スーパーコンピューターの系譜、今回からはCRAYの話に移りたい。CDC(Control Data Corporation)を去ったシーモア・クレイ(Seymour Cray)は、1972年にCRI(Cray Research, Inc.)を設立する。
ただしその後、クレイはCRIからスピンオフしてCCC(Cray Computer Corporation)を1989年に設立するが、ここは1995年に破産する。
クレイは1996年に新たにSRC Computers, LLCを設立するが、自身は同年自動車事故で逝去する。このSRC Computersは現在も存続している。(http://www.srccomputers.com)。
一方のCray Researchの方は、1996年にSGI(Silicon Graphics International Corp.)に買収される。
3ヵ月後にSGIはまずCray Researchの中でSPARCベースのシステムを開発していたBusiness System DivisionをSun Microsystemsに売却、さらに2000年には残ったCray Researchの資産とブランドをTera Computer Companyに売却する。
このTera Computer Companyは、買収にあわせて社名をCray Inc.に変更。その後2012年にはAppro International, Inc.などを買収したりして現在に至る。
以上のように、一連のCray社(CRI,CCC,SRC,Cray)の中でシーモア・クレイが直接的に影響を及ぼしたのは、CRIのCRAY-1とCCCのCRAY-2/3程度であり、これに続くCRAY X-MPやCRAY Y-MPなどは、CRAY-1のアーキテクチャーを踏襲しているが、別の人間の手によるものである。
さらにCRIはその後、自社でプロセッサー開発を断念してDECのAlphaやSunのSPARCなどを利用していたし、Teraによる買収後は同社のMTA Systemをベースとしたシステムや、AMDのOpteronベース、さらにはインテルのXeonベースと、どんどんアーキテクチャーを切り替えており、その意味ではこれらを全部まとめて説明するのは無理がある。そこで今回はCRI初期のCRAY-1について解説したい。
世界で最も高価な椅子と揶揄された
「CRAY-1」
CRAY-1は当時「世界で最も高価な椅子」などと紹介された。実際初号機はNCAR(National Center for Atmospheric Researc)に1977年に納入された(*1)が、この際の本体価格は790万ドル。当時の為替レートは1ドルが約280円だったので、換算すると22.1億円ほどになる。さらにストレージ(HDD)が100万ドル程度となっている。22億円の椅子は、間違いなく世界で最高の価格だったとして良いだろう。
(*1) NCARに納入されたのは量産第一号でシリアルNo.は3である。最初の2台はLLNL(Lawrence Livermore National Laboratory)とLANL(Los Alamos National Laboratory)にそれぞれ試作品として納入されたもようだ。
そのCRAY-1のアーキテクチャーであるが、これはCDCのSTAR-100に似たベクトル型計算機である。ただしSTAR-100との決定的な違いは下記の2が挙げられる。
- ベクトル型計算機を導入し、ベクトル演算はすべて計算機同士での演算に留めた(つまりSTAR-100のようなメモリー待ちは、原理的に発生しない)。
- 上と絡むが、ベクトル長を64に制限した。
前者はCDC-6600でも似た機構を導入したが、今度はセントラルプロセッサーや周辺プロセッサーといった複雑なことをせずに、1つのプロセッサーの中でこれが完結している。
下の画像はCRAY-1の内部構造であるが、最近のプロセッサーといわれてもあまり違和感のない構造になっている。
→次のページヘ続く (世界最速の演算を実現した並列処理の仕組み)
この連載の記事
-
第772回
PC
スーパーコンピューターの系譜 本格稼働で大きく性能を伸ばしたAuroraだが世界一には届かなかった -
第771回
PC
277もの特許を使用して標準化した高速シリアルバスIEEE 1394 消え去ったI/F史 -
第770回
PC
キーボードとマウスをつなぐDINおよびPS/2コネクター 消え去ったI/F史 -
第769回
PC
HDDのコントローラーとI/Fを一体化して爆発的に普及したIDE 消え去ったI/F史 -
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ