以前に比べ、「3Dモーション・センシング」が身近になったという印象がある。この分野の草分け的製品は2010年にMicrosoftがXbox 360向けに提供を開始した「Kinect for Xbox 360」だが、その後、機器の小型化や低価格化が進み、最近では「Leap Motion」のセンサー技術がノートPCに搭載され、IntelはノートPCなどのインカメラに内蔵可能な「RealSense」の小型モジュール版を開発するなど、本格的な普及の前段階に入ったといっていい状況だ。
また、モーション・センサーの草分けであるKinectは、医療分野や教育分野をはじめ、さまざまな応用分野での事例を蓄積しつつある。ただMicrosoftによれば、現在の3Dセンサー(深度センサー)を組み合わせたモーション・センシング技術は複雑さと高コストという問題を現在も内包しており、より多くの人々が利用するコモディティ向けの技術としての課題に直面しているという。
そんな同社が、今年開催の映像関係学会SIGGRAPHにおいて発表したのが、利用シーンを「センサーに近接した人間の動き」に限定することで、市販のごく一般的なウェブカメラを深度センサーとして利用し、低コストで手軽に3Dモーション・センシングを実現する仕組みだ。
3Dモーション・センシング技術普及に立ちふさがる壁
これはMicrosoft Researchの研究開発プロジェクトのひとつで、プロジェクト名ならびに論文の正式名は「Learning to be a depth camera for close-range human capture and interaction」(近距離の人間の取得ならびに反応のための深度カメラの研究)となっている。Microsoft Researchのプロジェクトページには、下記のようなYouTube動画が掲載されているほか、SIGGRAPHでの発表論文(PDF文書)を読むことができる。本稿では、これから動画を見る人の参考になる情報を論文から引用し、簡潔にまとめていく。
冒頭で挙げたように、今日ある3Dモーション・センシング技術はKinectを含め、専用センサーと複雑な計算を経てモーション・センシングを実現している。Microsoftの論文では具体例として、PrimeSense(最初のKinect技術のベースを開発した企業で、現在はApple傘下)、Intel RealSense、Pelican Imaging、PMDTechnologies、GoogleのProject Tangoなどの名称が挙げられている。
このうちProject Tangoは、今年6月のGoogle I/Oでも専用デバイスを使った3Dマッピング技術が話題になったりと、IT業界でもビッグネームらが3Dモーション(オブジェクト)・センシングに研究開発投資を続けており、最もホットなトピックであることが分かる。
だが、これら技術はすべて専用センサーを必要としていることからも分かるように、コモディティ化を進めるうえで「部品点数が増える」「コスト増要因になる」という壁が立ちふさがっており、近い将来的にこの壁が3Dモーション・センシングが広く一般に普及するうえでの分水嶺となる可能性がある。つまり、どこまで小型軽量で安価に部品を作れるのかという点がポイントとなる。
一方で、Kinect登場を境に新しいユーザーインターフェースに関する研究が進み、実際にモーション・センシングを活用したサービスやソフトウェアが登場するなど、コモディティ化の進展とともに爆発的なブームとなる兆候を秘めている。「ならば最大の壁となっている深度センサーを既存カメラで代替できる技術を開発しよう」というのが今回の研究の発端だ。