株式非公開化の実施など、「エンド・トゥ・エンドでエンタープライズソリューションを提供する企業」を目指して大きく舵を切ったデル。そのデルで、エンドユーザーコンピューティング(EUC)事業部が現在力を入れているのが、ワークステーション領域だ。3月初旬、デルはワークステーション領域で初めてのプレスイベントを本拠地テキサス州オースティンで開催し、その戦略を明らかにした。
ワークステーション市場で“逆襲”を図るデル
デルがワークステーション市場に参入したのは17年前のこと。以来、「ワークステーションの世界に標準化を」という指針の下、「Precision」ブランドを冠した製品を展開してきた。2001年には初のノート型ワークステーションを、2005年には初のデュアルコア機種を、2008年にはラック型を投入するなど市場を常にリードし、長年にわたって市場シェアも首位の座を維持していた。だが、ここ数年は競合のヒューレット・パッカード(HP)にその座を譲り、2位に甘んじている状況だ。
エンタープライズソリューションをエンド・トゥ・エンドで提供する企業への“変革”をアピールするデルだが、ワークステーション事業もその例外ではない。Precisionワークステーション担当の製品マーケティングディレクター、パット・カンナー(Pat Kannar)氏は、「デルの変革に合わせて、ワークステーションも変革する」と強い決意を語る。
デルではこの9カ月間に10機種のワークステーションを発表した。中でも軽量・薄型ノート「Precision M2800」、小型デスクトップ「Precision T1700」の2機種は、ワークステーション市場の「新カテゴリを切り開いた」と、カンナー氏は満足顔だ。発売後の経過も順調だという。
これらが奏功してか、2013年第4四半期は主要ベンダー中、デルだけが前年同期比でプラス成長となった。「2013年のワークステーション市場の平均成長率は4%。デルの成長率はそれを上回り、シェアも3ポイント増やしている」(カンナー氏)。
「他社より最大18%高性能」のカギを握る独自技術
Precisionワークステーション事業部 ゼネラルマネージャを務めるアンディ・ローズ(Andy Rhodes)氏は、デルのワークステーション戦略の柱は「最高のプラットフォームを届けること」だと力説する。“最高のプラットフォーム”とは、ソフト/ハードの両面ですばらしい体験を提供し、エンジニアやデザイナーがストレスなくスムーズに作業できる環境を指している。ローズ氏は、顧客が必要とするアプリやソフトを安心して動かせるように、デルではISV(ソフトウェアベンダー)認定と性能向上に注力しており、世界10カ所のデザインセンターで5000万ドル規模を投じて開発を進めていると説明した。
ワークステーションは主に、メディア/エンターテインメント、製造、金融などの業界で、高速な3Dレンダリング、シミュレーション、各種解析などを目的に利用されている。当然、そこには高い性能が求められる。デルでは、最新のCPUやGPU、ストレージ、メモリによる高速化技術を製品に組み込んで要件に応じる一方で、電力効率の改善や、熱シミュレーションによる効率的な冷却/静音技術の開発も進めている。
「こうした努力の結果、デルのワークステーションは同一のCPUを搭載した他社製品と比べて性能が18%優れている。GPUでは11%の性能改善を実現した」(デル パフォーマンス担当シニア・エンジニア アレックス・ショウズ[Alex Shows]氏)
性能向上の大きな鍵を握るのが、独自技術を備えたツール「Dell Precision Performance Optimizer(DPPO)」である。これは「自動性能最適化」「システムメンテナンス」「追跡とレポート」という3つの機能を持ち、利用するアプリケーションに合わせて自動的にソフトとハードの調整を行う(アドビやオートデスクなどの、利用されるケースが多いアプリについてはプリセット設定もある)。ショウズ氏によると、DPPOを使うことで57%も性能が改善するアプリもあるという。
もう1つ、ショウズ氏が紹介した性能改善技術が「Intel CAS-W(Intel Cache Acceleration Software-Workstation)」である。これは、インテルの開発者との協業により開発された、ワークステーション向けソフトのキャッシュアクセラレーション最適化技術である。独自のデータキャッシュポリシーに基づき、一元的ではなく特定のデータに対してアクセラレーションを適用することで、ストレージ性能を大きく改善する効果があるという。DPPOとCAS-Wはともに2013年から提供されており、デルでしか手に入らない技術だ。
(→次ページ、次なるターゲットは「低価格化」と「仮想化」)