チップの動作をソフトで再現する
「モデル」
次がモデル。前回、シミュレーションを使ってチップ内部の動作を事前に検証したりデバッグをするという話を説明したが、同じことをスマートフォンメーカーも行なっている。
というのは、SoCが完成してからおもむろに開発を始めていたら、到底間に合わないからだ。特に自身がAlpha Customerだと、SoCの発表に合わせて試作機でいいから展示してくれと言われるわけで、ここでモックアップ(動作しないただの模型)を展示すると技術力を疑われかねない。
ということは、少なくとも電気的に動作し、しかも全部ではないにせよOSと基本的なアプリケーションくらいは動作する程度の完成度が必要である。まだチップもないのにどうやってこれをやるかということで、やっぱり最初はシミュレーションである。
例えばARMの場合、同社が提供するDS-5(Development Studio-5)という開発ツールを使うと、CPUがなくても「Cortex-A8/Quad Cortex-A9」のシミュレーションが可能であり、純粋にCPUだけを使うアプリケーションはここで直接開発が可能である。
ただSoCの場合、他にも色々なデバイス(GPUとかISPとか、勿論モデムなども含む)が内蔵されて全体で動作するので、CPUだけではさすがに話にならない。
これに関しては、すでにいくつかのベンダーがSoC全体のシミュレーターを提供している。例えばcarbon design systemsでは、「SoC Designer Plus」というSoC全体のシミュレーションツール(同社はVirtual Prototypeと称している)を用意しているし、Imperasという会社も似たようなソリューションを提供している。
今はインテル(正確にはインテルに買収されたWind River)に買収されたVirtutechという会社もやはり似たようなシミュレーションツールとソリューションを提供している。
前回、EDAベンダー大手の1つとして名前をだしたCadenceや、そのCadenceに並ぶ大手であるMentor GraphicsといったベンダーもSoCシミュレーターを提供している。
そこで、SoCベンダーはこれらのシミュレーターのどれを使うかをまず決定する。ここでは当然Alpha Customerにも同じシミュレーターを使ってもらう必要があるので、すり合わせもする。
次いで、IPを使う部分についてはそのベンダーからシミュレーション用の「モデル」を提供してもらい、SoCベンダー自身が作るものに関しては自身で「モデル」を作ることになる。
要するに「モデル」というものは、そのIPの振る舞いをソフトウェア的に再現する部品と考えればいい。このモデルをAlpha Customerに提供して、ソフトウェアの開発をしてもらうことになる。
ちなみにSoCそのものはシミュレーターで実現できるとしても、Alpha Customerが独自に付加する回路、例えば日本ではワンセグ/フルセグTVなどはシミュレーションできない。これをやろうとすると、Alpha Customerが自分でモデルを作る必要がある。
なかには「すでに動いてる回路はあるけどモデルはない」という場合もある。これに備えて、プロトタイプ用ハードウェアなるものが用意される。下の写真はAPMが同社のX-GeneというARM v8ベースの64bitプロセッサに先立って提供を開始した評価ボードであるが、こうしたものに独自回路を接続、ソフトウェアを検証することになる。
![](/img/blank.gif)
この連載の記事
-
第776回
PC
COMPUTEXで判明したZen 5以降のプロセッサー戦略 AMD CPU/GPUロードマップ -
第775回
PC
安定した転送速度を確保できたSCSI 消え去ったI/F史 -
第774回
PC
日本の半導体メーカーが開発協力に名乗りを上げた次世代Esperanto ET-SoC AIプロセッサーの昨今 -
第773回
PC
Sound Blasterが普及に大きく貢献したGame Port 消え去ったI/F史 -
第772回
PC
スーパーコンピューターの系譜 本格稼働で大きく性能を伸ばしたAuroraだが世界一には届かなかった -
第771回
PC
277もの特許を使用して標準化した高速シリアルバスIEEE 1394 消え去ったI/F史 -
第770回
PC
キーボードとマウスをつなぐDINおよびPS/2コネクター 消え去ったI/F史 -
第769回
PC
HDDのコントローラーとI/Fを一体化して爆発的に普及したIDE 消え去ったI/F史 -
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ - この連載の一覧へ