とにかく高価なRIMMモジュール
問題解決策のはずのMTH-Sが致命傷に
前述の問題点は、根本の原因がDirect RDRAMとPentium IIIのミスマッチというあたり、Intel 820に非はないのだが、あとに続く話が致命傷となった。性能面もさることながら、とにかく価格が高いというのがDirect RDRAMの弱点である。
連載100回でも触れているが、RIMMモジュールの価格は同容量のSDRAM DIMMの3~5倍と恐ろしく高価だった(下手をするとCPUより高い)。もちろんインテルやRAMBUSとしては、一度本格的に量産が開始されれば急速に下がると見込んでいたので、あまり積極的なRIMMの低価格化施策はとらなかった。
しかし、そのままだとさっぱりDirect RDRAMが普及し始めない。そこで、Direct RDRAMにSDRAMを接続するためのMTH-S(Memory Translator Hub-SDRAM)というチップ(Intel 82805AA)を同時にリリースした。結果として市場には、Intel 820のみを搭載してRIMMを利用する製品と、Intel 820+Intel 82805AAを搭載してSDRAMを利用する製品の2つが混在することになる。
インテルは、前者の構成をとるIntel VC820と、後者の構成をとるIntel CC820という2つのマザーボードをリリースした。
VC820は、当初サンプルとして出回ったものにはRIMMスロットが3バンク分あった。ところが3バンクすべてにRIMMを装着した状態でテストを実行すると、システムリセットが頻発した。これはチップセット側の駆動能力に問題があったようで、2バンクに減らすと問題がなかった。そこでインテルは、こっそり設計ガイドを改定して最大2バンクまでに変更したほか、VC820も量産品はRIMMスロットを2バンクに減らしている。
その対処でIntel 820の出荷は当初予定の9月からずれ込むことになったが、これはまだかわいいほうだ※3。問題なのはCC820のほうである。CC820に搭載されたMTH-Sは、高負荷がかかるとリセットしてしまう現象が確認された。これを受けてインテルは2000年5月に、MTHのリコールを決定する。結果としてCC820は全品回収となり、他のマザーボードベンダーの製品も回収、あるいは返品受付が行なわれることになった。
※3 RIMMスロットを3本で製造してしまったために廃棄処分になったマザーボードは10万枚以上と言われている。
リコールが起きてしまった理由は明確にされていないが、おおよそ見当は付く。Direct RDRAMのメモリーコントローラーは、RAMBUS社から提供されるRAC(RAMBUS ASIC Cell)と呼ばれる回路を使用しなければならない。その結果としてMTH-Sの内部構造は下図のようになると考えられる。
厄介なのはRACがハードマクロで提供されていたことだ。なにか不具合があってもRACの中は調査できないので、あくまで自社で触れるSDRAM I/Fやプロトコル変換の部分“だけ”で調査し、対策する必要がある。仮にプロトコル変換に問題があったとしても、それを確認するためにはSDRAM I/FやRACの内部の動きをきちんと追いかけないとわからないことがままある。実際、MTH-Sも高負荷になるとリセットするという不具合が出てしまい、回収せざるを得なかった。
当時インテルは、Pentium IIIからPentium 4への切り替え時期だったこともあって、これ以上Intel 820系にコストをかけられなかったためか、最終的にIntel 820でのMTH-Sはサポートそのものが削られてしまう。
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