デジタルチップだから出る「必死感ある音」を求めて
―― 伴奏は全編nanoloopですよね。つまり、ゲームボーイ音源。
ドッP はい。ボーカロイドの歌を作りながら、nanoloopで曲をつくるんですね。はじめてゲームボーイから完成した曲が流れてきたときは感動的ですよ。
―― 「春休み」でnanoloopを使うまではファミコンの音を再現してたわけですよね。
ドッP 「FamiTrackar」というソフトを使ってたんですね。ファミコンの仕様の範囲だけで音楽がつくれるパソコンのソフトなんですけど。でもやっぱり実際のゲーム機から音を出したい、と思ったんですよ。
―― へえー。楽器としてのゲームボーイ、ということですか。
ドッP 単純に子どものころからゲームが作りたかったんです。なので(パソコンの)ソフトで再現されるより、オリジナルの実機で音を鳴らしたいというのがあって。
―― ファミコンからゲームボーイに移ることで音色なんかも変わるんですか?
ドッP 音数が少ないことは同じです。ファミコンの音というのはたしか「矩形波2つ、三角波1つ、ノイズ」。ゲームボーイは「矩形波2つ、波形メモリ音源1つ、ノイズ」。大きな違いはそれくらいで。
―― それにしてはなぜかファミコン音源の方が丸いかな、と思ったんですが。
ドッP あー。それはまさに実機じゃないからなのかもしれません。ゲームボーイだと、どうしても頭が合わないとか、タイミングがずれちゃうこともあるんですよ。nanoloopそのものにもバグがあって、使えないシーケンスパターンがあったりして。そこを補って、他のことをせざるを得なかったり。
―― そうまでして「生のデジタルチップ音源」を求めるのは理由があるんですか。
ドッP もともとのゲームボーイってもう中古じゃないと手に入らないわけですよね。それはいつかなくなるのかな、って漠然と思ってて。似たような音は「楽器」として考えたら、ないですよね。それに8ビットとか16ビットをギリギリの性能まで使っていくと、なんかこう「必死感ある音」というのができないかな、と思うんです。
―― 失われる音ってことですね。だったら楽器作っちゃおうとか思いません?
ドッP 実は、ビープ音でドレミファソを鳴らすところまではやったんですけど。そのあと、シーケンサー的なしくみをつくるのが難しくて。時間だけが過ぎちゃってますね。
―― 楽器をつくろうとすると、「任天堂のゲーム」というのは意識するわけですよね、音として。「フェンダーのギター」のように。
ドッP セガの音と考えてみると、メガドライブ以降はほとんどFM音源なんですよ。そうなってしまうと「ならでは」というより、どんなところでも聞こえる音になってしまいますよね。その意味でファミコンっぽい、ゲームボーイっぽい、というのはあったと思うんです。