ArmにあってRISC-Vにないものが
設計・製造を支援するソリューションの提供
もう1つのArmの策は、ソリューションの提供である。もともとArmは大昔にはHard IP(特定のプロセス向けの物理設計が終わった状態のIP)を提供していた時期もあるが、昨今はSoft IP(論理設計のみを提供し、物理設計は顧客が行なう)のみの提供である。
ただこれでは昨今の先端プロセスでは物理設計のコストが馬鹿にならない。そこで特定のプロセス向けに最適化した、限りなくHard IPに近いSoft IPをPOP(Processor Optimization Package) IPとして提供し、物理設計の時間を最小に抑える工夫がなされている。
ちなみにこのPOPはArmが各ファウンダリーと共同で開発している。このPOPを一歩進めて、周辺回路までまとめて提供するのがArm Total Solutionで、2021年にIoT向けの"Arm Total Solution for IoT"とスマートフォン向けのArm Total Compute Solution(TCS)を発表している。
サーバー向けには、Neoverse Compute Subsystems(CSS)と呼ばれるIPソリューションと、このNeoverse CSSをベースに包括的な開発が可能なArm Total Designと呼ばれるシステム全体のソリューションを提供開始している。今のところこれに匹敵するようなソリューションを提供できているRISC-Vベンダーは存在しない。
このソリューションは単にハードウェアだけではない。NeoverseやCortex-AをベースにしたサーバーはEdgeからクラウドまで幅広い用途が想定される。これらに向けたソフトウェア環境としてArm SystemReadyと呼ばれるものを2020年から提供している。要するに、SystemReadyの要件に沿う形でハードウェアを構築すれば、OSなりアプリケーションがそのまま動くようになるというもの。こういう取り組みもRISC-Vベンダーは一歩遅れている。
加えて、これまで堅持してきたArm命令そのものにも若干の譲歩を見せた。2019年、ArmはCortex-Mシリーズの新製品については、最大16命令までながら顧客(つまりマイコンベンダー)が自分で新命令を追加できるArm Custom Instructionと呼ばれる機能を追加すると発表している。
現在の所この機能を持つのはCortex-M、つまりMCU向けのコアに限られる。将来的にはCortex-A/RでもCustom Instructionを提供する可能性はあるが、具体的に説明できるような話は、2019年の時点ではないとのことだった。その後も特にこれに関する新しい情報はない。つまり、譲れない部分はある(主にライセンス/ロイヤリティ)が、多少の柔軟性は見せているという感じだ。
昨今のArmの動向を見ていると、エンドユーザーのターゲットが、これまではMCUベンダー(NXP/ルネサスエレクトロニクス/STMicroelectronics/etc...)とスマートフォン用SoCのベンダー(Qualcomm/Samsung/MediaTek/etc...)だったのが、昨今はその先、例えば車載向けならボッシュやデンソーなどのTier 1ベンダーだったり、自動車メーカーそのものだったりするようになってきている。
こうしたメーカーは、MCUベンダー/SoCベンダーに比べると半導体の設計能力は正直高くない。そうした、技術力で一歩劣るメーカーのエンジニアでも確実に設計・製造ができるようにする、という方向に舵を切っているように思える。つまり直接RISC-Vと競合するのではなく、RISC-Vと競合しないブルーオーシャンを総取りしよう、という戦略を取っているように筆者には感じられる。
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