新聞の形態を変える、長いチャレンジ
iPhone版産経新聞は急に登場して、話題になったように見える。しかし、ここに辿り着くまでには20年間の産経新聞の取り組みがあった。新聞記者を経験し、現在産経デジタル取締役の近藤哲司氏は次のように語る。
「実は20年ほど前から、フジサンケイグループ全体として電子的な手段で新聞を届けたい、と思っていました。まだインターネットが普及する以前、ある電器メーカーと組んで受信機を作り、テレビの電波の隙間に記事のデータを載せて配ったことがあります。このときは、現在のウェブのニュースのように、横書きでヘッドラインから記事を選ぶスタイルでした」(近藤氏)
このときの経験が「新聞の価値について考えさせられた」と、事業開発部長の土井達士氏は述べる。
「新聞は世の中の情報を収集して、記事にする。そして価値付けして、レイアウトすることによって、新聞を読む人たちに社会の断面として広く薄く、分かりやすく見てもらうためのメディアです。つまり記事とレイアウトも含めたパッケージメディアとして流通しているのです。今後もおそらく新聞の形態は変わっていくことになりますが、ウェブでも見出しやレイアウトの編集技術で楽しんでもらえないか、と思っていました」(土井氏)
そこで2001年に始まったのが、「産経NewsVUE(ニュースビュー)」というサービスだ。新聞の紙面をそのままデータ化し、ネットを通じて専用ビューワーに届けるというもの。これにより課金を行ないながらも、新聞らしい見やすい環境を整えることに成功した。このサービスは、現在同社のサービス「産経NetView」」に引き継がれることになる。
NewsVUEの月額は紙の新聞代よりも安かった。とはいえ、簡単に読者に受け入れられるわけではない。
「NewsVUEは月額1900円で提供していましたが、ほとんど赤字でした。ビューワーソフトをダウンロードするのが、ユーザーにとってハードルが高かった。そこで、NewsVUEを2005年3月に終了し、同年10月からFlashベースのNetViewをスタートさせました。こちらは1週間分のアーカイブが見られるサービスが月額300円、1ヵ月分が見られるサービスが400円と破格の値段です。ビューワーからオーサリングツールまでを(3Dインターフェース開発の)YAPPAが担当していて、使いやすくなりました。数万人単位のユーザーにご購読頂いています。しかし、事業としては苦戦しています」(近藤氏)
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