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ポストコロナのデジタルエコノミーにおいて日本企業の学びも

ブルガリア発の必見テックイベントDigitalK、地理的・文化的特徴が魅力

2021年08月27日 09時00分更新

文● 嶋田敬一郎/R/GAマネージング・ディレクター

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 私はこれまでのキャリアを通し、10年以上にわたり世界のテックイベントを発掘したり、登壇したりしてきました。また、そこで学び、築いたネットワークを日本に還元するべく活動してきました。

 世界の名だたる大型イベントには日本人も多く訪れ、その情報は日本語で伝わるようになっていますが、2015年ごろからは敢えてメジャーなイベントを追いかけることはせず、まだ多くの日本人が知らないイベントに参加し、斬新なコンセプト・トレンド・デベロップメントと出会い、隠された宝石(イベント)の発掘をし続けました。次に起こる大きなムーブメントを日本にもたらすために、緊急性とスピード感を大切にこの使命を果たしてきたのです。

ブルガリアは欧州でも特徴あるポジションを占める国

 私がこの使命に着手したのは、まだ自身でスタートアップをやっていた2007年頃です。

 当時はiPhoneが登場する前後で、日本はまだモバイル先進国でした。海外ではその成功を英語で語れる人が少なく、海外育ちで海外向けのモバイル・スタートアップのファウンダーであった私に声がかかるようになりました。振り返れば、40ヵ国で行った200以上のイベントでの登壇機会をいただき、また70カ国以上との仕事に結びつきました。今回のシリーズでは、そのような私のリアルな経験を背景に、急速に進化するデジタルと経済の荒波に身を置くみなさまにご紹介したいトップイベントをこれから5つお伝えします。

 最初に紹介するイベントは、ブルガリアの『DigitalK』です。

 ご存知の通りブルガリアはEUに属し、ヨーロッパ最古という人もいる国ですが、精通したビジネスパーソンですら、美しいバラとおなかに嬉しいヨーグルトしか知らない場合が多いでしょう。しかしながら同国は、高い教育水準をもつ労働力と安価な人件費/製造コストによる高い価格競争力のおかげで、周辺のバルカン諸国も含むスタートアップ企業の間では、クリエイティビティに溢れる温床であり、かつ世界に向けた発射台として認識されています。

 例えば、世界初の空飛ぶ車を開発するスタートアップ、バルカン諸国初のユニコーンであるRPAのスタートアップなど、欧州と同地域の関係者が次に来るものを発見するために来場する本イベントで、私は最初かつ唯一の日本人講演者になりました。

 DigitalKは、参加者の満足度に関わる幾つかの要素において、バランスが見事に取れたイベントです。最初にその規模です。数千人規模で大きすぎないサイズです。またイベントを取り巻く雰囲気もカジュアルであり、そこには欧米の指折りのベンチャーキャピタル(VC)や外資系現地法人エグゼクティブ、もちろん世界各国のスタートアップのファウンダーが、現地でのビジネスチャンスについて熱く語ります。まさに旬な講演者と常に先端の情報を探し求めている参加者を引き付ける規模感と評判を生んでいます。

 また、このイベントは先端の人々と他の大型イベントと一線を画すエクスクルーシブ感とが強力にミックスされたものになっています。特に中欧のテックシーンは日本人には馴染みが薄く、「スピーカーサーキット」と言われる、グローバル規模で活躍する登壇者グループに知り合いがいなければ、中々行く機会が生まれないですし、コネクションも作れません。しかし、遥々日本から飛び込んでいくと、日本人参加者が多いほかの大規模テックイベントとは異なり、国籍や在住地問わず、参加者同士が心理的に近い距離でリッチなやり取りを重ね、結びつきの強い家族のような環境を感じ取ることができます。

 特にDigitalKが開催されるブルガリアは、注目度が高い地域とは言えないからこそ、まだアーリーな市場で出会う人たちとの間に生まれる団結心があり、特別な何かに取り組む仲間の一部であるという感覚が味わえます。ビジネスに新しい次元や側面をもたらすコラボレーションの可能性があり、それは豊かな相互作用をもたらします。このようなイベントで築き上げられた友情や仲間意識が長続きすることは言うまでもありません。

ユニークな視点を成熟したビジネス・市場に持ち込む

 さらに、英語力も情報感度も高い人々が集う点も特徴です。

 先進国に比べれば、イノベーションを起こす余地が多いことから、善意に基づいた友好的な意識から始まり、すぐに互いが助けあい、高くモチベートされた環境に変化します。特に西欧のスタートアップのバリュエーションが高騰する中、VCたちは次のスタートアップ、次の市場を常に探し歩いています。この「まだアーリーな市場だからこそ、よりオープンに」という場の精神は、前例のない学びを得るためには完璧のものです。大型イベントとは異なるユニークな視点が豊富で、新しいテクノロジー、新しいアイディア、創造的な思考と出会え、そして他の経営者や起業家たちとの意見交換を通じて豊かに見識を深めていくことができます。その意見交換の相手は、デジタル化で次に来るものの最先端を検証し、暗号通貨を真のゲームチェンジャーにし、テクノロジーを通じて持続可能な未来への道を開く、バルカン諸国において、その手法を主導する歴戦の経営者と起業家たちです。

 日本では大企業がまだビジネス界を支配しています。大企業は日本企業全体の1%未満にすぎないことを考慮すると、これはとても危険なことです。そして、日本の大企業は、残りの99%以上を占める起業家や中小企業によるイノベーションを良しとしていません。これは由々しきことです。

 DigitalKのように、まだ日本人の間で知られてない先端イベントは、私が現在経営者として率いているR/GAにも恩恵をもたらしています。われわれがクライアント向けに開発している、テック主導のクリエイティビティや日本にはない発想を生み出すネットワークとリソースをもたらしてくれているのです。

 これはわれわれが最新テクノロジーをベースにしたクリエイティビティとイノベーションを推進し、日本企業の未来をプロトタイプするプラットフォームを創造できる原動力の一つです。起業家のもつ精神は、哲学以上のもので、相互作用と実行を次々生み出します。また、日本企業にとってもメリットがあります。ユニークで差別化可能なものを開発する際、日本のパラダイムに適合し、必要とされつつも、まだ見たことがないパーツを発見する手段になるからです。これは日本経済に刺激をもたらす鍵となるでしょう。

 こういった方法は、日本でソニーなどの企業を創業したビジネスリーダー世代にもインスピレーションを与えています。彼らは海外のベストプラクティスを観察し、洗練させ、さらに日本で進化させたのです。世界をリードするため、海外にあるパーツの適用を情け容赦なく行ったのです。

市場環境、地理的状況、そして言語の環境

 大きなイベントには称賛や学びがたくさんありますが、企業が主要大型イベントから競争優位性を生み出し、大型イベントにつきものの繰り返しを避けようとすると、かつてないほどのコストがかかるようになっています。

 ブルガリアに投資する企業にとって、もう一つのアドバンテージは、テクノロジーの先端知識と、英語能力と、ほかの欧州各国だけでなく、中東、北アフリカに対しても安定した繋がりとを持ったEUの国であることです。他の欧州諸国ほど、高コストでなく、中東、北アフリカほどの政情不安定さがないブルガリアは、日本にとっても非常に優れた世界とのコンタクトポイントなのです。

 多くの人に、日本人が殺到するメインストリームのイベント以外にも目を向けて、現地に出向き、そこで培うネットワークをご活用いただきたいと思っています。

筆者:嶋田敬一郎

 米R/GAの日本におけるマネージング・ディレクター。電通イージスグループのグローバル・イノベーション・ディレクター、電通のdXLABのチーフラボオフィサー、日本アイ・ビー・エム Digital Makers Labのリーダーを経て現職。キーノート・スピーカーとしても多くの仕事を手掛け、これまで40ヵ国以上で基調講演やモデレーションを行ってきた。Plug and Play Japanの公式ピッチメンター。内閣府が任命した、GPS衛星「みちびき」の公式エバンジェリスト。

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