予想よりも落札は多かった」と評価する。アメリカやイギリスからの落札者もあったという。
「自分がリタイアする時、胸をはってバトンタッチのできる着物業界にしたい」と谷田吉貞氏 |
ところで、若い世代にとって着物といえば高価なもので、親などから「人に買ってもらうもの」との感覚が強い。その背景には着物の高額化傾向がある。'89年の正絹着物の売上げが1兆2700億円。ところが10年後の'98年には市場規模が約半分にまで落ちている。単価を上げようとした結果、業界の動きそのものが若者の消費者ニーズから離れていった。
一方、すでに着物を所有している人もタンスにしまいこんでいるケースが多く、全国で50兆円規模の潜在在庫があると谷田氏は見る。「試験運用での平均落札価格は約1万円。“自分で買う服”として定着させたい」という。日常着、おしゃれ着としての復権をねらう。
谷田氏が社長を務める着物卸会社“錦仰”。同社内が愛きものの所在地でもある。このあたりはかつて着物の製造から卸までの業者がひしめきあっていた“キモノバレー”だった |
若者と高齢者をつなぐ場へ
オークションサイトの運営に最も重要ことは、商品の価値を把握することだ。同社にとっては着物や和装アイテムの“目利き”が事業の要になる。汚れやしわの大きさ、状態をチェックし、減点方式でポイント評価する。ここで、カギになるのが目利きの人材だ。着物の卸会社“錦仰”の社長でもある谷田氏が当初からアイテムの評価をしていた。現在のところ同氏以外に2人の目利きが登録している。いずれももともと着物業界で長年働いてきた人で、リタイア後に“愛きもの”の目利きとして働いている。「着物を扱うには専門家でないと難しい。目利きをお願いしている人たちは経験を生かして、楽しんでやっている」(同氏)。定年を控えた同業界の人たちの中には目利き登録を希望している人も多いという。
さらには、将来、競売件数が増えるにつれ、着物の装いに関する知識の流通も必要になると谷田氏はみている。「若い人が着物を着る機会が増えると、高齢者の知識や経験が役立つ」。
これからオークションに出される着物。アイロンがけなど取り扱いにも専門家の腕が求められる |
他方、京都以外の拠点づくりも視野にいれている。例えば、しみの大きさによって何点減点するかといった、評価の判断基準を明確にすることで、各地で着物の目利きを集めた拠点をつくることができる。着物を手掛かりにいわば、異なる世代がつながる場を提供していくかたちだ。1年後には月間1000から2000件の落札見込んでおり、5年後は1000億円の売上を目指す。