今回のことば
「『パソコンを使うなら、VR』と言われるようにしたい」(富士通クライアントコンピューティングの齋藤邦彰社長)
富士通のPC事業売却が大詰めに入ってきた。
富士通の代表取締役副社長兼CFOの塚野英博氏は、2017年10月26日に富士通本社で開かれた2017年度上期業績発表の席上、レノボグループに対してPC事業の売却を含む提携交渉の進捗状況について説明。「PC事業に関しては、ご心配をおかけしているが、交渉は着実に進んでいる。卑近な言い方だが、交渉は、アディショナルタイムに入っている段階」と独特の言い回しで表現。「少なくとも、日本では勤労感謝の日、米国ではサンクスギビングデー(感謝祭)は、ゆっくりと過ごしたいというイメージで物事を考えている」とした。
日本の勤労感謝の日と米国の感謝祭は、いずれも11月23日であり、これまでに売却交渉を完了させる考えだ。
2016年10月27日に、富士通とレノボがPC事業における戦略的提携を開始していることを公表してから、ちょうど1年でようやく合意の道筋が見えたといえる。
交渉が長期化した背景には、「様々な交渉のなかで、細かい数字までかなり仔細に確認をしたことが理由。範囲が広いこと、掘り下げ方が深いということで、時間がかかってしまった。どこかでお互いに譲ってしまえばいいということもあるが、お互いに一定規模を持った会社であり、細かいディテールにもこだわった」とした。
PC事業を担当する富士通クライアントコンピューティングは、新たな体制のなかで、今後も独自を発揮することができるか、そして国内開発、国内生産を維持できるかが焦点となるだろう。
富士通がいち早くVRヘッドセットを出せた理由
その富士通クライアントコンピューティングが、国内メーカー初となるWindows Mixed Reality対応のVRヘッドセットおよびコントローラーを発売した。
単体価格は5万円。ノートPCの「LIFEBOOK AH-MR/B3」とのセットで24万円前後。VRヘッドセットが動作可能な機種は、一体型デスクトップや液晶分離型デスクトップ、最軽量ノートPC、シニア向け製品など幅広く、今後、検証することでさらに拡大予定だという。情報は同社サイトなどで公開していくことになる。
富士通クライアントコンピューティングの齋藤邦彰社長は、「価格設定はかなり頑張った。年末商戦の目玉にしたい」と意気込む。
日本マイクロソフトとの連携により、全国400店舗以上で体験できるコーナーを用意。「実際に体験してもらうことで、VRの楽しさや新たな気づき、五感に訴える実在感などを感じて欲しい」とする。
富士通クライアントコンピューティングが、国内メーカーとしていち早くVRヘッドセットを市場投入できた背景にはいくつかの理由があると、齋藤社長は説明する。
ひとつは、日本マイクロソフトとの緊密な連携だ。
日本マイクロソフト 執行役員常務 コンシューマー&デバイス事業本部長の檜山太郎氏は、「この協業は1年以上前から行なってきたもの。革新的技術をコンピューター上で体験してもらうために、富士通と連携をしてきた。400店舗以上の店頭展示は、世界的に見ても突出した規模になる。富士通と一緒に革新的ともいえる将来のコンピューティングの世界を拓くことができる」とした。
米マイクロソフト パートナーデバイス&ソリューション バイスプレジデントのピーター・ハン氏も、「富士通との継続的な技術面での協力により、製品化できた」と語る。
2つめは、富士通クライアントコンピューティングのエンジニアリングチームによって開発されたという点だ。齋藤社長は「自前の開発チームを持っていることが、他社より先行して製品を投入することにつながっている」とする。ヘッドセットは丸みを帯びたデザインとしているが、これも富士通クライアントコンピューティングのこだわりだ。「多くのヘッドセットがシャープなデザインを採用しているのとは一線を画している。女性でも使ってみたくなるように配慮した」という。
齋藤社長は「できるだけ早く投入したいと考えていた。このタイミングで投入できたことには満足している」としながら、「品質もサポート体制も、日本のメーカーならではの安心感を提供できる。そして日本には、日本ならではのコンテンツも多い。日本のメーカーとしての期待に応えたい」とする。
この連載の記事
-
第594回
ビジネス
自動車工業会は、今年もJapan Mobility Showを開催、前身は東京モーターショー -
第593回
ビジネス
赤字が続くJDI、頼みの綱は次世代有機EL「eLEAP」、ついに量産へ -
第592回
ビジネス
まずは現場を知ること、人事部門出身の社長が続くダイキン -
第591回
ビジネス
シャープが堺のディスプレーパネル生産を停止、2期連続の赤字受け -
第590回
ビジネス
生成AIに3000億円投資の日立、成長機会なのか? -
第589回
ビジネス
三菱電機が標ぼうする「サステナビリティ経営」、トレードオフからトレードオンへ -
第588回
ビジネス
富士通の子会社でDX専門のコンサルティングをするRidgelinez -
第587回
ビジネス
メーカー自身が認定し、工場検査後に販売するパナソニックの中古家電 -
第586回
ビジネス
マイクロソフト、日本への4400億円のAI/データセンター投資の実際 -
第585回
ビジネス
日本市場の重要性を改めて認識する米国企業、変革期にある製造業がカギ -
第584回
ビジネス
NTT版の大規模言語モデル(LLM)、tsuzumiの商用化スタート、勝算は? - この連載の一覧へ