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印南敦史の「ベストセラーを読む」 第28回

『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』(内田也哉子 著、文藝春秋)を読む

樹木希林さんが亡くなった後、内田也哉子さんが考えたこと

2024年03月07日 07時00分更新

文● 印南敦史 編集●ASCII

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死をきっかけにいろいろな人たちと対話をする

 とはいえ当然のことながら、著者の親子関係も決して順風満帆だったわけではない。なにしろ両親はふたりとも、強烈すぎる個性の持ち主だったのだから。

 物心ついた頃から自分はいびつな家庭環境に生まれたのだと、どこか俯瞰する癖がついていた。人が私を見るときに、あの変わった両親の娘という色のセロファン紙を通して見られていることも、早くから自覚していた。父はささいなことから、大きなことまで様々な事件を起こし、母がそれを包み隠さぬものだから、基本的にいつも初対面の相手には、親の話を伏せ、何ならちょっとした嘘もついて匿名性を必死に守ろうとしてきた。(「あとがき」より)

 そういう意味では、「素敵な関係性」などという軽いことばを使うべきではないのかもしれない。程度の差こそあれ、親子関係というものはさまざまな意味において「いびつ」になりがちなものであるのだし。

 ともあれ著者は、いろいろな意味で圧倒的な存在であった母親の死をきっかけとしてさまざまなことを思い、いろいろな人たち――谷川俊太郎、小泉今日子、中野信子、養老孟司、鏡リュウジ、坂本龍一、桐島かれん、石内 都、ヤマザキマリ、是枝裕和、窪島誠一郎、伊藤比呂美、横尾忠則、マツコ・デラックス、シャルロット・ゲンズブール――と対話をする。

 そのやりとりをまとめたのが本書である。

 各人の思いやことばはそれぞれが魅力的で、しかも対話が基本になっていることもあり、読んでいると話の輪に加わらせてもらっているような気分にもなれる。だから、ちょっとしたひとことが、ときにビシッと心を射る。

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