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情動の形成には迷走神経も関与、脳との連動理解が重要に

2024年01月16日 06時31分更新

文● MIT Technology Review Japan

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東京大学と東北大学の研究グループは、迷走神経が正常な情動の形成に関与することを明らかにした。長い間、情動は脳がつくるものと考えられてきたが、最近の研究ではさまざまな内蔵の状態も情動に影響することが分かっている。特に、さまざまな内臓の状態を脳に伝える求心性の迷走神経が重要だと考えられてきたが、詳細な仕組みは明らかでなかった。

東京大学と東北大学の研究グループは、迷走神経が正常な情動の形成に関与することを明らかにした。長い間、情動は脳がつくるものと考えられてきたが、最近の研究ではさまざまな内蔵の状態も情動に影響することが分かっている。特に、さまざまな内臓の状態を脳に伝える求心性の迷走神経が重要だと考えられてきたが、詳細な仕組みは明らかでなかった。 研究グループは、迷走神経と、情動に関わる脳領域である前頭前皮質と扁桃体の関係に着目し、これらの領域の生理信号を同時に計測することで、ストレスや不安に関連した新しい神経メカニズムの解明に挑んだ。実験動物には、ヒトとほぼ同様の迷走神経の構造を持ち、さまざまな環境やストレスに対して不安様の状態やうつ様の状態を示すマウスを選択。まず、マウスの頸部の迷走神経に電極を設置して、安静時の迷走神経の電気的な神経活動を計測した。この状態でマウスに、ほかのマウスから攻撃されるような慢性的な精神的ストレスをかけると、迷走神経の活動は減弱した。 次に、壁のない通路と壁がある通路をマウスに自由に行き来させて、不安の状態を計測した。その結果、健常なマウスは壁がある通路で安静を保ち、壁がない通路では迷走神経が最も活発に活動するという明確な変動を確認できた。一方で、ストレスをかけてうつ様の状態になっているマウスでは、壁がある通路でも、壁がない通路でも迷走神経の活動に差を確認できなかった。以上の結果は、精神的ストレス負荷が不安状態を誘発し、迷走神経にも影響することを示しているという。 さらに、脳の活動を調べるためにマウスの前頭前皮質と扁桃体に金属電極を埋め込んで、脳波パターンを検証した。その結果、健常なマウスでは、迷走神経の活動の増減に対して、前頭前皮質と扁桃体における20〜30Hz帯の脳波の大きさが相関することが分かった。一方で、うつ様のマウスでは、迷走神経の活動と前頭前皮質の脳波が連動しなくなり、壁がない通路と壁がある通路の移動・停止中の差もなかった。 うつ様のマウスにおいて、迷走神経の活動が減弱し、脳波との連動が消失することから、研究グループは迷走神経を賦活化すれば、精神状態や脳の活動が健常に近づくと考え、うつ様マウスの迷走神経に2週間にわたって電気刺激を加え続けた。その結果、健常マウスと同様に脳波パターンが正常化した。この結果から、迷走神経刺激の治療効果は、前頭前皮質の正常な活動に関連している可能性があることが分かった。 研究成果は1月9日、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)にオンライン掲載された。

(笹田)

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