ネット規制法令にあまり関心を示さないベトナム人
ただ、当のベトナム人はどうかというと、現地在住の日本人複数に確認してもらったところ、どうも事を重大と思っていないようだ。また中国メディアも関心を持ち、このニュースを現地の様子とともに紹介しているが、ベトナム人はゲームに関心があるだけで記事のシェアにはあまり関心がないとのこと。むしろ、その記事を読んだ中国人読者のほうがベトナムと母国について憂いをみせている。
なぜマスのベトナム人はさほど気にしないのだろう。中国もベトナムもだいたい人口の4割がインターネットを利用し、若い世代が中心だ。
利用実態では異なり、中国ではネット黎明期から掲示板サイトがあり、ニュース記事には感想コメント欄があり、チャットソフト「QQ」があり、記事が書かれれば無数の中小メディアやブログに勝手に転載される。最近では、1万以上の「いいね!」がついたニュースの感想コメント欄もザラだ。
かたやベトナムでは、ネット黎明期からオンラインゲームや音楽、ビジネス用途で使われるものの、SNS的な拡散は中国と比べれば土壌ができてない。今でこそFacebookやZing meが普及したが、情報の拡散が習慣化していないのでSNSが最たる目的になってないことが原因の1つではありそうだ。
ベトナムの言論規制に中国人も反応
とはいえ、一部のインテリベトナム人はこの規制の動きに関心を持っている。ベトナムには「制限なき言論の乱用」を禁じるベトナム刑法「第258条」がある。この刑法258条により逮捕されたブロガーは何人も報告され、10月にもFacebookの書き込みがきっかけの逮捕劇があった。
FacebookやBloggerなどを利用するベトナム人ネットユーザーがベトナムブロガーネットワークをつくり、「制限なき言論の自由」を求め、「第258条」の削除を訴える「258号宣言」(tuyen bo 258)を発表。この文字をFacebookやTwitterやGoogleなどで検索すれば多数のベトナム人の声が確認できよう。
ベトナムのブロガーはハノイのアメリカ大使館やスウェーデン大使館に向かい、258号宣言についての陳情を行なった。アメリカ大使館はベトナムの72号法令に反対する声明を発表し、またGoogleやFacebookなどが名を連ねるアジアインターネット連合(Asia Internet Coalition)も同様に非難する声明を発表した。
ベトナム政府は「どの国でも言論の自由に制限はもたせている」と表明し、ボイスオブベトナムなどの対外メディアでも「ベトナムにおける言論の自由権を正しく理解する必要がある」という日本語を含む各国語の記事で火消しを行なっている。
そして、この一連のニュースを中国のいくつかのメディアが報道しており、数千もの中国人の感想コメントが書き込まれている。
「西側は価値観を押し付けている」といった意見や「自分の国を見ているようだ」といった意見、「アメリカ政府と、GoogleやFacebookが代表企業のアジアインターネット連合が訴えたのでは、金もうけが目的と目に見えている」といった意見が見られた。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)を執筆。最新著作は「日本人が知らない中国インターネット市場[2011.11-2012.10] 現地発ITジャーナリストが報告する5億人市場の真実」(インプレスR&D)。
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