情報家電のリンクからコンテンツ配信へと向かうIGRS
IGRSは新たな道を模索している。どうもニュースを読み解いていく限りは、IGRS製品を軸にして、専用のサイト「酷開網」を介して動画コンテンツ(それも正規版)を配信するビジネスをしようとしている。
酷開網で公開されているコンテンツのラインアップを見る限り、(特に中国モノについては)比較的に版権を持ったコンテンツで固めていて、今の時点では、中国の動画サイトの割にはまっとうなコンテンツビジネスを目指しているように見える。
ただ残念なことに中国においては、真っ正面から遠慮なしに海賊版コンテンツで勝負しているサイトが強力。こういったサイトに対して、モラルではなく、内容(要するに違法・合法を問わず、面白いコンテンツがあるか)で競争する必要がある。
となると、IGRS陣営が中国のコンテンツホルダー相手に、中国映画や中国ドラマや音楽プロモーションビデオの放映権利を交渉するだけでなく、キラーコンテンツのひとつである日本のアニメと交渉する必要が出てくる。実はIGRS陣営の中の数少ない日本企業で、オリンパスグループのITXが、日本のコンテンツホルダーと交渉している。
電力線ネットとの関係
IGRSに肩を持つわけではないが、日本のコンテンツホルダーが「どうせ今の中国じゃ海賊版視られ放題だし、安くてもいいからちゃんと手続きふんで、少しでも中国人が正規版を視てくれればいいや。IGRSの実際はよく分からんけど、世直しだと思って、提供しちゃえ!」とコンテンツを提供していくことで、IGRSの普及がやや促進し、正規版コンテンツの普及がちょっとでも進むかもしれない。
それは単なる中国への慈善事業では、と思うかもしれない。だが普及の先に、別の日本の規格が中国で普及するという図式が見える。
パナソニックなどが中心になって進めている電力線通信「HD-PLC」だ。HD-PLCアライアンスとIGRSは今年提携を発表しており、HD-PLCアライアンスの主要メンバーであるパナソニックコミュニケーションズがIGRSのメンバーとなっている。ということはIGRS機器が、有線/無線LANに加え、将来的にPLCを導入する可能性があるのだ。
ただそのPLCを導入するかもしれないハードウェアについてだが、現状では、レノボと創維だけが製品をリリースし、新製品を積極的にリリースしているようには見えない。また高品質の代名詞である日本の家電メーカーがメンバーではないので、中国の家電メーカーだけでハードウェアをリリースする必要がある。
MP3プレーヤーやPC本体や液晶テレビならなんとか対応製品は出せるだろうが、とはいえ、今もクオリティが高いと中国で認識されている日系メーカー製とIGRS対応の両方を1台の機器に求めることはできない。その辺にもハードルはある。
日本企業も参加しているIGRSは、個人的には、今までの中国発独自規格と違って、今は売れてなくても、もうちょっと見守りたくなる規格である。もし日本の正規版コンテンツがIGRS機器を通して視れるようになったら、コンテンツホルダーやITXに(聞けるようであれば)その経緯や真意について聞いてみたいと思う。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)
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