「省、小、精」の技術によって商品化
セイコーエプソンが、スポーツ機器市場への参入第一弾製品として、GPS機能付ランニング機器「Wristable GPSシリーズ」を発表した。
同社が得意とするGPS機能を搭載したリスト型計測機で、ランニングする際にラップタイムなどを計測し、それを管理。効果的なトレーニングにつなげることができるという。
「エプソンのコアセンシング技術、IT技術、GPS技術、時計技術を組み合わせることによって、優れた装着性や長時間使用、全天候型、高い計測精度を実現した。エプソンの強みである『省、小、精』の技術によって実現した製品」と自信をみせる。
省、小、精とは、エプソンが得意としてきた省電力や省スペース技術、小型化技術、精密技術などを指す。
薄くて、軽い「Wristable GPSシリーズ」の特徴
今回の製品では、エプソンが独自開発したGPSモジュールを搭載することで、GPS機能使用時でも、最大14時間の稼働を実現。さらにGPSを搭載していながら、一般的なスポーツウォッチと薄さや軽さで同等水準を実現している。これもエプソンならではの「省、小、精」の技術が生かされたものだといえる。
これにより、位置情報から距離、速度を自動計測し、距離を設定しておくだけで自動的にラップ情報を記録。また、実速度と体振動周波数から、歩幅を自動的に学習するストライドアルゴリズムを採用したストライドセンサーを本体に内蔵しているため、トンネル内などのGPS衛星から信号が受信できない場所でも、高い精度で走行距離とラップを算出できる。
設定した目標に対する評価も表示されるため、達成度を確認しながらトレーニングしたり、計画的なダイエット、健康管理をきめ細かくサポートするというふれこみだ。
また、最上位モデルでは、心拍トレーニングや有酸素運動にも役立つハートレートセンサー(心拍数計測)機能を標準搭載。10気圧防水としていることから、ランニングのほかにも、スキーやスノーボード、ヨットやカヌーなどのウォータースポーツでも利用できる。
Wristable GPSシリーズとして3モデルを用意しているが、いずれも同梱しているUSB対応のクレードルを利用することでPCと接続でき、ウェブサイトのNeoRunを通じて、データの記録および検証もできる。
国内ランニング人口の拡大を予測するエプソン
実は、日本においては、ランニング愛好家やマラソン大会参加者が急増している。
エプソンの調べによると、ランニング人口は年10%で拡大。現在、約535万人いるランニング人口のうち、年3回以上マラソンに参加しているアスリートランナーは約35万人、それ以外のファンランナーが約500万人いると分析する。そして、この市場はさらに拡大するとも予測する。
このWristable GPSシリーズの開発チームも、全員がランナーだといい、実際にユーザーの声を聞くだけでなく、自らの経験をもとに、想定される課題や要求に対処する形で製品開発を進めてきたという。
ランナーによる、ランナーのための製品だといえよう。
腕につけるが、腕時計ではない?
今回の製品発表で2つの隠れたポイントがある。
ひとつは、今回の製品はあくまでも「ウォッチ」ではないという点だ。
ウォッチ事業に関しては、セイコーが事業を担当しており、セイコーエプソンは自社ブランドでウォッチを投入することはない、というのがセイコーグループとしての公式な見解だ。
だからこそ、今回の製品では時計機能が搭載され、形状が「ウォッチ型」であるにも関わらず、エプソン自らは、「ウォッチ型」とは表記せず、「リスト型」と表記。スポーツ機器というカテゴリーに分類している。
新開発のGPSモジュールは外販せず、当面自社製品のみに
もうひとつは、今回搭載した小型、軽量、薄型のGPSモジュールの外販は当面行わないという点だ。
碓井社長はその点を次のように語る。
「これまでは、いい技術が完成すると、それをすぐに外販していまい、当社が出した製品そのものに競争力がなくなるということがあった。もう少し、自分たちの技術を、自分たちの最終製品として、大切に売っていくことも必要である」
今回のWristable GPSシリーズは、そうした意味でも、エプソンの最先端技術を活用して、大切に販売していく最終製品ともいえる。
「これによって、スポーツ、健康、医療といった新たな領域で、様々なウェアラブルの製品、サービスを提供する」と意気込む。
これまでのエプソンの事業からは異質ともみえるこの新たな事業だが、我々が思う以上に強い意気込みで、この市場に参入してきたことは確かなようである。
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