視聴者層を決定付けた“お姫様抱っこ”
じつは“笑いを取るため”だった!
―― そんな視聴者の反応をアニメ制作に反映することはあったのでしょうか。
尾崎 「制作サイドとしてはありません。というのも、リアルタイムに反応が分かったところで、1クール中にストーリーの根幹部分に調整を加えることは制作進行的に不可能なのです。2クールの場合でも、最後の数話の一部分を変えられるかな、という程度。4クールあれば、フィードバックが可能ですが……」
―― 1話のお姫様抱っこシーンも印象的でした。
尾崎 「実際はオンエア前に、シナリオはすべて決定稿になっていて、そこから基本的に変えていません。もちろん現場レベルでの絵コンテ以降の微修正はありましたが。当初から人間同士のドラマを描こうとしていて、それを貫きました。
逆にそれで支持された部分があると思います。これが途中で特定のコアファンがついてくれてるからといって、じゃあ、その方々を喜ばせるために、もっとこんなシーン入れようだとか、こんなストーリーに変えようぜとやっていたら、たぶん、作品の面白さそのものが損なわれたと思います」
―― わかります。2期目で企画の軸にブレが生じてしまい、残念なことになる作品もありますね。
尾崎 「ただ、お話の根幹が左右されることはないものの、現場のモチベーションはTwitterや配信の手応えによって確実に上がりますし、その熱がフイルムに反映されるという効果は、確かにあると思います。
(リアルタイムの反響は)制作側よりも、作品の楽しみ方が拡がるという意味で視聴者側への影響のほうが大きいのではないかと」
劇場でのライブビューイングから、劇場版へ
―― リアルタイムの反響は、宣伝や販促のほうで活用しがいがあるかもしれませんね。そこでお伺いしたかったのが、劇場での視聴イベント(ライブビューイング)です。
尾崎 「最終回イベントについては、まずは作品を楽しんでくれた、そしていろいろな形で広めてくれたファンに対する御礼を直接言いたかったのと、これからもプロジェクトが続くことを知ってほしかったという思いがありました。
そしてせっかくなら、いままでがんばって起きてリアルタイムで視聴し続けてくれた人たちと、一緒に楽しめる場所を用意しようと。ところが深夜放送ですからイベントが終わっても帰りの電車がありませんよね(笑)。ならばオールナイトだということで、開催可能な劇場を1つ1つ押さえていったというわけです」
―― 1話の放送時点から、こういったイベント開催計画はあったのでしょうか。
尾崎 「具体的には何も決めてはいませんでしたが、僕のなかでは放送前からやろうと思っていました。
ただ、アニメは1人だけの思いで動くものではありません。関係各社との合意が必要です。委員会で話し合い始めたのが5~6月、合意を得たのが7月ごろ。ちょうど人気に火がつき始めて、手応えを感じていた時期ですね。
でも、とんとん拍子に決まったわけではありません。やはり、コストも掛かりますしリスクがありますから。劇場のブッキング作業に入れたのは8月からですね。
『銀魂』などでご一緒したティ・ジョイさんにかなり無理を言って実現したイベントです。最初に話を持って行ったときは、『テレビアニメでライブビューイング? それでオールナイト??』と唖然とされましたね(笑)。
無理もありません。普段、映画を扱っている配給会社の方々からすれば、ネットの世界で火がつき始めているオリジナルアニメなんて遠い世界のお話でしょうから。『そもそもTIGER & BUNNYってなんですか?』という会話から始まりました(笑)」
―― 7月の時点でも、ですか。同じ映像業界内でも浸透具合には差が出るものなんですね……。
尾崎 「有名原作、あるいは劇場版が予定されている作品なら別ですけれどもね。でもそこから一気にリサーチをかけられて、『これまで一緒にイベントを成功させてきた人間が自らプロデュースして、そこまで力を入れているのなら……』ということでバタバターッと決まっていった形です。
とはいえ、楽な話ではありません。アニメのオールナイト上映は、僕自身も『サンライズフェスティバル』を2010年から始めていますし、例はいくつもあります。しかし、それはせいぜい200人入る箱を1つ押さえる程度の話です。
今回は“全国各地で合計数万人単位”という途方もない規模に加えて、当日はすでに放送済みの話を流す、しかも『新作』は22分の最終話だけですからね。
ところがTwitterをやっていると、『もしかするとみんな来てくれるんじゃないかな』という感覚を覚えまして。実際フタをあけてみると、何万人という応募がありました」
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