メモリー編ロードマップの最終回は、モバイル向けのメモリー技術を解説しよう。モバイル向けという場合、かつては携帯電話がその最右翼であったが、昨今はタブレット系などに利用されることも多くなった。
また、最近ではインテルのAtomベースSoCも、LPDDR系メモリーをサポートするようになった。ARMアーキテクチャーのプロセッサーで将来的にWindowsがサポートされることを考えると、LPDDR2やLPDDR3を搭載したマシンでWindowsを動かす、という時代がまもなく到来することになる。
SDRAMの省電力機能に
さらに機能を加えたMobile RAM
最初にモバイル向けメモリー製品が投入されたのは、2000~2001年にかけての時期で、この時点ではまだ電子部品規格の標準化団体「JEDEC」の標準ではない、独自規格製品であった。
製品名としては「Mobile RAM」と呼ばれたが、いつの間にかそれは、製品名から製品カテゴリー名として認知されるようになる。当初のMobile RAMはSDRAMをベースとした製品であったが、プロセスの微細化などによりDRAMセルの動作電圧を2.5Vに、I/O電圧を1.8Vまたは2.5Vに下げている(標準的なSDRAMはどちらも3.3V)。
加えて、細かな消費電力低減のオプションを持っているのが特徴だ。もともとSDRAM自身も、省電力モードと呼ばれる動作モードを搭載している。一番効果が大きいのは「CKE」(Clock Enable)と呼ばれるモードだ。CKEが有効(信号レベルはHigh)になっている間、SDRAMはクロックに同期するかたちでデータの送受信を行なおうとする。そのため、仮にメモリーとの転送が発生していない場合でも、SDRAMはクロックに同期して動作し続けている。
そこで転送が発生しない間は、メモリーコントローラーがCLEを無効(信号レベルLow)にすると、SDRAMは完全に動作を停止する。そのため、待機中の消費電力を抑えられるわけだ。
しかし、この方式で長時間放置すると、DRAMセルの内容が揮発して失われる。そのためリフレッシュのタイミングでCKEを有効にして、明示的にリフレッシュ動作を行なわせる必要があり、ここで多少消費電力が増える。そこで、「セルフリフレッシュ」という方式を併用することで、さらに消費電力を下げることが可能になった。
セルフリフレッシュはSDRAMチップ内部のタイマーを起動させて、一定時間ごとにDRAMセルのリフレッシュをチップ自体に行なわせるというものだ。タイマーを起動する分消費電力は若干増えるが、メモリーコントローラーやメモリーバスは完全に停止できるため、トータルとしての消費電力はさらに下げることが可能となる。
この連載の記事
-
第772回
PC
スーパーコンピューターの系譜 本格稼働で大きく性能を伸ばしたAuroraだが世界一には届かなかった -
第771回
PC
277もの特許を使用して標準化した高速シリアルバスIEEE 1394 消え去ったI/F史 -
第770回
PC
キーボードとマウスをつなぐDINおよびPS/2コネクター 消え去ったI/F史 -
第769回
PC
HDDのコントローラーとI/Fを一体化して爆発的に普及したIDE 消え去ったI/F史 -
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ