とどまっていては事業の維持はできない
2019年度実績で、6兆4000億円の売上高を誇る米HPは、いま、大きな転換を図ろうとしている。
それは、これまでのPCおよびプリンティングという同社主力事業に加えて、新たな事業領域に踏み出し、これを次代の事業の柱に据えようとしているからだ。
PCはすでに成熟市場となり、今後、大きな成長が見込める分野ではない。また、デジタル化やペーパーレス化が進むなかで、既存のプリンティング需要も拡大は見込めない。将来にわたる継続的な成長を目指すのであれば、米HPが置かれた立場は厳しいといわざるを得ない。
そこで、同社が新たな事業領域として取り組んでいるのが、商業・産業分野における印刷のデジタル化、そして、3D印刷による製造業の変革である。
岡 「PCおよび既存プリンティング、セキュリティ、AR/VRは、約53兆円の市場規模がある。だが、これは今後大きく拡大はしない。それに対して、商業印刷や産業印刷のデジタル化、3Dプリンティングは、現在は6兆円の市場規模に留まるが、将来は55兆円以上の市場規模に拡大することが見込まれている。この新たな市場に対して、HPは集中的な投資を行い、リーダーとして市場を作っていくことになる。将来の方向をここに定めている」
社会に還元するから、事業のインパクトが大きくなる
もうひとつ、HPが取り組んでいるのが、「サスティナブルインパクト」である。
温室効果ガスの削除、資源の回収と再利用、再生可能エネルギーの利用といった「Planet」、従業員の多様性、環境と教育などの「People」、テクノロジーを活用した教育機会と経済的機会の創出、従業員のボランティア活動による「Community」の3つで構成。2018年にサスティナブルインパクトによってもたらしたHPへの新規収益は1000億円近くに達したと試算している。
岡社長は、「サスティナブルインパクトは、HPがどういったコンセプトで会社を経営していくのかといったことを示すものであり、メガトレンドに対する根本的アプローチのひとつになる」としながら、「最近の本社との社内メールでは、これに関する内容が一気に増加している」と明かす。
具体的な例として、再生プラスチックの活用をあげる。
同社では、2025年までに、PCとプリンティング製品において、30%の使用済み再生プラスチックを使用することを掲げており、2018年末までに、全体の7%にこれを使用しているという。
岡 「PCのなかには、すでに全体の50%を使用済み再生プラスチックで構成している製品もある。また、HP Elite Dragonflyは、海洋ごみプラスチックを世界で初めて使用したノートPCになる」
さらに、20万エーカーの森林の保護、再生、管理において、WWFと協力。2020年までに、HPブランドの用紙および紙製梱包材において、森林伐採ゼロを目標に掲げている。実際、HPブランド用紙では、すでに100%を達成。紙梱包材でも2018年時点で65%にまで到達している。
岡 「毎年1870万エーカーの森林が伐採されている。これは、日本の国土の約20%にあたる規模。それだけ、地球に大きな影響を与えている。HPは社会的責任として、この課題に取り組んでいる」
HPは、グローバルでは、社会に貢献する企業としてのイメージが定着しているという。実際、米ニューズウイーク誌が選ぶ「米国で最も責任ある企業」に、米HPは選ばれている。
「日本では、まだHPのブランド認知度が低い」と、岡社長は自ら課題を示してみせるが、PCの東京生産が20年目の節目を迎えるとともに、プランドシェアで国内ナンバーワンを奪取。日本の市場に最適なノートPCを投入したり、日本の拠点からのサポート体制を用意したりといった取り組みのほか、日本の顧客の要望を反映するプリンティング技術開発センターも設置。日本において事業を加速するための地盤が整い始めている。今後、日本HPが注目される機会も増えそうだ。
岡 「日本に存在してほしいと思ってもらえる会社になれるように、これからも日本に根ざした活動を進めていく」と岡社長は語る。
日本HPの日本における事業は、国内ナンバーワンのPCメーカーとなったことで、市場をリードするという新たな責任も生まれることになるだろう。
日本HPの位置づけと役割は、新たなフェーズに入ったといえそうだ。
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