ウルトラ・デフレの日本に、”時刻”や”時間”を気にとめず毎日を過ごせる恵まれた人々がそれほど多くいるとは思えないが、腕時計をしない世代は確実に増加している。
大昔、時計は柱の上や、棚/デスクの上には必ず存在した。やがて小型化技術が進んで「懐中時計」の登場となり、時計は初めて”ポケットの中”というモバイル環境世界に登場した。しかし考えてみれば、特殊な事情でもない限り時計が指し示す"時刻"は四六時中眺めているモノではなく、必要な時にだけチラッと見るモノである。時計のサイズを小さく作り変えて、常時腕に装着しておく必然性は高くはなかったはずだ。最初に腕に装着させたきっかけは一体何だったのだろう?
これは、”アクセサリー性”や”オシャレ”、”ステータス”という視点が”腕時計の存在理由”の大きな要素として考えられる。実際、当初は女性向け装身具の一種として登場したようだ。
また、時刻にセンシティブにならざるを得ないビジネスピープルの多くが腕時計をしていた時代と現在との最大の違いは、”携帯電話の存在”だろう。日に何度か時刻を見る必要性に迫られていた人達は、時刻を知るための道具を腕時計から携帯電話に変えた。その結果、腕時計市場が大きくシュリンクし、”腕時計の新しい価値”を学習した多くのメーカーは、”現在時刻を知る”という腕時計本来の機能を2番目、3番目の機能として位置付けた発想の製品を数多く発表している。
イタリアンデザインの腕時計「OPS! Flat」
今回筆者が購入した「OPS! Flat」は、宝飾満載の高価なモノから超チャラいチープモノまで常に商品幅のあるイタリアンデザインの中でも、最も低価格な腕時計だ。
要不要は別にして、ブランド系/貴金属系/宝飾系高級腕時計の価値や価格構造は、ある程度理屈で納得感の得られるモノが多い。一方、時計に必要な基本機能をすべて搭載した”100均”腕時計が登場した現在、”ブランド”と呼べるほどのものではない、デザイン/アイデンティティを売り物にする新進”デザイナーズ・ウォッチ”は購買者の価値観や美的感覚によって大きく左右されるため、価格設定が極めて難しい。
「OPS! Flat」のデザインルーツは、1980年代にカシオやタイメックスが地球規模でマスプロダクションしてきたベストセラーの薄型デジタル腕時計にある。価格帯もそれらにかなり近いところを目指しているように思える。「OPS! Flat」の価格は3990円(購入時)で、結果として”100均”腕時計の約40個分となった。
「戦略的衝動買い」とは?
そもそも「衝動買い」という行動に「戦略」があるとは思えないが、多くの場合、人は衝動買いの理由を後付けで探す必要性に迫られることも多い。
それは時に同居人に対する論理的な言い訳探しだったり、自分自身に対する説得工作であることもある。このコラムでは、筆者が思わず買ってしまったピンからキリまでの商品を読者の方々にご紹介し、読者の早まった行動を抑制したり、時には火に油を注ぐ結果になれば幸いである(連載目次はこちら)。
(次ページへ続く)
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