初音ミクの声には「手くせ」が出るんですよね
―― 本題の「しろいそら」です。この歌は「ナマっぽい」んですよ。チップチューン※に女性の歌手を合せたものとは革命的にちがうという気がして。
ドッP チップチューンの音っていうのはすごく強いので、他の音を混ぜるのが難しいんですよ。だからnanoloopを使った、ということもありましたね。
―― nanoloopにあわせて初音ミクを調整することもあるんですか?
ドッP 逆ですね。ボーカルを思うとおりに作ってから、伴奏をそちらにあわせる。ボーカルの音域とかぶらないよう、「RENOISE」※というソフトを使い、イコライザーでゲームボーイの音を削って。
※ チップチューン : デジタルチップで出せる音色から作る、ピコピコ、バチバチした音楽のこと。ファミコンや初期のパソコンなど、1980年代に作られたデジタル機器に内蔵されていたチップを音のもとにすることが多い。その音をパソコンなどで再現したものを含める場合もある
※ RENOISE : 音声データにエフェクトをかけて曲をつくる、サンプラータイプの作曲ソフト。音符の代わりに「C4」などの音名を入力するのが特徴
―― あ、いわゆるフツーのDAW(パソコンで曲を作る)ソフトは使わないんですね。
ドッP パソコンが非力なので、動作が重くて……。
―― 初音ミクをDAW上で「調教」している人も多いみたいですけど。
ドッP うーん。ぼくの場合はほとんどボーカロイドエディター(歌声ソフトの基本的な編集機能)だけです。もちろん後からエフェクトなんかはつけますけど。
―― 声らしく聞こえさせるため、重要なところを教えてもらってもいいですか?
ドッP たとえば「ダイナミクス」というパラメーターがあるんですけど。
―― えーと。それは何をいじるものなんでしょう。
ドッP 音量の大小、声の抑揚をつけるところです。もともとボーカロイドでは一音一音にはじめからかっちりした抑揚がついているんですけど、それをマウスで山なりの線を描くようにして調整していくんですね。こんな風に。(Skypeで操作画面を転送する)
―― わ、すごい! 本当に絵を描くような感じですね。これで感情をつけていくと。慣れないと指先が震えて正確には描けなそうな気もしますけど。
ドッP そうですね、むしろ「手くせ」が音に出てくるかもしれないという狙いもありました。もともとはドット絵を描いていたので、そのあたりは慣れてたんですけど。
―― へえーっ。手で感情がつくって、なんか本当にピアノみたいな楽器を弾いてるみたいですね。いや、絵を描いてる感じなのかな……えーと。よくわからなくなってきました。
ドッP あとは「ブレシネス」ですね。息っぽさ、です。「うれーしくってえー」というフレーズだと、最後のところで息を吐いたようなサウンドが入ってるんです。
―― あ、ハミングのところにもそれが入ってるんですね。んーんーんー、という。
ドッP はい。「ん」という音に、ブレシネスを入れる。息がもれているような音をつけ、そこにダイナミクスで抑揚をつける。それでちょっとハミングっぽくなるといいなっていう。