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ゲーム会社営業担当者の1日

2001年09月01日 22時16分更新

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営業マンのリーサルウェポン

 リーサルウェポンの名は……“帰宅”。そう、家に帰れば金はかからない。予定外の出費に傷ついた心を自宅で癒した上で、「営業はあんまり早く帰ってくるな令」の解除される午後6時30分過ぎごろに、また会社に行けばOKだ。まさに最善策!
 そして場合によっては、もう1つのリーサルウェポン、営業における核兵器、いや、最強最悪の生物兵器といってもいいほどの破壊力を有するプロジェクトの始動も検討する。“直帰”である。

 「いやあ、営業先で誘われてしまって、どうしても断れないんで、今日はこのまま店長さんと一緒にメシ食いに行ってきます」

とか

 「いやあ、取引先から急に携帯に電話が入って、午後7時にアポが入ってしまったんですよ。終わるのは午後9時くらいになると思いますんで、今日は直帰しますぅ」

 なんて電話を自宅からするのだ。ここで、間違っても自宅の電話を使用してはいけない。固定電話では音がクリア過ぎて、怪しまれる可能性がある。また、電話中に宅急便でも届いて、「ピンポーン」とか鳴らされたら大変なことになる。佐川○便要注意!! ここは携帯電話の使用か、もしくは自宅近くの電話ボックスからの連絡が望ましい。

 ちなみに僕は一度、この最終兵器を利用して平日にディズニーランドへ遊びに行ったことがある。もちろん17時からでちょっとお得なスターライトパスポートだ。このとき、園内のどこにいても楽しげなディズニーミュージックが聞こえてしまうため、非常に電話しづらかった、という苦い思い出がある。

 教訓。会社をさぼってテーマパークに行くのは止めよう! でも、勇気のある人はぜひ、「出張がてらにユニバーサルスタジオでハリウッド気分を満喫!大作戦」を敢行してみてほしい。

 話がそれたが、この最終兵器はむやみに使ってはいけない。小学校並みに(小学校並み「の」?)規則の多い我が社で“直帰”が目立てば、必ずや「直帰禁止令」が制定・施行されるであろうことは目に見えている。そのため営業部員同士の暗黙の了解で、最終兵器の使用は2週間に1回程度までとされていた。それを超えると、先輩社員から厳しい指導を頂くことになるのだ。それでもあまりにもその行いが目に余る者に対しては「エロ画像の刑」が待っている。一見嬉しいお仕置きのようだが、自分の知らない間にHDDの空き領域一杯にエロ画像が詰めこまれてしまうのはウィルス並に恐ろしい。しかも会社が会社だけに、無意味にPCに詳しい奴が多く、わけのわからないテクニックを使って他人のHDDに大量のデータを流し込んでくるのだ(僕がPCをよく知らなかっただけかもしれないが……)。

 社会人としての厳しさ、そしてルールを守ることの重要さを、僕はこのとき初めて学んだ。

イメージ画像
※写真はイメージです。実在するショップとは関係ありません

 このようにして僕は毎日、一生懸命社会と闘っていた。上辺だけ見たら、人は僕のことをダメサラリーマンと呼ぶかもしれない。確かにそのとおりだ……。あまり否定できない。でも、そんな僕だってがんばってる時だってあったのだ(たまに……)。いつかみんながあっと言うような、そんなスーパー営業マンになってやるっ! という野心がこの頃にはあった(ような気がする……)。どんなにソフトが売れなかろうが、どんなにボーナスが少なかろうが、僕はゲームメーカーの営業マン。社会人1年生の若造だった僕は「いつか自分の営業力で100万本タイトルを生み出すんだ!」という夢を胸に秘め、コツコツと営業活動を続けていくのだった。

追伸:
その後しばらくして、100万本とか売れるようなタイトルは、営業がよいだけではなく、ソフト自体が面白くなければ不可能である、という当然の事実に気づいた。そしてそれと同時に、おもしろいソフトをつくるのは僕の会社ではまず不可能だ、ということも認識した。「もしかしたら自分の選んだ会社は間違っていたのか?」そんな疑問を抱き始めたときにはすでに手遅れで、水面下でこの会社の経営は次第に傾いていたのであった……。

【筆者プロフィール】高田哲弘氏。都内某大学を卒業後、とある中堅ゲ ーム会社に誤って入社し、営業部に配属されて過酷な日々を過ごす。その2年後 には早くも会社の将来に絶望を感じ、就職活動を開始。別のゲーム会社にて採用 され、また誤って入社してしまう。そしてそこでも会社の将来に絶望を感じた が、時すでに遅く、会社が倒産するという事態を迎えるハメに。そして現在、な んの因果かまたゲーム業界に近い会社に勤務している。しかしやはり過酷具合は 変わらず、現在は長期就職活動中。



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