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業務を変えるkintoneユーザー事例 第95回

各地のkintone hiveで勝ち残った6社が集結 熱い事例が満載

会社の課題をkintoneで解決した6社のプレゼンイベント「kintone AWARD 2020」レポート

2020年12月01日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●大谷イビサ

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kintoneの活用促進には社内ハンズオンなどの泥臭い努力も必要

 2番目の登壇は、中国・四国地区から有限会社中山靴店経営管理部 藤原靖久氏。テーマは「町の靴屋の業務改善~小さな会社の大きな一歩」で、藤原氏が経験した失敗とその中で得た気付きを共有してくれた。

 中山靴店は岡山県の小さな港町で1950年に創業した靴屋で、現在の従業員数は45名、岡山や札幌、大阪、京都に店舗を構えている。「職人が売る靴屋」というコンセプトで、顧客1人1人に合わせたインソールを作成している。

 藤原氏は2016年に入社した。前職の経験を活かし、経理や財務で採用されたが、社内の管理体制が整っていなかったため、バックオフィス全般を担当することになったそう。

「2017年、社内の業務改革が始まり、その結果、現場には膨大な報告業務が降り注ぐことになりました。社員は職人ばかりなので事務作業や報告は苦手で大混乱が起き、職人達は次々と辞めていきました」(藤原氏)

中山靴店 経営管理部 藤原靖久氏

 人手不足を解消するため、藤原氏は採用活動に注力することになる。しかし、せっかく入社した人も、深夜までの残業や雰囲気の悪さからすぐに退職し、離職率は25%にもなってしまった。そこで藤原氏はkintoneに出会うことになる。

「とにかく普通に帰りたい、という想いから社長を必死に説得し、導入にこぎ着けました。そして、日報アプリを作ったのですが、使われませんでした」(藤原氏)

 当時はアプリに問題があると考えたそう。日報アプリにコメント欄を追加するなどの改善を行ったが、やっぱり職人達は使ってくれず、気がつけば1年が経過した。諦めきれなかった藤原氏は、サイボウズに長文の相談メールを送り、返事を受け取った。

「kintoneは現場レベルからじわじわ使いこなされていくもの。そこには、現場を回って、しつこく使い方などを啓蒙していく、泥臭い努力も必要となってくる」と書かれていたそう。

サイボウズの社員から社内活用のアドバイスを受けたという

 ここから藤原氏は社内でのハンズオンセミナーを繰り返し開催することになる。Cybozu Daysやkintone Caféにも参加し、kintoneを通じた仲間もできた。

 そのような泥臭い活動をしていくうちに、職人が徐々にkintoneを使い始めることになった。そしてとうとう、社員が自分でカレンダーアプリを作成し、案件の納期を確認できるようになった。しかも、納期に追われる京都店に対し、それを見た手の空いている札幌店が声をかけて手伝うという助け合いが起きた。バラバラだった職人が、チームワークを取り戻せたのだ。

「kintoneでアプリを作るのは簡単でも、業務改善は簡単ではありません。成功事例を見ると、キラキラしているし、ワクワクします。しかし、100の業務を1にするだけでなく、99にするのも業務改善なのです。kintoneには感情を込めることができ、だからこそみんなが集ると、助け合いやチームワークが生まれるのです」(藤原氏)

kintoneの導入で時間外労働を減らしつつも利益を8倍にした

 3番目の登壇は北海道・東北地区から信幸プロテックの村松直子氏。岩手県盛岡市にある、創業46年、39名の社員を抱える空調機の取り付け工事やメンテナンスを行う会社だ。

 既存の顧客管理システムに顧客登録数が4000件、機器情報が1万件を超え、ソフトと自社サーバーに限界が来た。そこで同業者からkintoneを教えてもらい、2018年9月に本格的に導入した。

「2017年に働き方改革の取り組みとして自分の仕事の棚卸しをする機会がありました。その中で減らしたい業務がいくつかあることに気がつきました。その部分をIT化すると効果が大きいのではないかと考えました。そこで、kintoneを導入しました」(村松氏)

信幸プロテックの村松直子氏

 従来の業務をkintoneアプリ化することで、依頼受け付け業務は80%削減でき、見積書や請求書の登録作業は93%削減。受付から入金確認までの作業時間は累計で年間27日分も削減できた。

 依頼から訪問まではスムーズになり、訪問件数が増えると、サービスマンのスキルレベルによっては見積り作成に時間がかかってしまうという課題が発生した。これは、サービスマン各自のノウハウが共有されておらず、FAXで問い合わせするので現場から帰ってきてから確認して見積りを作っているのが原因だった。

「そこで、作成したシステムの仕入れ・外注バージョンを作成しました。サービスマンは仕入れ先や外注先の詳細情報を確認し、他のサービスマンの問い合わせ履歴を確認した上で、自分の問い合わせをアプリで作成し、送信します。戻ってきたFAXは外出先からも確認できます」(村松氏)

 業務効率はさらに向上し、取り組み前と比べると、時間外労働は22%減少したのに、依頼件数も売り上げも利益も大きく伸びた。特に、利益は8倍になったそう。凄まじい導入効果だ。

kintoneアプリにより大幅な業務改善を達成した

 3年前、ベテランサービスマンが脳腫瘍で長期入院することになった。体調が戻るとすぐに仕事復帰を希望したので、kintoneへの情報入力をお願いすることができたという。

「私はそれまで「働きたい」という気持ちがこんなに強いものだとは知りませんでした。この気持ちに応えられたのは、kintoneがあったからです」(村松氏)

 しかし、ここまで成果を出しているのに、エースのサービスマンから「前のシステムの方が全然いい」「どうしたらいいのかわからないけど使いにくいことだけはわかる」と言われ、村松氏は落ち込んでしまった。

「会社が大好きでkintoneも大好きな自分が、一番の仕組みを作れるはずだと考えていました。実際は、みんな最初は拒否する、言っても理解してもらえない、と対話を避けていたんです」(村松氏)

 実情を聞くと、効率的に入力する動線がなく、わからないことを調べようにもマニュアルがなかったことが、社員の不満につながってしまったことがわかった。

「しかし、周りを見渡すと知らないうちに活用している人もいました。私は、kintoneやプラグインの知識がないと作成できないと思い込んでいたのです。いつの間にか私を見て、動き出し、私よりも現場に合う、目的に沿ったアプリが作られていました」(村松氏)

 kintoneの良さは、それぞれが改善を続け、仕事を自分の手で変えられる実感がある、ノウハウをみんなで共有できるという働き方改革そのものだったという。

ピンクのアプリは村松氏以外の社員が作成したそう

初出時、村松氏の名前を誤っておりました。お詫びし、訂正させていただきます。本文は修正済みです。(2020年12月1日)

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