東京国立博物館 平成館で、10月8日から12月12日まで、光明皇后1250年御遠忌記念・特別展「東大寺大仏-天平の至宝-」が開催される。入場料は一般1500円(学生割引あり)。
高さ約4.6mと巨大な大仏殿前の八角燈籠(国宝)が会場に運び込まれ寺外で初公開されるほか、奈良の大仏にゆかりの深い宝物も並ぶ。奈良からせんとくんが上京し、ダンスを披露したりもするという。
この会場で日本HPのワークステーションが活躍しているのをご存じだろうか。凸版印刷が主催者のひとつ読売新聞社と共同で制作したバーチャルリアリティ(VR)作品を支えるシステムとして、9台のマシンが稼働しているのだ。
奈良時代に聖武天皇と光明皇后の発願により造立された「大仏」(東大寺盧舎那仏像)。このVR作品では、フルHDの4倍となる4Kプロジェクターを使い、全体で14.98m、頭部だけでも5.33mの高さがあるその姿を、約500インチ(幅8.4×高さ6.7m)のスクリーンにほぼ実物大で投影する。
一見すると実写に思えるほどリアリティが高い映像だが、実はフル3D作品。約半年の制作期間を経て、大仏の3Dモデルを作成。大仏の光背を取り除き、普段は見ることのできないうなじの部分を見せたり、大仏の視点から見た本殿の様子が分かるなど、VRならではの特徴も活かした。
さらに現存する資料から、建立当時の東大寺も復元した。本物の大仏殿は、平安時代末期に焼失してしまったが、大仏開眼供養会が実施された天平勝宝4年(752年)4月9日の様子として見せている。星空も計算によって再現し、垂直に投影された3つのプロジェクターで天井方向に投影される。
このVR映像は凸版印刷の持つ「トッパンVRシステム」を活用して制作されたものだ。同社はこれまでも3D CGによって故宮博物館や唐招提寺、ナスカの地上絵のVR化などを行っており、今回で27作品目となる。三次元計測・色彩計測技術を駆使しながら、約1週間かけて取材した素材を活用し、約20名のスタッフの手で実物と見まごう大仏の姿が実現された。
映像は10分程度だが、実際のデータは5GB程度ほど。超高解像度の映像であること考えれば、予想以上に少ない。実は映像のカメラ割りは、コンピュータの演算処理で、再生のたびに作られているのだ。使用されているマシンはxw8600が8台とZ800が1台。高解像度なテクスチャの処理のためにある程度のメモリー容量とハイエンドのビデオカードが必要となるため、必然的にワークステーションのスペックが必要になるという。
9台のマシンのスペックは、完全に統一されているわけではないが、HP xw8600 Workstationを中心とする。CPUにはクアッドコアのXeonをデュアルで搭載(3.16GHzまたは2.83GHz)。メモリーは8GB、ビデオカードはNVIDIAのQuadro FX5600、OSは64bit版のWindows XP Professionalとなる。
1台はアプリケーションマスターとして使い、残り8台のうち4台が正面の投影用のレンダリングノードとして使われている。プロジェクターはソニー製の4Kプロジェクタが使われている。画面は4分割されており、画面1つに対して1台のワークステーションを使用し、それを同期して1枚の画像を作る仕組みだという。
残りの4台は天井への投影用で、プロジェクター4台に対して1台ずつワークステーションが割り当てられている。ここもそれぞれのワークステーションを同期して、1枚の連続した画像になるよう処理している。
気になる製作費は「億は行かないが、数千万の単位」とのこと。凸版印刷では、特別展が終了したあとも、同社シアターで上映したり、インタラクティブ性のある、別のコンテンツとして応用していくことも検討している。また、立体視に関しても技術的には可能だが、忠実な色の再現など、文化財の映像化に必要な要件を整理しながら取り組んでいくという。
大仏の3D映像は第二会場の入り口付近に設けられたシアタースペースで常時再生されている。会場に足を運んだ際には注目してほしい。