次を狙えるビジネスモデルを育てる
まつもと「ここまでブラック★ロックシューター映像化の経緯をお聞きしたわけですが、別のインタビューで安藝社長は、これがビジネスモデルの1つになってしまった時点で2匹目のドジョウは成立しないとも仰っていますよね」
安藝「もう1回ぐらいはマーチャンダイジング向きのIPであれば可能かもしれません。ただ、肝心のユーザーがこのモデルに飽きてしまうことは、大いにあり得ると思いますよ」
まつもと「今回ぶっちゃけて言ってしまうと、宣伝としてDVD自体を配るという、そのキーワードがぱーっと広がったわけですよね。それが当たり前になっちゃうと、効果が薄れていく?」
安藝「かもしれないですね。とはいえ、アニメディアさんにDVDを付けてみて思ったんですけど、アニメのDVDってやっぱり子どもたちは買えないんですよ。仮にお年玉を溜めて『アニメのDVDを買おうと思うんだ』とお母さんに言っても許してもらえないかもしれない(笑)。もう大人でしょ、とか言われてね。
だからアニメディアの大きな購読層である小中学生にとっては、多分ブラック★ロックシューターのDVDは、最初に所有するアニメDVDなんですよね。これは数年後、影響あると思うんですよ」
まつもと「購読層がはっきりしている雑誌をハブにすることで、これから先鋭化する低年齢層と、すでにエッジが立っているコアなオタク層を狙ったわけですね」
安藝「DVDは、Blu-rayに市場を奪われていく身ですが、一定の効果はまだ続くと思います。あるいはそれこそウィンドウとして自覚的に動けば、製作委員会や関係各社は協力すると思うんです。やり方によってはニコニコ動画で流すよりも効果が強い。
コストも、ニコ動で流すのと同じくらい。コンテンツ提供側はマスターを渡すだけだから。あとはその流れで自然に特集をしてもらって、露出がどんどん増えていくという寸法です」
まつもと「メインとされるテレビアニメのビジネスモデルが成立しづらいので、フィルムサイズを小さくしようという取り組みはこれまでもありました。しかし宣伝や集客への答えが見い出せないことが多かったと思います。ブラック★ロックシューターはその1つの解となりますね」
安藝「かもしれないですね。そして僕は、リーチして、早く結論が出なきゃいけないと思っているんですよ。DVDを売って結論が出ます→リクープできました→これはアニメに向いてました――これではやっぱりね、ちょっと遅い。残念ながら、遅いです。もう少し早い段階で、作品に一定の結論付けをさせてあげないといけません。
そのためにはリーチが必要で、ユーザーさんが何らかの判断を作品に下せる状態を作ってあげないと。DVD配布はその手段です。
もっと状況が良いときであれば、自分の思いを信じて2年やります、みたいなことができると思うんですよ。実際過去にはあったでしょう。2年やったら、2年続けた強みって必ず出てきますからね。しかし、今現在の状況で2年続けるのは非常に困難です。
だから今後は、横並びで感触を確かめられるような……週刊少年ジャンプの人気投票システムみたいなものを、アニメの世界にも若干持ち込まないといけないのかなという気がします」
新しいタイプの作り手をどう増やすか?
まつもと「フルサイズのフィルムができるより早い段階で評価の機会を用意する、ということですね。しかし、監督さんはじめ、まだまだクリエイターの中にはテレビアニメをやりたいんだ、という思いを持った方が多いのではないですか?」
安藝「特に制作会社はそうだと思います。テレビアニメをやらないと現状のスタッフが回らないんですよ。また制作陣の育成や制作技術の革新も、テレビアニメ制作を通して行なわれます」
まつもと「スタッフの気持ち以前に、経営的な側面があるわけですね」
安藝「金銭的な問題もありますし、締め切りが刻々と迫ってくるテレビアニメで技を磨き、劇場版アニメでその集大成を見せる。といった構図も強いですよね」
まつもと「そんな中で、単発物であるにもかかわらずブラック★ロックシューターの制作を請けた株式会社Ordet(オース/監修担当の山本寛氏が設立した制作会社)というのは、ある意味特殊事例です。このような動きは、他に広がるのでしょうか」
安藝「いや実は……アニメ制作会社ではオースさんしかツテがなかったんですよ(笑)」
まつもと「えっ!? 意外です」
安藝「製作委員会に出資しても、第三者出資だと基本ブラックボックスなんです。制作側としっかり繋がることって、なかなかないですね。ガンガン積極的にいけば、話は別ですけど。
山本さんとは知り合いを介して既知であったことと、彼の作品を僕自身が好きだったというのが理由です。ファーストオプションとして、オースさんでということで、お話しを持ちかけたら偶然請けてくれた。原作のhukeさんも喜んでくれましたし。
そこに(ビジネスモデルのイノベーション云々などの)深慮遠謀は、恐らくオース側にはなかったと思います。立ち上げて間もない会社で、元請け作品を1本はやりたいというストレートなビジネスとしての欲求と、やるからには批判を恐れずにインパクトの強い作品を触っていきたいというあたりではないでしょうか?
なにより、今回監督をやった吉岡(忍)さん、彼はブラック★ロックシューターが大好きだった。制作現場が盛り上がって、それで請けてしまったというのが真相に近いと思いますよ」
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