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AIで人の結びつきを強め、XMは基幹システムとして確立しつつある

生成AIをXMに取り込む準備は整った ― 5億ドルを投じるクアルトリクスのCEOに聞く

2024年05月14日 08時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 体験を管理するXM(eXperience Management)プラットフォームを展開する米クアルトリクス(Qualtrics)が、生成AI時代に向けて機能を強化し、製品体系を変更した。

 「感情など、従業員と顧客の体験に関するデータをあつかうのは我々だけだ」と語るのは、同社CEOのジグ・セラフィン(Zig Serafin)氏。5月はじめ、ユタ州ソルトレークシティで開催されたクアルトリクスの年次カンファレンス「X4 Summit 2024」にて、AI戦略やXMカテゴリ、日本市場について話を聞いた。

米Qualtrics CEO ジグ・セラフィン(Zig Serafin)氏

――この1年半の生成AIのブームをどう見ていますか?

セラフィン氏:一般的な話しとして、AIは、歴史における大きな技術革新の触媒だとみている。世界の変化を促すという点で、蒸気機関、アナログからデジタルへのシフトを上回る影響を与えるだろう。実際、世界中の経営層と話していてトピックに挙がらないことがない。

 一方で、人々が求めているのは、安全かつ責任ある方法でAIを活用すること。現実のビジネスや社会的な課題にフォーカスし、実行に移すことができるAIだ。ビジネスの根本を変革するAIよりも、まずは足元のビジネスをより良くする、効率性やスピードにつながるAIの活用にフォーカスがあたっている。

 そのため、クアルトリクスでは、顧客と従業員を理解し、距離を縮めるという成果につながる部分にAIを取り込んでいる。

――「AIでビジネスはもっと人間らしくなる」というメッセージを打ち出しています。

セラフィン氏:企業が成長し、市場をリードする存在になる原動力は、人と人のつながりだ。収益性が高い企業の共通点として、従業員と顧客との関係がうまくいき、コスト効率につながっている点が挙げられる。

 AIの時代では、AIの特徴を活かして、企業が人(従業員と顧客)とのやりとりや関わりを、いかに深めるかが重要になる。AIはオートメーションなので相反すると思うかもしれないが、AIで人の結びつきを強めることは可能だ。クアルトリクスは、人の体験や感情の情報を集約する「XiD」、構造化・非構造化データから感情や行動の強弱などを分析する「iQ」、行動に変えるためにフローを作成する「xFlow」を用意しており、それらを載せたプラットフォーム「XM/os」を提供する。これらは「Qualtrics AI」というAI基盤を土台としている。

 この仕組みを利用することで、もっと人間らしい、深い関係を構築することができる。まだ情報のない顧客や従業員に対しても、精度の高い予測ができる。これは、AIが持つパワーをわれわれが効果的に活用しているからだ。

――2023年7月に、生成AIに対して4年間で5億ドルを投じることを発表しました。どのような部分を強化していくのでしょうか?

セラフィン氏:2023年に、Qualtrics AIを組み込んだXM/osの最新版「XM/os2」を発表した。先ほど話したように、XiD、iQ、xFlowにAI機能を組み込み、AIを使ったイノベーションを加速する準備を整えたわけだ。今年のX4でも、さまざまなAIイノベーションを披露した。タスク生成、より深いレベルでの意味理解や感情分析など、100以上のAIモデルを用意する。OpenAI(GPT)、Mitral、Claude、Geminiなど、さまざまなサードパーティのLLMや自社のモデルと接続して、最適なモデルを使用することもできる。

 「Qualtrics Edge」という、Qualtrics AIによってインテリジェンスが得られる新サービスの開発も進めている。

 機能だけではなく組織面にも投資している。数週間前には初のAI戦略プレジデントとして、マイクロソフトでOpenAIとの提携などに関わってきた人物(Gurdeep Singh Pall氏)を任命した。XM/osのAI統合について話し合う中で、クアルトリクスの潜在性に惹かれてジョインすることになった。

 それからセキュリティだ。データの安全性や管理などのにも投資していく。企業のデータがLLMの学習に使用されず、自社のためだけに活用できるようにする。これは重要な使命であり、大規模な投資を行ってきた。今後も継続する。

「X4 Summit 2024」が米ソルトレークシティで開催、イベントの主役は生成AIに

――4月には製品体系を変更し、「XM for Customer Experience」「XM for Employee Experience」「XM for Strategy & Research」と3つのスイートに集約することを発表しました。その理由や顧客のメリットについて教えてください。

セラフィン氏:これまでさまざまな製品や機能を投入してきたが、顧客の視点では複雑だという課題を感じていた。素晴らしい機能をリリースしても、それでは簡単に使ってもらえない。

 そこで、簡素化するために3つのスイートに集約して、コンサンプションモデルを導入した。ユーザーはスイートにあるすべての機能にアクセスできる。これまでポイントソリューションを導入する顧客が多かったが、スイートと消費型のモデルによって、社内の各部署でも簡単に利用できる。クアルトリクスの技術を利用して生み出される価値がさらに大きくなるだろう。

 今後はAIをはじめとした新しい機能はすべてスイートで提供していく。既存顧客も段階的にスイートに移行し、移行したいという大口顧客もすでに複数いる。

――2023年の「X4」イベントでは、フロントラインとして顧客に直接接している、コールセンターなどにおける生成AI機能が発表されました。従業員向けではどのように生成AIを活用できると見ていますか?日本では従業員体験の改善が引き続き課題です。

セラフィン氏:従業員がハッピーでなければ顧客はハッピーにならない。従業員体験の改善にはフォーカスすべきだ。今回のイベントでは、従業員体験向けとして、生成AIエージェントである「Qualtrics Assist」のインタラクティブなダッシュボード、従業員サーベイのサマリ生成やフォローアップの自動生成など、多数の機能を発表した。AIを利用することで、マネージャーに「今週集中すべきこと」を提案することなどが可能になる。従業員体験でAIが果たす役割は大きい。

――クアルトリクスに参加して7年半、CEOとして率いるようになって4年近くになります。XMの概念や重要性は市場に浸透したと見ていますか?

セラフィン氏:7年半前はXMの説明からスタートしていた。顧客とのパートナーシップにより、XMがビジネス上効果をもたらすことを示してきた。現在、我々はXMという新しいソフトウェアカテゴリを確立できたという実感がある。

 今年のX4では、Delta AirlineやAmerican Express、HiltonのCEO、PorcheのCMOなど素晴らしい顔ぶれが、それぞれの成功体験をステージで語ってくれた。セッションでも連邦政府、ヘルスケア、小売、飲食と、さまざまな業界を超えて、消費者と従業員の体験をどう改善できるのかを学び合う場となった。新しいやり方を学び、自社に取り入れ、業界をリードしている企業がクアルトリクスの顧客なのは偶然ではない。

 そういった点では、XMは、ERPやCRMといった基幹システムになりつつあるだろう。

――SAPとの資本関係が解消されました。ビジネスへの影響をどう見ていますか?

セラフィン氏:クアルトリクスの従業員体験プラットフォームとSAPのSuccessFactorsが統合するなど、技術面での提携は続いている。今後も、顧客へのサービスやソリューション提供を行っていく。

ーー日本市場では現在500社の顧客がいます。日本市場でのXMの受け入れをどう見ていますか? 日本はおもてなしの国ですが、デジタルの取り込みは先進的とはいえません。

セラフィン氏:日本はトップ5に入る重要な市場だ。日本は経済規模だけでなく、イノベーションの源泉という点でも可能性の大きな国だ。日本企業と密に提携し、市場に特化したソリューションを作っていく。

 日本は文化として共感やホスピタリティを大切にしているが、これはXMの核心だ。そのホスピタリティをスケールするには、テクノロジーが不可欠だ。丁寧なおもてなしを人だけで提供することは限界があり、Qualtrics AIはそれを支援できる。

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