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カーボンニュートラルの実現へ 技術で貢献するスタートアップ5社

「第49回 NEDOピッチ(カーボンニュートラル ver.)」レポート

特集
JOIC:オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会

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金属3Dプリンターで金属製品を地産地消化し
ものづくりの変革を目指す

 続いて登壇したのは、株式会社SUN METALON 共同創業者 VP of Business Development & Operationsの瀧澤慶氏だ。

株式会社SUN METALON 共同創業者 執行役員 VP of Business Development & Operations & Co-founder 瀧澤 慶 氏

 同社は2021年創業したばかりの新しい会社。同社の創業メンバー4人のうち瀧澤氏を除く3人は日本製鉄株式会社出身の研究者で材料工学のPh.D. を保持するものもいる。最初から世界市場をターゲットにすること、また資金調達のために、本社はアメリカで登記しており、技術開発を川崎で行っている。

 ビジョンとして掲げているのが、「金属製品を地産地消化し、全宇宙のものづくりを変革したい」ということ。日本の基幹産業であるものづくりを変革することで、盛り上げていきたいという。具体的には金属3Dプリンターを活用することで、その場で金属製品が作れる世界だ。

「鉄鉱石があればその場で金属製品ができてしまうような世界観を目指しています。短期的には金属の粉末から金属製品を作る金属3Dプリンターを普及していきたいと思っています」

 金属3Dプリンターの市場規模は現在、年間28%伸びており、2030年には3兆円を超える予想が出ているという。しかし、現状では非常にコストが高く、医療や航空、宇宙、防衛など一定の市場にしか広がっていないという。

 しかし、このコストを90%以上下げることで、これまでは使えなかった領域でも金属3Dプリンターを使えるようにしていきたいという。

「従来の金属3Dプリンターと何が違うのか、という部分に関しては知財の関係であまり詳しく説明できないのですが、コンセプトで言うと今の金属3Dプリンターはレーザーで、一筆書きで造形していくのが基本です。これは非常に生産性が悪く、コストが高くなる原因になっています。私たちは面で一気に加熱することで、生産性を一気に上げて、コスト下げるということをしています」

 一般的な金属3Dプリンターは1億円から2億円と非常に高価なため、本体の減価償却費が乗り、小さな金属パーツを1日1つ作るだけで2000ドルぐらいのコストがかかってしまうという。それが同社の金属3Dプリンターの場合、250個作ることができ、しかも低価格な金属粉が使えるため、1パーツのコストを約100ドルに抑えることができるそうだ。

「点で作る3Dプリンターは精度が高いものができますが時間がかかってしまいコストがかかります。私たちはそこまで精度が求められないものを、ロットサイズを大きく取ることで、既存とは異なる、より大きな市場を目指しています。今まさに1台目の金属3Dプリンターを販売しようとしているところです」

 金属3Dプリンターが普及すれば、試作時のマテリアルロスを少なくできる。また、輸送コストも低減できると瀧澤氏は語る。さらにはパーツの最適化がより簡易になるため、車などの軽量化が進む可能性もある。これらがカーボンニュートラルにつながっていくということだ。

エネルギー大手ENEOSが手掛ける
3つの水素関連事業

 ピッチの最後はスタートアップではなく、ENEOS株式会社 水素事業推進部 国内水素サプライチェーングループマネージャーの中川幸次郎氏が登壇。同社の水素事業について説明した。

ENEOS株式会社 水素事業推進部 国内水素サプライチェーングループマネージャー
中川 幸次郎 氏

 そもそも水素は原子番号1番で宇宙にもっとも豊富にある元素だ。地球にも水の形で大量にある。しかも、水素と酸素が反応すると電気と水になるため、水素は蓄電池と同じような役割で使える。

 しかも、水素は地球上でもっとも軽い気体のため、仮に漏れたとしても適切に拡散できれば爆発などの危険性も低いという。ただし、水素は単体では自然界に存在しないため、何らかの手段を用いて水素ガスにしないと使いにくい。

「水素エネルギーは非常に効率がよく、しかも、酸素と反応すると電気と水になるため、CO2も排出しません。また、様々な原料から水素エネルギーが作れるため、共有多様性が高いのもエネルギーセキュリティの面では重要です。さらに水素は水力や風力などの再生可能エネルギーから水の電気分解で作ることもできます」

 そうやって作られた水素エネルギーはガスとして貯蔵したり、パイプラインで供給できたりするほか、水素有機ハイドライドなど液体として管理、提供ができる。

 さらに大切なのがどのように水素を使うか、ということだ。水素は発電用の家庭用燃料電池や燃料電池自動車、バスなどが実用化されており、将来的には水素トラックや水素発電、なども視野に入っているという。

「そういった世界観の中でENEOSは、水素に関する長期戦略を大きく3つ掲げています。1つ目がCO2フリー水素サプライチェーンの構築です。これは海外からCO2フリー水素を安価に調達して、国内のお客様に供給する。上流から下流まで一気貫通のサプライチェーンの構築です。

 2つ目の戦略は、運輸分野向けの水素燃料事業の拡大です。これまでに全国に数十カ所の水素ステーションを運営していますが、これらを面的に全国に拡大し、様々な水素モビリティにエネルギーを供給するのが我々の使命だと考えています。

 最後3つ目の戦略はエネルギー供給プラットフォームの全国展開です。1つ目の戦略では海外からCO2フリー水素を輸入するとしているが、国内にも様々な再エネ資源があります。北海道や東北、九州など再エネ資源が豊富なところでは水の電気分解で水素を作り出し、国産のグリーン水素として提供することも考えています」

 1つ目の戦略のサプライチェーンの構築では海外から調達してきた再エネ由来の水素を全国にある製油所の港湾地区で受け入れて、近隣のコンビナート地域のお客様に供給するという。

 これが達成できれば、化石燃料由来の発電所の燃料を水素に置き換えることができる。また、製鉄業界に向けて、水素還元製鉄向けの水素供給ができる。

 2つ目の戦略のモビリティ向けの水素供給ビジネスにおいて、ENEOSは現在、4大都市圏を中心に47カ所の水素ステーションを展開している。中には太陽光パネルで発電し、その電気を用いて水素を生成して供給する再エネ水電解型水素ステーションもあり、CO2フリーの水素を供給している。

 また、JR東日本との総合水素ステーションの検討や、トヨタが研究開発を進めている「Woven City(ウーブン・シティ)」への水素供給なども共同開発しているという。

 そして最後、3つ目の戦略が国内の地産地消型のCO2フリー推進事業だ。具体例の一つとして提示されたのが、青森県むつ小川原地区における水素地産地消モデル調査事業だ。 むつ小川原地区の再エネ資源を活用して水素を製造。その水素を近隣エリアに供給したり、近隣の水素モビリティに供給したりできないかなどを検討していると語った。

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