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「営業スタイルは変化、ただし悪い数字は出ていない」、コロナ禍を日本の低生産性を高めるチャンスに

“ニューノーマルの営業”のコツは? セールスフォースの営業プロに聞く

2020年09月01日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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「会話力」がより重要に――オンライン営業のポイント

 営業活動の中心がWebに移行してからおよそ4か月、そこで「学び」はあったのか。伊藤氏が真っ先に挙げたのが、オンラインセールスにおける「アイスブレイクの重要さ」だ。

 まだオンラインセールスに慣れていなかった初期には、開始早々いきなりPowerPointのスライドを開いて、顧客との認識がかみ合わないままで一方的にプレゼンを進めてしまうようなケースもあったという。「その結果、あまり良い意思決定がいただけなかった」(伊藤氏)。そこで現在は、冒頭にアイスブレイクの時間を5~10分間は設けるようにしている。

 「事前にお客様のビジネスについて調べ、それに基づいて『こんな仮説を持っていますが、どうですか?』といった話から始めるようにしている。過去の訪問営業でも本題に入る前にはちょっとした雑談を交わしていたが、オンラインではこれまで以上にアイスブレイクが重要になったと感じる」(伊藤氏)

 伊藤氏は、アイスブレイクも含めた「会話力」全般の重要さを強調する。オンラインではお互いの顔が常時画面に映っており、それを凝視することになるため疲れやすいという指摘もある。「会話がきちんとできないと、『次もまた話を聞こう』とは思ってもらえない」と伊藤氏は言う。

 テレワーク化によって社内の業務プロセスも変化した。自社のCRMを使ってデジタル化した顧客情報を共有するのはこれまでどおりだが、同じオフィスにいるわけではないため、雑談のついでに営業情報の交換をしたり、上司がほかのメンバーにしているアドバイスを横で聞いたりする機会がなくなった。同じ物理環境にいたからこそできていた情報共有の欠落も、テレワークに取り組んだ多くの企業が感じる課題だろう。

 そこでセールスフォースでは、自社のビジネスチャット「Chatter」を活用して積極的な社員間の情報交換を行っている。さらに伊藤氏が「試行錯誤中」だと語るのが、コラボレーションツール「Quip」を使った“雑談”の再現だ。お昼前や夕方などにチームメンバー(通常は5、6人)が参加し、「午前中はこんな業務をやっていた」「お客様にこんな話をしたらうまくいった」といったことを自由に書きこんでいるという。

“ニューノーマルの営業”はリアルとオンラインの使い分けが鍵

 コロナ禍が収束しても、社会は元の状態や元のやり方に戻ることはなく“ニューノーマル”が根付くと言われている。そうしたニューノーマルの時代に、営業はどう変わるのだろうか。

 「前向きに考えると、これまでよりもさらにコミュニケーションが重要になるのではないか。お客様を訪問できる機会があれば、それはこれまでよりもずっと貴重な時間と位置づけられる。『会う』という体験が、お客様とわれわれの双方にとって重要な経験となり、チャンスになる」(伊藤氏)

 それに加えて、「モードの使い分け」が重要になるとも予想する。「訪問」と「オンライン」の両方を、場合に応じて適切に使い分けることが当たり前になる。以前のように訪問営業一辺倒のやり方では、ニューノーマルの時代の営業は戦えないかもしれない。ただし、営業の仕事に求められるスキルそのものについては「これまでとそれほど変わらない」だろうと、伊藤氏は語った。

 「お客様のビジネスに関心を持つことができる――これまでも重要な要素だったが、これがさらに大切なものになると思う。お客様の側も『オンライン営業ならば会ってもいい』と選別するようになるだろう。そのとき(オンラインでの面会時)に、お客様のビジネスの本質を理解したうえで話ができたり、メールの文章が書けたりしなければ、次に(直接)お会いいただくことは難しい」(伊藤氏)

 最後に伊藤氏は、オンライン営業がもたらす可能性があるプラスの側面を語ってくれた。

 「日本は先進国の中でも『生産性が低い』と指摘されているが、オンラインでの営業活動が浸透すれば、訪問のための移動時間を別の業務に置き換えることができる。たとえばお客様のビジネスについてよく調べ、提案のレベルをさらに上げることもできるだろう。いまは良い方向に変わる可能性を秘めたチャンスだと感じている」(伊藤氏)

 ただし、そこでは「デジタルの恩恵がないと難しい」とも述べ、やはりSalesforceのようなツールの活用が重要になっていくだろうと展望した。

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