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山谷剛史の「中国IT小話」 第46回

暗雲漂う中国での地デジ化

2009年06月02日 16時00分更新

文● 山谷剛史

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海賊版の存在がテレビに影響

街の海賊版CD、DVDショップ

街の海賊版CD、DVDショップ

 ニュースは、中国中央電視台(CCTV)の全国ニュースを見る人もいるが、どちらかといえば地元、たとえば上海人なら上海のニュースを見る人のほうが多いように感じる。

 政治チックなある意味難しい話題は敢えて見ずに、地元の土地の地下鉄が開通したとか、傷害事件が起きたとか、そういった身近な話に興味を持つわけだ。

 ただ、筆者の周囲のご年配の方を見る限り、ニュースは新聞を隅々まで読んでいるためテレビがなくても問題はなさそうだ。

 もちろん、インターネットの普及の影響も大きい。インターネット利用者数は今年3月末には3億1600万人にも達しているので、インターネットのほうが面白いと感じ、テレビを見ない人の数は無視できないだろう。

 インターネットの動画共有サイトには、もちろん海賊版動画も溢れているが、一方で、正面きって批判できないからこそのブラックユーモアたっぷりの風刺動画をはじめ、ウケを狙った自分撮り動画など、面白い動画かこれでもかとある。そして毎日のように創り出されている。

 以上が中国のテレビが「つまらない」と中国人に思われている主な理由だが、何よりも海賊版の問題が大きい。

 中国と言えば海賊版を思い浮かべる人は少なくないが、テレビコンテンツにもまた海賊版がある。高級住宅地から貧しい出稼ぎ労働者の宿が集中する地域まで、余すところなくCD、DVDショップがあり、そこでは過去のテレビドラマや人気番組を録画した海賊版がこれでもかと売っている。

 ドラマが見たければ、再放送第1回を待つ必要などなく、ちょっと外に出て買ってくれば見られる。そんな状況なので、中国人消費者がタイムラグのある海賊版で妥協すれば、敢えてリアルタイムで見る必要もなく、地デジチューナーを購入する必要もない。


デジタル化で受信料が値上がり

地デジメニュー画面

地デジメニュー画面

 中国において地デジを見るためのハードウェアは、ほぼ「テレビ+外付けチューナー」の組み合わせだ。各省で地デジの普及度が全く異なるため、メーカーも地デジチューナーを内蔵していないテレビを多く出荷し、さらに中国人はモノ持ちがいいためテレビを買い換えないことなどから、地デジは外付けチューナーを付けるのが基本となったのだろう。

 もちろんテレビメーカーもネット人気を考え、ネットも見られるテレビを提案。テレビメーカー各社が日本で言えば「アクトビラ」のようなサイトを開設している。

 中国のテレビは有料(しかもCMが長い)だが、地デジへの移行でアナログ放送時よりもさらに視聴料金が値上がりする。

 地域差はあるが、大雑把にいえば月20元が月30元に、日本人の感覚で言えば月2000円が月3000円に負担が増える。もちろん地デジチューナーは買うか、月額いくらかでレンタルしなくてはならない。

 さらに地域によってだが、見られるチャンネル数が減るところまである。海賊版CD、DVDショップがどこにでもあり、DVDプレーヤーが気軽に買える今、敢えて地デジに移行しない消費者がいるのも納得である。

地デジチューナーを「腐敗の産物」と非難するブログ

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 今、農村では貧しい農村戸籍の人々向けに、政府により13%オフで家電が購入できるキャンペーン「家電下郷」が行なわれている。

 買ったところでアナログ放送はじきに停波。チューナーを買うのも一苦労で、おまけに地デジとなれば受信料値上げという状況。果たして農村の消費者がテレビに食いつくのか気になるところである。

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山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)

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