事業再編で成果を出すも3つのつまづき
田中社長は、2015年10月に打ち出した中期経営方針で、「形を変える」と「質を変える」という2つの方向性を示した。
“形を変える”という点については、成果があがっていることを示す。
“形を変える”では、あらゆるモノをつなげ、データを学習し、インテリジェンスを生み出すための「つながるサービス」の展開に向けて、リソースを集中。PC事業や携帯電話事業、ニフティのコンシューマ事業、富士通テンによる自動車関連事業などの売却による事業ポートフォリオの再編に取り組んできた。
田中社長は「『形を変える』取り組みは、着実に成果があがっている。2017年度実績で、純利益で過去最高益を達成したことがその証である」とする。
一方で、“質を変える”という取り組については、「成果を享受するには、時間がかかっている」と反省する。
質を変えるでは、国内SE会社の吸収合併によるリソースの集中と、デジタル革新の加速、デジタルサービス部門やグローバルサイバーセキュリティ部門の新設など、ICTサービス企業として、グローバルに戦える体質を目指すものとした。
しかし、ここでの成果が想定を下回っているというわけだ。田中社長は「2017年度には、課題といえるものが浮き彫りになった」とし、「海外ビジネスを含めた先行投資のリターンが不十分であること」「ネットワークビシネスにおける事業環境変化への対応が遅れたこと」「想定以上に不採算が拡大したこと」の3点をあげ、「多額のマイナス影響を及ぼしたことに強い危機感を持っている。2018年度は、改めて対策を徹底するつもりであり、その対象領域は多岐に渡る」とした。
たとえばネットワークプロダクトでは、国内向け携帯電話基地局の投資が想定以上に抑制されたほか、競争環境の厳しさが加速。「5Gが本格的に立ち上がる2019年度後半から2020年までは、厳しい状況が継続するだろう」(富士通の塚野英博代表取締役副社長兼CFO)とする。
また、不採算案件に関しては「2017年度には、システムインテグレーションだけでなく、インフラ構築に関するサービスでも不採算プロジェクトが発生した」とし、「過去、インフラサービスの領域においては、国内での大きな不採算プロジェクトは発生していない。だが近年では単純なインフラ構築から、ネットワークやセキュリティーなどのソリューションを組み合わせることにより、付加価値を高めた案件が増加しており、プロジェクトの難易度が高まっている。再発防止に向けて、アシュアランス機能の拡充を開始しており、この領域における対応力強化を進める」とした。
一方で、ソリューションSIでは、2017年度には、金融分野の大規模プロジェクトおよび公共分野のマイナンバー関連システムの開発ピークアウトなど、大規模商談の端境期に当たるため、大きく減収となると予測していた。だが、産業、流通の増加を中心にカバーし、過去2番目に高い売上げ水準を維持したという成果をあげている。
人と人とのつながりが大きな成功を可能にする
田中社長は、2018年10月に開催する予定の「経営方針進捗レビュー説明会」において、新たな方針を発表する考えを示している。
「経営方針進捗レビュー説明会では、経営方針の達成に向けたマイルストーンを含めた詳細を改めて発表する。2018年度は、将来的な成長を見据え、より厳格な投資の集中と、改革を必要とする事業領域の体質強化に躊躇なく手を打っていくものになる」とする。
2018年5月17~18日に開催された東京・丸の内の東京国際フォーラムでの富士通年次イベント「富士通フォーラム2018」の基調講演で、田中社長は手に風呂桶を持って登壇し、会場を驚かせた。
この風呂桶は、富士通がオフィシャルスポンサーを務めるJリーグの川崎フロンターレが初優勝を遂げた際に、会場に優勝杯が用意されておらず、優勝杯の代わりに選手たちが記念に掲げたものだ。
川崎フロンターレは長年シルバーコレクターと言われ、今回も直前までは別のチームが優勝すると予測されていた。そうした背景もあり、会場には優勝杯がなかったのだ。
田中社長はエピソードを披露しながら「スポーツが感動を呼ぶのは、人と人のつながりが織りなすドラマがあるためだ。選手の力は、チームメート、監督、コーチ、応援をする人たちがつながることで最大化される。そして、その先には勝利というサクセスがある」としながら、「これは、ビジネスも同じである。人と人、会社と会社、さまざまな組織がつながることで、パワーが発揮され、大きな成功を可能にすると信じている」
富士通は、残念ながら、中期経営計画の未達が繰り返されている。スポーツでいえば、目標とした優勝からは遠ざかっている状態だ。
2018年10月には、新たな計画がどんな形で打ち出されるのか。その内容が、田中社長が在任中の最終的な目標になりそうだ。
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